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漫画の話です。

男四人廃墟に突撃 何も起きないはずがなく…『ゾゾゾ変』の話

 「ゾゾゾ」。それは心霊スポットやいわくつきの廃墟を探索して、ホラーポータルサイトを作り上げようというYouTubeチャンネル。落合、皆口、内田、長尾らが怪しい場所に突撃しては怪しいものを探し、撮れ高が悪ければ誰か一人を置き去りにすることも厭わない。そんな彼らが何か怪しいものに出遭わないはずもなく……

 ということで、界隈でコアな人気を誇るホラーYouTubeチャンネル、「ゾゾゾ」を原作として、タダノなつ先生がコミカライズした『ゾゾゾ変』のレビューです。
 初めに言っておくと、私はYouTubeチャンネル、本家「ゾゾゾ」を視聴していないので、漫画『ゾゾゾ変』のみを読んでのレビューとなりますが、これが動画を視聴してなくてもまったく問題なく面白いのですな。
 
 本家を視聴してない人間がなんでコミカライズを買うのかと思われる向きもあるでしょうが、それはもともと私がタダノ先生のファンだったから。作者買いです。ちょうどホラーの漫画や小説を読んでいた時期でもあったので、タイミングですね。
 タダノ先生といえば『ゆくゆくふたり』や『束の間の一花』など、コメディやシリアスで味付けしたヒューマンドラマを描くイメージだったので、ここでホラーとはかなり意外。でもそういえばSCP関係で読み切り一本描いていたので(SCP-040-JP「ねこですよろしくおねがいします」)、そういう下地はあったのかな?
www.pixiv.net

 ま、それはともかく『ゾゾゾ変』ですが、体裁は上記のとおり、ホラースポット突撃系YouTubeチャンネルのコミカライズ。チャンネルを企画した皆口が、本業の上司の落合を半ば騙して撮影に連れ出し、日本各地(主に関東圏?)のホラースポットに突撃します。
 ホラーチャンネルを元ネタにした漫画ですので、肝はやはり読んでて怖いかどうかなのですが、安心してください、ちゃんと怖い。
 怖さにも、ジャンプスケアやグロテスクさなど種類はありますが、この漫画の怖さは、そこになにか“いるような気がする”這い寄るような不穏な怖さ。ここに何がいるのか、何もいないのか。何もいるはずないけれど、何かいるような気がしてならない、脇に汗がにじむような嫌な怖さ。

 もともとの動画がそうなのか、基本的にはおちゃらけた、ダラダラした空気でスポットには潜入するのですが、いざ足を踏み入れるとそこはまるで異界。一変した空気にそれまでの笑顔を忘れて、落合たちは真っ暗な中を恐る恐る進みます。手元のライトから延びる光の輪の外側は、鼻をつままれてもわからないような闇。揺れる草木も、小動物の物音も、彼らを驚かせるには十分です。でも、気のせいではない、自分たちのものではない人の声、足音、人影。それらは確かに感じられて、柳が正体とはとても思えない、不確かな何かがいる気がしてならないのです。

 この、登場人物が恐怖を感じている描写と、その恐怖をもたらしているなにがしかの演出が絶妙。話し声や物音は耳にするのにそれを発生されているものは見えない。嫌な気配だけがにじり寄ってきます。
 潜入中を描いている紙面は暗く、何が描かれているかも少々わかりづらいほど。そんな暗闇の中に浮かび上がる人影は、「あれ、もしかして、見えてます?」と落合らが実際に目にしていることもあれば、読者にだけ見えていることもある。ナニモノかの気配は大げさに現れることなく、落合らのかたわらにそっと近づいては、ふっと消えてしまう。読者の方もさらっと読み流していては見逃してしまう程度に、何の予兆もなく、大仰さもなく、です。
 この正体のわからない恐怖。
 ホラースポットの由来などは説明されても、それが本当にあったことだったのかとか、そこで体験した怪現象の原因がこれだったかとか、そういう意味でのネタ晴らしや解決はありません。彼らはただホラースポットに突撃し、わけのわからない現象に遭遇し、もやもやした気味の悪い気持ちを抱えて帰るだけ。ある意味でリアル。ある意味で尻すぼみ。でも、その後味の悪さ、消化不良が、かえって読後を嫌な気分にしてくれます。いい意味で。
 
 たまに挟まれる、ホラーのホの字もないようなコメディ回も一服の清涼剤。それも元の動画にある回なのでしょう。
 現在は2巻まで発売されていますが、単行本未収録分も連載中。元動画との兼ね合いで何巻まで出せるのかはわかりませんが、このイヤ~な後味のまま、いけるとこまでいってほしいです。
comic-boost.com

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