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漫画の話です。

元神様で今は弁当売り 『邪神の弁当屋さん』の話

 彼女の名はレイニー。元神の現弁当屋さん。30年前に彼女が原因で戦争が起きたことの罰にと、彼女は人間になってお弁当を売ることにしたのだ。今日も彼女はお弁当を作り、売る。愚かな人の営みを面白いと思いながら…
yanmaga.jp
 ということで、ヤンマガwebの1話目連載コンペの一作品、イシコ先生の『邪神の弁当屋さん』の感想です。
 元Twitterのおすすめで流れてきて試しに読んでみたら、とても私好みの作品でした。意外に元Twitterのおすすめは侮れない。

 物語の始まりは冒頭のとおり。実りと死を司る神ソランジェとして北の国で崇拝されていた彼女でしたが、その怪しげな見た目のせいで他国では邪神として恐れられており、それが原因で戦争が起こってしまったのです。戦争は終わったものの、それを引き起こして罰として彼女は、レイニーという名の人間となり、再び神に戻るまで善行を積むことにしたのです。
 人間として生きるために選んだ職業は弁当屋さん。なぜそれか。いわく「隙間を埋めるのです 色んな形の食べ物を 詰めて詰めて 同じ型にきれいに納めるのが良いのです」。
 このわかるようなわからないような説明。これが私の心にヒットしました。なぜって、すごく神様っぽいじゃないですか。人間には計り知れない理由で面白がるこの感じ。
 そもそも物語が、「高さを出す事 隙間を埋める事 丸い形も歪な形も 型に入れば同じ事」という彼女なりのお弁当作りのポリシーから始まります。ほら、もうわかるようなわからないような。
 話を読んでいけば、これが彼女の人間観からきているであろうことがわかるのですが、「隙間を埋める」や「型に入れば同じ」というのが、彼女が人をモノとして見ているというか、人間味を感じなくて、ああ彼女は元神様なんだなと思えるのです。

 人を超えた存在が人の営みを観察しながら、「一日一善をモットー」に人として生きる。言ってみれば、上からの視線と地上からの視線で同時に見ているように彼女は暮らしているので、その目線で語られる物語にウェットさがなく、クールな乾きがあります。要は私がそういう空気の作品が好きってことなんですよね。他人のことは所詮他人事、元神として面白がる対象でしかない、とでも言いますか、彼女が何を考えているかがよくわからなくても、それが不快じゃない。

 デフォルメの効いたシンプルな絵なのも、乾いたポップさがあって作風に合いますね。特にレイニーが基本的に簡素な笑顔で、ほとんどそれしかないから逆に無表情。ちゃんと感情を顔に表す生まれながらの人間たちと対比が生まれます。

 上でも書いたように、この作品は1話目連載コンペの対象作品なので、掲載話の中には、現時点ではただ置かれているだけの布石がいくつも登場します。レイニーの同居人とは誰なのかとか、レイニーは神様の前は何だったのかとか。
 連載化すればそんな布石たちもちゃんと活きてくるんだろうなと思うと、ぜひ連載を勝ち取ってほしいですね。推したい。

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