あけましておめでとうございます。
昨年は仕事が忙しい日が増えて、ブログの頻度が減ってしまったのが悔しいですね。もっとのんべんだらりと享楽を尽くして生きたいものです。
ということで年始めの恒例、前年に読んだ漫画の振り返りで俺マン2025です。
レギュレーションは例年通り、
1,2025年中に発表された、もしくは単行本が出た作品で
2,その中でも特に心をつかまれた作品で
3,5作品
4,今まで選んだことのある作品はなるべく除外する(なるべく)
となります。
それでは順不同で、れっつすたーと。
1,邪神のお弁当屋さん/イシコ
意図せず戦争の原因となってしまった罰にと、人に零落した元邪神のレイニー。人に堕ちた彼女は、神に戻るため善行を積もうとお
弁当屋さんを始めた。かつて彼女を信仰していた人間。かつて彼女が気まぐれに助けた人間。かつての彼女のことなど気にもとめない人間。市井で交わる数多の人間たちに、神の心をもったままお弁当を売る彼女は何を思うのか……
というところの、童話か寓話のような物語。派手なアクションがあるでなし、お涙頂戴の愁嘆場があるでなし、爽快な勧善懲悪があるでなし、でもつい読みたくなる不思議な魅力を持ったこの作品がまずノミネート。
人の心の機微や、人とは異なる物の見方をする元神や現神の心の機微などが、押しつけがましさのない描写で、いい意味で他人事のように淡々と描かれます。この押しつけがましさは説明のなさと表裏一体で、「ここは何を言いたいのか?」と首をひねることもままありますが、童話や寓話に何を言いたいかを尋ねるのも野暮というもの。明快な一つの答えを求めるのではなく、読んだそのときの自分の心のありようで味わいが変わってくるのが、このテの物語のいいところです。
人を愛するとは。憎むとは。大事に思うとは。生きるとは。死ぬとは。幸福とは。絶望とは。
そんな人生の難問の答えが入っている、と大仰なことを言うつもりはありませんが、そんな問いのヒントが読み取れる気がしないでもない作品です。
2025年に連載が終了し、今年1月に最終巻の4巻が発売予定。読み切りでも連載でもイシコ先生の新しい作品が待ち遠しいですね。読み切りも寓話チックでいいのですよ。
元神様で今は弁当売り 『邪神の弁当屋さん』の話 - ポンコツ山田.com
神の罪は弁当箱の隙間に 人の隙間に神のお弁当を『邪神の弁当屋さん』の話 - ポンコツ山田.com2,こころの一番暗い部屋/雨夜幽歩
作家が集う作業通話コミュニティの一部で密やかに流行しているのがキーワード怪談。三人の参加者が一つずつお題を挙げ、それをキーワードに即興で怪談を作って語るというもの。売れない漫画家の朱雀奏は、あるときそのキーワード怪談に誘われ、そこで語られた話を聞き、ふだん明るみに出ることのない、人の心の奥底にある感情に触れたような気持ちに……
というところの、ホラーであると同時に人の心のひだを解きほぐす物語。キーワードを元に即興で作られた怪談には、「ホラーを作る」という意識に隠されて語った当人には見えていない、それを語らせたなにかがあるのだけど、主人公の奏はそれをに気づくのがとても上手。参加して怪談を語った当事者達は、奏の感想を聞いて、自分自身だからこそ見えない、こころの一番暗い部屋に光が差したような気がする。いや、光が差したというか、そもそもその感想でその部屋の存在を知ったというか。
そもそも恐怖とは何か。端的にそれは、未知であること。自分の知らない、理解できない現象や事態に人は恐怖を感じます。
暗闇が怖いのは、そこに何があるのか、何がいるのかわからないから。
見知った自分の部屋が真っ暗でもそれは怖くありません。それは、どこに何があるかわかっているから。でも、その真っ暗な部屋の中で、見知らぬ物音や、するはずのない臭いがするのはとても怖い。それは自分の知らないものだから。
だからというべきか、人が怖いことを考え出そうとするとき、そこには自分の知らないもの、自分が理解できないものが紛れ込んでくるし、その知らないものや理解できないものは、知らないし理解できないものなのだから、自分の語ったどこにそれが紛れているのか、自覚することができない。
その構造をうまく解析して、隠れていた感情の
言語化をすることで、ただのホラーで終わらない面白さが生まれています。
また、1巻の後半から、ただのキーワード怪談にとどまらない、作中の現実世界に関わってくる人間ドラマが始まりだして、しかもそれ自体も、今までのキーワード怪談のようなホラーじみた話が展開されている。すごく巧みだなと思います。
2025年のホラー漫画枠第1位。現在2巻まで発売中です。
怪談を生んだ、自分も知らない心の奥底『こころの一番暗い部屋』の話 - ポンコツ山田.com3,チハヤリスタート/たけうちホロウ
コロナ禍で露と消えた高校陸上総体。その不完全燃焼を何年も引きずって引きこもり生活を続けていた桜坂千早だが、母親に無理矢理連れ出された
ハローワークの帰り道に、かつてのライバル小清水澪と再会する。立派な社会人としてやっている彼女との出会いが、チハヤの劣等感や反骨心やあの日に忘れてきた走るの大好きという心に火を点けた。果たされなかった青春をやり直してもう一度走りだすため、また彼女はスタートラインに立つ……
というところの、青春やり直し陸上漫画。コロナ禍というすべての人に訪れた災厄は、生命にかかわらずとも人生を大きく狂わせもして、できたはずのことができなくて人生に大きくつまずいた人は、主人公のチハヤならずとも多くいることでしょう。倒れたまま何年も経ってしまったかつての少女(現引きこもり
ニート)の再起を、等身大のスケールで爽やかに、しかしてコミカルに描くのが本作。
青春が宙ぶらりんに終わった悔しさとか、その宙ぶらりんから引きこもり続けてしまった焦燥とか、かつての友が立派に働いている劣等感とか、自分に言い訳して立ち上がれない絶望とか、そういう負の感情をちゃんと描きながらも、それでもそこから立ち上がろうとするチハヤや、彼女に手を差し出す友人達の前向きな姿の描き方がとてもみずみずしく、美しいのです。
あと、彼女たちが走る姿がとても軽快でとても美しい。かねがね、世界でも国内でも最高峰のランナーのスプリントを見てみたいなと思っているのですが、その気持ちを強くさせてくれる、空気を切り裂くような、空を跳ねるような、何でも飛び越せるような、強くて美しいスプリントの絵。これも大きな魅力です。
現在3巻まで発売中。
消えたあの夏よ蘇れ 少女達はもう一度走りだす『チハヤリスタート』の話 - ポンコツ山田.com
4,限界OL霧切ギリ子/ミートスパ土本
テレアポで働くOLの霧切ギリ子。丁寧なようで粗雑、ちゃんと気にしているようでそんなことは内ギリギリな食生活は見るものをハラハラさせるし、そんな彼女の周りにいる人間も、一癖も二癖もあるやつばかりなのだった……
というところの、一応グルメ枠のギャグ漫画。その枠に入れていいのかはだいぶ議論の余地があるけれど。
どのくらいギリギリかといえば、第一話最初に登場する料理が、味の素と塩かけ食パン。そう、味の素と塩を焼いていない食パンにかけたものである。どんな味かと言えばギリ子いわく、「惣菜パンの惣菜がのってない味」。ちなみに初登場時のギリ子は、
テレアポのしすぎで受話器のあたる左耳から耳血が出てる。いろいろとギリギリ。
グルメ漫画の枠に入れていいのか。
ちなみに第一話二つ目に登場する料理は、冷蔵庫の中にあった、「コンビニでもらえるケチャップと
マスタードをパキッとするやつ」(
原文ママ)を指に塗ってしゃぶるやつ。「
アメリカンドッグの味がする」らしい。いくら酔っ払いながら作ったつまみのレシピとはいえ、ギリギリにもほどがある(類似のレシピとして、ケチャップとオリーブオイルを1:1~2くらいの適当な分量で混ぜそこにお好みでニンニクチューブを入れ油とケチャップが分離しなくなるまで混ぜた「ピザ味」がある。ピザポテトや
ピザトーストなんかの「ピザ味」だけを抽出した味がするという。マジか)。
本作の半分くらいはそんな感じの限界レシピや他に披露する場のない
食レポに溢れ、3割くらいは奇人な同僚や行きつけのバーの関係者らの奇矯な生活が描かれ、2割くらいは役に立つレシピがあり(
とんがりコーンに
クリームチーズを詰めるつまみにはお世話になってます)、残った1%くらいには妙にウェットなお話があったりしてビックリします。 漫画ってこんだけ好き勝手にやっていいんだから、偉大なメディアだなと思うことしきりですね。なお、0.1%くらいメギ(ン)ド(ゥ)72(0)の話してます。なんなら一話まるまる使ってしてます。ジャンプ+のインディーズ連載だからってフリーダムすぎんか?
とまれ、2025年のグルメ枠第1位。グルメ? 現在1巻発売中。2巻発売も無事決まったぞ!
shonenjumpplus.com5,魔術師クノンは見えている/La-na・南野海風
視力を持たずに生まれた貴族の少年クノン・グリオン。「英雄の傷跡」と呼ばれるその欠落は、彼の生まれた家には名誉をもたらしたが、彼自身には人生の絶望でしかなかった。悲嘆の日々を過ごす彼だったが、ある日やってきた魔術の家庭教師の一言で彼はふと思いつく。自分の目が見えないなら、魔術を目の代わりにすればいいのではないか。その日からクノンは人が変わったようになり、精力的に魔術を学び、見えない世界の有り様を感じ取ろうとし、他人とも積極的に関わろうとし、日々を前向きに生き始めた。あまりの急激な転向に、本当に人が変わったような軟派な性格になってしまったのはご愛敬。ぐんぐんと魔術の素養を伸ばしていく彼は、果たして世界最高峰の称号「青の魔術師」に届くのか……
というところの、魔術に目覚めた少年がその才をどんどん花開かせていく、ファンタ
ジー成長譚です。
この作品の魅力は、主要な登場人物達が有する「魔術って楽しいんだぜ」という姿勢。魔術とは何か、それで何ができるのか、今できるこれをどう改良すれば何ができるのか、あの人の魔術があれば自分の持つ魔術とあわせて一人じゃできないこともできるんじゃないか。魔術の可能性を考え、実験し、実践し、失敗し、再検討し、また試す。その試行錯誤が三度の飯より楽しいと思っている者達がわちゃわちゃとしているのが、とてもいいんですよね。知的好奇心というものの楽しさが、「魔術」というファンタ
ジーを通して描かれているのです。
主人公のクノン自身が使える魔術は決して多くなく、低級魔術をほんのいくつかなので、他の魔術師達にその点では大きく後れをとっているのですが、持ち前の探究心で、魔術の操り方や、世界や物事の構造を分析したクノンは、低級魔術でできることを細分化し、抽出し、拡大することで、別の魔術と見まがうほどの応用を見せ、他の魔術師を圧倒します。それに触発された魔術師は、改めて自分が持つ魔術に目を向け、理解を深め、新しい使い道を見いだす。そしてそれを見たクノンが、また自分の魔術や共同してできる研究について考える。そんな健全なサイクルが、読んでてわくわくするんですよ。
わかりやすい悪役や世界の敵みたいなものは(少なくとも今のところは)出てこず、少年が成長し、周囲の人間も成長する姿が、知的好奇心を軸に描かれていくのですが、ストーリーとは別になにか芯が一本通っている物語というのはとてもいいですよね。
現在7巻まで発売中で、この1月からアニメも放送します。それまでにちゃんとしたレビューも書いときたいですね。
以上5作品が俺マン2025の5作品ですが、惜しくも漏れた他のノミネート作品も挙げましょう。
・片田舎のおっさん剣聖になる/乍藤和樹・佐賀崎しげる
主人公の過去の話が引っ張られすぎてるのはたいがいにした方がいいと思いつつ、主人公が剣の道に打ち込みすぎてる(剣への入れ込みが度を超してる)描写が噺に説得力を持たせてるなと思います。
・ハプスブルク家の華麗なる受難/稲谷・あずま零
世界史履修者を悩ませる謎の存在、
神聖ローマ帝国。神聖でもなければローマでもなく帝国ですらないそれの帝位に長らく就いていた、中世欧州の覇者
ハプスブルク家の華麗にして苦難の歴史をライトなコメディタッチで描く作品。その歴史の中を生きる当事者としてではなく、既に起きた歴史を俯瞰する者の視点で描かれる歴史物のコメディって妙に好きなんですよね。
・その着せ替え人形は恋をする/福田晋一
2025年に完結したラ
ブコメ。終盤の
コミケからラストまでの展開が、山あり谷ありからの大団円で大満足です。
・2.5次元の誘惑/橋本悠
同じく去年連載終了した作品。正直、最終エピソードはノれなかったのだけど、最終回のエピローグが「こういうのが見たかったんだよ」欲を100点満点で満たしてくれたのでオッケーです。
とまあこんなところでしょうか。
あと去年は、無限大に増殖する本と無限小に縮退する部屋の容積に屈し、電子書籍を大幅に解禁して、既に巻数を重ねている作品をセールのタイミングでごそっと買ったりしてます。上に出てきた『魔術師クノン』や『片田舎のおっさん』、他には『アルスラーン戦記』、『幼女戦記』、『居酒屋のぶ』、『いびってこない義母と義姉』なんかは繰り返し読んでます。
ただ、電子書籍はまとめ買いや手持ち無沙汰の時に手軽に読むのにいいのですが、読書体験自体が少々雑になってしまうなというのが否めないのは痛し痒しですね。
とまれ、今年も暇を見つけては本を読んでブログも書いていきたいものです。
お気に召しましたらお願いいたします。励みになります。
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