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漫画の話です。

『好きな子がめがねを忘れた』二人が贈り合った「祝福」の意味とそれが込められた大切なものの話

 ついに最終巻が発売された『好きな子がめがねを忘れた』。

 最後まで口から砂糖を詰め込まれるような甘さに、用法用量を守りつつ少しずつ摂取しましたが、大団円に山田さんもニッコリ。特典小冊子の書き下ろしで更にニッコリです。

 さて最終巻で特にオッと思ったのは、104話以降に登場した「祝福」という言葉。なぜって、11巻発売時に私が、まさにその言葉をキーワードにブログを書いたことがあったから。
yamada10-07.hateblo.jp
 「お、これはひょっとして拙ブログを藤近先生が読んでくださって、その影響でこの言葉を使ったんじゃなかろうかゲッヘッヘ」と思い上がりたい気持ちはグッと抑えて、改めてこの「祝福」について考えてみたいと思います。

小村くんの祝福を受けためがね

 この言葉が初めて登場したのは、上記のとおり最終巻の第104話。

(12巻 p60)
 三重さんが、今自分がかけているめがねを「小村くんの祝福を受けためがね」と表現しているシーンです。
 で、このめがねがどんなめがねかと言えば、三重さんが小村くんから告白されるときにかけていためがね。もっと言えば、告白をされるときに小村くんにかけてもらっためがねです。10巻95話のことですね。
 きちんと顔を見て告白したいからと、日を改めた先のまさにこの日、三重さんは案の定というかなんというか、朝にめがねを壊し、裸眼で登校する羽目になりました。ですが、従前小村くんに予備の眼鏡を預けていたことが幸いし、再度日を改める必要もなく、放課後に予備の眼鏡を受け取って、無事告白と相成りました。
 では、その一連のいったい何が祝福なのでしょう。

「祝福」が贈るメッセージ

 私は上記の記事で「祝福」について、

三重さんが小村くんからもらった「ありのままのあなたでいい」という祝福

『好きな子がめがねを忘れた』自信がなくて変化が怖い二人と、「そのままのあなたでいい」と祝福する二人の話 - ポンコツ山田.com

今の小村くんはそのままでいいという、彼女からの祝福

『好きな子がめがねを忘れた』自信がなくて変化が怖い二人と、「そのままのあなたでいい」と祝福する二人の話 - ポンコツ山田.com

 と書きました。
 端的に言えば、そのままのあなたすべてを肯定するのが祝福である、ということです。いいところがあるから、いいことをしてくれたから、というのではなく、あなたがあなたであることが素晴らしく、あなたがあなたであることをまるごと受け容れる、という全肯定。
 もともと小村くんと三重さんは自己肯定感の低い人間でした。でも、弱いところ、醜いところ、愚かなところも肯定するというメッセージを、お互いがお互いに贈り合ったため、二人は強く惹かれ合ったのです。
 あなたのすべてを肯定するメッセージこそ「祝福」です。

「祝福」を贈り合った二人は

 ここで告白のシーンに戻りましょう。二人きりの放課後の教室、小村くんは言いました。

…俺もずっと自信がなくて こんな俺が三重さんと…いいのかなって思ってた
…でも…三重さんが俺に自信をくれて 俺は俺のままでいいって思えたんだ
…俺… そのままの三重さんがいいよ
(10巻 p139,140)

 これまでの色々で三重さんから自信をもらい、「俺は俺のままでいいと思え」るようになった、つまり「祝福」を受けていた小村くんは、それを表明した言葉に重ねて「そのままの三重さんでいいよ」と彼女にも祝福のメッセージを送ります。
 そして、預かっていためがねを彼女に差し出し、「顔 見せて」と告げるのです。

(10巻 p144)
 恥ずかしさと不安に俯いていた三重さんですが、小村くん手ずからめがねをかけてもらい

 顔を上げて、そのめがね越しに小村くんを真っ直ぐ見つめるのです。
 今まであれだけ自己肯定感の低かった小村くんは、自分の目を見てほしい/あなたの目を見たいというメッセージを発せるほどに自信を持つことができ、同時に三重さんも、まったく同じメッセージを返せるくらいの自信を持つことができました。
 自分を肯定してくれた誰かのおかげで自分を好きになれる、自信を持てる。弱いところも醜いところもあっていいと思える。それでもいいと言ってくれるあなたがいるから。それが「祝福」。
 その象徴的な出来事が、小村くんがめがねをかけてあげたことであり、すなわち「小村くんの祝福を受けためがね」だと言えるでしょう。

三重さんの祝福を受けたストラップ

 さて、三重さんは「祝福」を受けた象徴をめがねに見出しましたが、一方小村くんはどうでしょうか。
 彼は自身の受験を前に、お守りとして身に付ける「祝福」として、くらげのストラップを選びました。

(12巻 p78)
 7巻で水族館デートをしたときに、三重さんが買ってくれたものですね。
 なぜこれが「祝福」になるかと言えば、

つくづく俺は面倒な奴だと思う 頑張ろうって決めたのに 今度は本当に頑張っていいのか不安になって
でももう大丈夫だ
何もない俺のままでいいって思えたから
(7巻 p92~94)

 と小村くんが思えたのが、まさにその水族館デート、くらげの水槽の前だったから。
 「無になれる」こと(ゲーセンのコインゲーム等)が趣味という自分に引け目を感じていた小村くんでしたが、三重さんがくらげが好きな理由もまさかの「見てて無になれるから」というもの。その言葉に、自分を卑下しなくもいいのだと救われたから、小村くんは「何もない俺のままでいいって思えた」し、勇気を出して三重さんの手を握ることもできたのです。
 三重さんが意識したものではなくとも、彼女の言葉から「祝福」を受けとった小村くんが、くらげのストラップをお守りに選んだのは当然のことと言えるでしょう。アイスの棒や友チョコの包み紙よりもずっと明確に、肯定のメッセージがあります。



 ということで、「祝福」という言葉を軸に、二人の関係を洗いなおしてみました。
 お互いがどうしてお互いに惹かれたのか。それは、お互いがお互いを「祝福」したから。あなたはあなたのままで素晴らしいのだと肯定してくれたから。
 そりゃあいいカップルになりますよ。特典小冊子の表紙がウェディングドレスになりますよ。末永く爆発してほしいですよ。
 まったく、ハッピーエンドは最高だな!

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