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漫画の話です。

『BLUE GIANT MOMENTUM』コンペで際立つダイの、堂々として、悠々として、傲岸不遜でスペシャルなかっこよさの話

 5巻が発売された『BLUE GIANT MOMENTUM』。

 若手ジャズマンの登竜門であるインターナショナル・ジャズ・コンペティションに参加したダイは無事デモ審査を通過し、二次予選の舞台に立つべく、長距離バスに23時間揺られ、晴れてセントルイスの地を踏みました。
 13人の二次予選出場者には、アマチュアながら既に名の売れている者もいれば、父に著名なテナープレイヤーを持つ者もいる。唯一の女性プレイヤーや唯一のラティーノプレイヤー、車椅子のテナーマンなんかもいる。誰も彼もがデモ審査を通過した強者だらけの中で、ダイはどんなプレイを見せるのか、というのが5巻なわけですが、この巻の感想は、「面白い」というより「かっこいい」でした。いずれ劣らぬ若手プレイヤーの中で、堂々と、悠々と、そして傲岸不遜に立つダイの姿が、とてもかっこよかったのです。

 思えばこのNY編、というかアメリカ編からこっち、ダイの行程は山と谷で言えば谷ばかり。アメリカの広さ、人の多さ、物価の高さ、そしてジャズシーンの壁の高さと厚さに、さすがのダイといえど参ることもしばしばで、行く先々で出会う人々の心に強烈な印象を残しはするも、アメリカの広大さに比すればそれは、闇夜の砂漠で点々ととろうそくを灯すようなもの。鬱々とした空気をぶちぬいてスカッとさせるところにはなかなかいけません。
 でも、ついに掴んだこのIJCのチャンス。ジャズシーンへの参入の意味でも、バンドの財政の意味でも、ここで優勝する影響はあまりにも大きい。逆に言えば、ここで失敗すれば、今後のバンドの活動すら危ぶまれかねないほど。苦しい中で空からたれてきた蜘蛛の糸を掴んで登っていったのに、上まで登り切る前に切れてしまえば落ちたときの衝撃は低いところからのそれとは比べものになりません。たとえダイの心の糸は切れずとも、NYで待っているゾッドやアントニオの糸はどうでしょうか。つかみ損ねたチャンスとお金は、貧しい中で苦闘する人間には、本来以上に眩しく見えてしまいます(ジョーは酒さえあれば誰がどこでどうなっても変わらないでしょうが)。
 そんな崖っぷちの中でコンペに挑むダイは、上に書いたように、まるで自分のバンドのライブかのように堂々としていて、他の出場プレイヤーの演奏を楽しめるくらい悠々としていて、なにより、自分が勝つと疑わずに面を上げつつづける姿が傲岸不遜。そんな彼をかっこいいと言わずしてなんと言いましょう。
 
 しかし、そんなダイのかっこよさを際立つのは他の参加者たちがいるからです。
 レジェンドテナープレイヤーの息子であり、その重圧を感じた上で自分のプレイを磨いてきたスコット・エリングJr。
 男を超えるためにではなく、女性である私が私らしく吹けばいいと胸を張る唯一の女性参加者、ニーナ・ファウラー。
 子供の頃の事故で一生車椅子生活を余儀なくされながらもサックスを手に取り、パワフルでいて愛嬌のあるステージを見せたボビー・マクローリン。
 アントニオに負けず劣らずの困窮下でずっとサックスを吹いてきた、誰よりも切迫した音を出すラティーノ、ディエゴ・アルバエス
 他のプレイヤーの圧に晒されながらも、それをヒントに直前まで自分に演奏する曲の構成を練り直す、高い技術と臨機応変のアイデアを持つノア・デュベール。
 そして、リーダーアルバムこそ出していないものの既に各方面から高評価を得ていて、下馬評でもトップに付けている、実際に審査員も客も他のプレイヤーも唸らせる演奏をしたジーン・ヘイデン。
 当然彼や彼女にもこのステージで演奏できるだけの能力があり、このステージに立てるだけの能力を培ってきたバックボーンがある。そのバックボーンを限られたページの中で的確に描くから、彼や彼女のキャラクターが立ってくるし、それらとはまるで違うダイの姿がより際立つのです。

 コンペの大本命であるジーンは、登場したそのときから堂々とした姿を見せていました。自分がこの中で一番うまいに違いない。そう確信している、余裕のある姿です。
 ダイの堂々とした姿は、ジーンのそれとは少し違います。堂々として悠々としているダイには余裕も見えますが、それもやはりジーンと違うのです。何が違うように見えるのかと言えば、ジーンのそれは彼自身の確信に端を発しているものであり、ダイのそれは、ディエゴの言葉を借りれば、「ずっとずっと前に決まっていた結果」に端を発しているものだということ。
 チープな言葉を使えば運命というやつですが、ダイの見せるその堂々として、悠々として、傲岸不遜な姿は、その運命とやらに導かれているかのように、あるいは運命の確信の下にその場にいるかのように、とてもスペシャルなものを感じさせるのです。
 ダイ自身は、自分が運命に導かれているなんて思ってもいないでしょう。そんな超自然なものではなく、ジーン同様、自分自身を信じて日本からヨーロッパへ、そしてアメリカへと渡ってきたはずです。もちろん私自身、運命なんて三文安い言葉でダイの成功も挫折も語りたくありません。でも、ゾッドが「回り道こそ最強だと言わんばかり」と表現するように、他の人間ならとてもじゃないけど選ばないような道のりを歩き続けるダイの姿には、運命、というより運命的なスペシャルを感じます。これは、そう感じさせる物語なのです。

 コンペ二次予選も終わり、いよいよ次巻はコンペ決勝。ダイは優勝して、バンドにチャンスとお金をもたらせるのか。でもそれは、優勝という結果そのものよりも、その過程である決勝ステージでのダイのプレイがもたらすもののように思えてなりません。二次予選の評価が割れたように、決勝のダイのプレイが審査たち員に全肯定されるとは限りませんが、それが良いものであれ悪いものであれ、非常に大きなインパクトを残すに違いありません。そう、とてもスペシャルなやつを。
 そんなスペシャルを早く見たくてたまらないぜ。

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