ポンコツ山田.com

漫画の話です。

2024-01-01から1年間の記事一覧

熱で夢はもう一度花開く さあその筆をとれ『モノクロのふたり』の話

母が死んだあの日から、夢を諦め堅実に生きることにした。 不動花壱は絵が好きだった。上手だった。将来はそれで食べていきたいと思っていた。でも、一人で自分たち兄妹を育ててくれた母が死んだ15歳のあの日、彼は筆を折った。妹を育てるため、勉強し、バ…

『その着せ替え人形は恋をする』五条のクソデカ感情とその陰に隠れていたあの気持ちの話

14巻が発売された『その着せ替え人形は恋をする』。その着せ替え人形は恋をする 14巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)作者:福田晋一スクウェア・エニックスAmazon 13巻後半での、冬コミの盛り上がりと裏腹の五条の落ち込みが不安を誘っていましたが、…

欲望は声に出さなきゃかなわない!己の「好き」を叫べ!!『君にかわいいと叫びたい』の話

桐山はある新入社員を見て、生まれて初めて驚愕で腰を抜かした。その女性社員・南ことみは、自分が愛してやまないヴィンテージドール、てぃあらちゃんに瓜二つだったのだ。 中野ブロードウェイで運命の出会いを果たしたてぃあらちゃんをお迎えして以来、単調…

科学の知識でおいしいごはんを! 『ヤンキー君と科学ごはん』の話

品行方正な高校の中で、一人目立つヤンキー高校生・犬飼千秋。一年一学期の内に留年リストに入れられかねない彼をどうにかしろと、担任である化学教師・猫村蘭にお達しが下る。何とか補習に出席させるも千秋は「科学なんて役に立たねーだろ」と吠えるのだが…

男四人廃墟に突撃 何も起きないはずがなく…『ゾゾゾ変』の話

「ゾゾゾ」。それは心霊スポットやいわくつきの廃墟を探索して、ホラーポータルサイトを作り上げようというYouTubeチャンネル。落合、皆口、内田、長尾らが怪しい場所に突撃しては怪しいものを探し、撮れ高が悪ければ誰か一人を置き去りにすることも…

食らえ! そして至れ! ドカ食いこそ至高の愉悦『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』の話

ドカ食い。それは生きる喜び。 人は生きていればお腹が空き、お腹が空けば何か食べなければいけない。お腹の隙間を余すところなく埋めるように食らい、ただただ目の前の食べ物を貪り尽くす。 ドカ食い。それは「至る」喜び。 満腹と高血糖の果てに包まれる恍…

彼の絵は彼女の夢を蘇らせ、彼女の熱は彼に絵を描かせる『モノクロのふたり』の話

母が死んだあの日から、夢を諦め堅実に生きることにした。 不動花壱は絵が好きだった。上手だった。将来はそれで食べていきたいと思っていた。でも、一人で自分たち兄妹を育ててくれた母が死んだ15歳のあの日、彼は筆を折った。妹を育てるため、勉強し、バ…

『2.5次元の誘惑』『モルモットの神絵師』作者と鑑賞者の間にある動的な営みの話

新刊にてまゆら復活編に一区切りがついた『2.5次元の誘惑』。2.5次元の誘惑 21 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:橋本悠集英社Amazon 区切りをつけつつ、新キャラを出しつつ、さらにガチホラー話も入れつつ。ガチでホラーにふっててとてもいいですね。もっと…

『アオアシ』セリフ内のカッコ書きによる、没入感の消失の話

新刊が出てやっぱり面白い『アオアシ』。ゲームの中で挫折と成長を重ねていく姿は見ていてワクワクしますね。昨日もつい既刊を読み返してしまい、寝不足気味です。アオアシ(37) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazon さて、面白い作品とはいえ、…

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『きのう何食べた?』ケンジみたいになれたシロさんの17年の変化の話

最新刊の23巻で、まさかのシロさんとケンジの結婚式を挙行した『きのう何食べた?』。きのう何食べた?(23) (モーニングコミックス)作者:よしながふみ講談社Amazon 雑誌連載時に読んだときは、シロさんがぶちぎれるんじゃないかと本気で心配したのは以…

錦久家の日常はコミカルでカラフルでリズミカルで 『ザ・キンクス』の話

ザ・キンクス(2) (コミックDAYSコミックス)作者:榎本俊二講談社Amazon というわけで、榎本俊二先生の新作『ザ・キンクス』のレビューです。 小説家の隅夫、専業主婦の栗子、女子中学生の茂千(モチ)に、男子小学生の寸助。錦久家の四人家族が織りな…

『モルモットの神絵師』コミュニケーションの本質と、漫画を描くことと漫画の感想を書くことの意味の話

引き続き『モルモットの神絵師』を読んでのお話。 shonenjumpplus.com 本作の主人公・岡太朗は、インフルエンサーのチハルに監禁され、「人のため」の絵と「自分のため」の絵の2枚を描きあげた後、チハルが「『自分のため』に描いた絵の方が美しい」、「『…

『モルモットの神絵師』モルモット/人間を見る目と、「絵を描くこと」がつないだものの話

本日(令和6年9月12日)付でジャンプ+に掲載された、中山敦支先生の読み切り『モルモットの神絵師』。 shonenjumpplus.com これがたいそう面白かったのです。 物語は、世間で人気のあるものを徹底的にリサーチして、「いいね」を稼ぎ、フォロワーを稼ぎ…

好きなものを描け! そして食え! 芸術はパクパクだ!『馬刺しが食べたい』の話

テーマが「自分の好きなもの」だっただから他意なくそれを描いた。それだけのはずだった。なのになぜこんなことに。 梅野かえでが描いた馬刺しの絵は、見事最優秀賞に輝いた。その絵が校内に飾られたことで、彼女の馬刺し好きは学校中に広まってしまった。華…

『ヤンキー君と科学ごはん』「当たり前」に隠された理屈の面白さの話

現在「となりのヤングジャンプ」で連載中の『ヤンキー君と科学ごはん』。今まで特に触れてきてませんが、現在連載中で既刊5巻以内のおすすめ作品を問われたら、五指に入るくらいには好きなんですよね。ヤンキー君と科学ごはん 1 (ヤングジャンプコミックスD…

アニメ『ワンダンス』に期待する「見てて気持ちのいい」ダンスの話

アフタヌーンで連載中の『ワンダンス』がアニメ化という報が飛び込んできた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。 wandance.asmik-ace.co.jp 本作は、自身の吃音もあってコミュニケーションに自信のなかったカボこと小谷花木が、高校に入学し、ストリート…

漫画のコマとアニメのカット 時間のブランクとそれを削ぎ落した『THE FIRST SLAM DUNK』の話

先日『THE FIRST SLAM DUNK』の記事(時間軸とシームレス 時間を操られた私たちが呑み込まれる『THE FIRST SLAM DUNK』の世界の話 - ポンコツ山田.com)を書いたときに、アニメのカットの時間の流れ方について色々考えましたが、それを漫画のコマと比してみ…

時間軸とシームレス 時間を操られた私たちが呑み込まれる『THE FIRST SLAM DUNK』の世界の話

2022年の公開から今になってようやくNetflixで視聴した『THE FIRST SLAM DUNK』。 なぜ今になって観たかと言えば、先月ブログで『逃げ上手の若君』のアニメと漫画での情報量と時間の話を書いたとき、その観点に絡めて2008年に私が書いた『SLAM DUNK…

●●●●●にある何か それを追って彼は 私は 『近畿地方のある場所について』の話

●●●●●。それは近畿地方のとある山を中心とした一体を指す地名です。そこにはいくつかの心霊スポットが存在しているが、どうやら調べてみると、未解決の行方不明事件や学生の集団ヒステリー事件、YouTuberの奇妙な放送事故、異常な子供の遊びなど、不可解な出…

『逃げ上手の若君』アニメでわかる、漫画にこめられた濃密な情報量の話

『逃げ上手の若君』のアニメが始まり、連載デビュー作から3作全てがアニメ化という偉業をあっさり成し遂げている松井優征先生、やっばいすね。逃げ上手の若君 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:松井優征集英社Amazon そのアニメを視聴したのですが、1話…

『だんドーン』「呪術師」吉田松陰と受け継がれる呪いの話

先週発売された2024年32号のモーニングに掲載された、泰三子先生の『だんドーン』の番外編、「番外長州編 松の下の若人たち」。長州にて松下村塾を開き、志士たちの師として明治維新に大きな影響を与えた吉田松陰と、その弟子の桂小五郎を主人公に描い…

『富めるひと』『遠い日の陽』ひとの抱えるやましさとそれを薄れさせる別の価値の話

以前も別の読み切りについて感想を書いた横谷加奈子先生の新作読み切り『富めるひと』。 comic-days.com 9歳のときに余命一週間と突如宣告された自分のため、3億円かかる手術の費用をどうにかして賄おうと貧しい両親が宝くじを買ったらまさかの10億円当…

『好きな子がめがねを忘れた』二人が贈り合った「祝福」の意味とそれが込められた大切なものの話

ついに最終巻が発売された『好きな子がめがねを忘れた』。好きな子がめがねを忘れた 12巻特装版 小冊子付き (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)作者:藤近小梅スクウェア・エニックスAmazon 最後まで口から砂糖を詰め込まれるような甘さに、用法用量を守り…

愛を何度も書き直せ! 心情を読解した先にあるもの『超客観的基礎ラブロマンス概論』の話

ラブレターの書き方教えて。 高校で現代文を教える教師・通称タナセンのもとに、教え子の女子高生・海堀がやってきて、そう頼み込んだ。突飛な頼みごとに面食らい、面倒ごとはゴメンと即座に断るタナセンだが、若さゆえの粘り腰ですがる彼女に根負けして添削…

元神様で今は弁当売り 『邪神の弁当屋さん』の話

彼女の名はレイニー。元神の現弁当屋さん。30年前に彼女が原因で戦争が起きたことの罰にと、彼女は人間になってお弁当を売ることにしたのだ。今日も彼女はお弁当を作り、売る。愚かな人の営みを面白いと思いながら… https://yanmaga.jp/comics/%E9%82%AA%E7%…

『その着せ替え人形は恋をする』(哀れにも)本当の意味でハニエルとなった海夢の話

まだしつこく『着せ恋』の話。五条君の後悔については前回こってり与太話をしましたが、今回はそのときの海夢サイドの話。あのときの海夢て、美しくも悲しい存在だったんじゃねという話。その着せ替え人形は恋をする 13巻 (デジタル版ヤングガンガンコミック…

『その着せ替え人形は恋をする』五条の二つの後悔と、現実になってしまった「手の届かないもの」の話

13巻での初コミケ、海夢のハニエルコスプレが大いに会場を沸かせた中、その衣装の制作者である五条は、一人浮かない顔をしていました。その着せ替え人形は恋をする 13巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)作者:福田晋一スクウェア・エニックスAmazon …

『その着せ替え人形は恋をする』一目惚れへの五条の挑戦と、今更気付いたものの話

13巻でコミケでのコスプレデビューを果たした海夢と五条。 いつもどおり、五条の作ってくれた最高の衣装を着て最高の気分をまとい、囲み撮影の終わらせ時もわからなくなるほどの驚異的な盛り上がりを見せた海夢とは裏腹に、その衣装を作り、第三者からも大…

人間よ、モテたければ生物学を学べ! 『あくまでクジャクの話です。』の話

男らしくないことがコンプレックスの高校教師・久慈は、まさに「男らしくないから」と恋人に振られたばかり。もののはずみでそれが生徒に広まってしまい、デブ・ガリ・オタの三拍子そろった男子生徒らから「恋愛弱者男子を救う会」の顧問になってくれないか…