『違国日記』7巻の感想の話 下

page.34 オーディションの朝 嘘と本当 存在と欠如 悩みの貴賎

  • 何気なく歌っていた歌のうまさを、槙生に褒められ、照れる朝。
    • 「愛されることに屈託はないのに長所を褒められるのは座りが悪い」。なんだか妙に刺さる言葉だった。
      • 愛されることと褒められること。ともにポジティブな感情を投げかけられるものではあるけど、別物。
        • 愛されることは無条件。あなたがあなたであれば、愛される。
        • 褒められることは、褒められる何かがあることが条件。褒める人が認める何かがなければ、褒められない。
      • 褒められる何かとは、一般的にはその人の長所や優れているところであり、言ってみれば「目立つ」ところ。目立つことにためらいや引け目を感じてきた朝にとって、褒められるとは、「目立ってるね」と言われるようなもの。かつて父が言ったように。まだ残っている父の呪縛が座りの悪さなんだろうか。
      • それを踏まえると、愛されることに屈託がないのは、母の呪縛なのかもしれない。母が朝を愛していたのは間違いないのだろうから。
        • 呪縛と言ったら聞こえが悪いけど。ただ、愛とて相手によき影響のみを与えるものではないのだ。
  • 作詞のアドバイスを槙生にもらおうとする朝。
    • 「好きな詩を書き写す」という槙生からのアドバイス。ちょっとわかる。
      • バンドで作詞をしたとき、なんか天啓を得ようとスピッツの歌詞を書き写したりしてた。好きな歌はたいていそらで歌えるけど、それを文字で書き起こしてみると、口にする時とはまた違う感覚が湧いてくる。言葉同士の連なりを、より有機的に感じられるというか。
      • 詞を手で書くのは、口にするのよりスピードが遅い分、脳内での言葉の咀嚼スピードがゆっくりになり、分解の幅や深みも増えるのかもしれない。
  • その流れで、日記について「本当のことを書かなくてもいい」と言われたことの意味を確かめる朝。
    • まず、それを言ったことを覚えていない槙生。言われた方はよく覚えてるけど、言った側は忘れてる。案外そういうものだよな。いい言葉も悪い言葉も。
    • で、「嘘を書いてもいいのか」と問う朝に、「大事なのは何を書くかより、何を書かないかだ」と答える槙生。その言葉に、朝の記憶からよみがえる、「この先 誰があなたに何を言って 誰が何を言わなかったか」という槙生の言葉。
      • ここで思い出したのは、この文脈とは直接リンクしないんだけど、人の知性にとって重要なのは、何を知っているかではなく、何を知らないかを知っていることだ、という話。
        • 知っていることを増やすのは大事だけど、蓄積された知識を自分の中で体系立て、その体系のどこに穴があるか、どこから先がまだ見ぬ世界なのか、その世界はどのようになっていると想像できるか、などのように、自分の知っていることを基にして、自分の知らないことを見つけられるようにしないといけない、という話。
        • 不在の在というか、未知の前景化というか。
      • で、文脈に即したことを考えると、何かを書くということは、何かを書かないという選択をしたわけで、書かれているものの外に、無限ともいえる広さで書かれていない何かが広がっている。母が残した日記に書かれた朝への愛の外に、書かれた愛以外のものがどれだけあるのか。
        • もちろんそのすべてを知ることはできないけど、少なくとも朝は、書かれていない何かが存在することは気づいてしまった。書かないと選択した何かがあるはずだということを。
          • 目に見えるものがすべてではない、自分の知りえないところにも何かがある、と気づくことは、大人の階段の一つなのかもしれない。
      • 「母の日記には真実だけが書いてあると思うか」と、朝が槙生に聞きたかったけど聞けなかったのはなんでなんだろう。どんな返答があるかもわかっていたのに。
        • ああ、そうか。朝は「答えない」という返答をわかっていたけど、答えの外側にも意味があることに気づきかけていたから、聞けなかったのか。回答されないことで、その無言の外側にある、否定の意を自覚したくなかったからか。
    • 悪口から身を守るために、意識的に鈍麻していったら、本当に心が鈍くなっていってしまったという槙生。いいことにも悪いことにも、あまり心が動かない、と。
      • それと創作は別なのだろうかと、素朴に疑問。別の話なのだろうか。
        • 勝手なイメージとしては、たとえば友人らとしゃべっている槙生は喜怒哀楽をはっきり出していて、そのとき感じている感情自体は本当なんだろうけど、その動きは表層的なもので、もっと奥底の方では、マントルの下のマグマのように、重く熱い何かがゆったりと蠢いていそう。
  • 登校途中の電車で、しばらく学校を休んでいた千世に出くわす朝。
    • 朝と千世の会話で、芯は微妙にすれ違ってるけど、二人とも、確固として信じられるものを失っているように感じられる。
      • 朝は、母の残した日記の言葉に。千世は、自分が目指していたものの公正さに。
        • 千世のそれは、次の話を読んでの事後的な感想だけど。
    • 生きている限り悩み続けるのかもしれないけど、悩み続けているということは生きてるということだ。最後のページ、まぶしいね。

page.36 No one lives for anyone, but I sing for someone

  • この話で何より印象に残っているのは、槙生の言葉。
    • 「他人のためになんか書かないよ …というか …みんなそんなにひとのためにとる行動なんてないでしょ」
      • やたらと私の心に残っている、『クビシメロマンチスト』でいーちゃんが言った「自分のために何かをすることのできる人間って、いつの間にいなくなっちゃったんだろうね」というセリフ。
      • 誰かのためとお題目を唱えて動きたがる人間たち。本当は、結局のところは、自分のための行動なのに。あまりにも凡庸な自分の心の動きに、崇高な何かを糊塗しないではいられないのか。
    • 槙生はそのあとに、「でも そうわかっていてなおすることが尊いんだ」と言っているので、いーちゃんの言葉よりはだいぶ前向きだし、誰かのためという行動理念を否定してもいない。
      • それでも、人間の行動の根底は自分のためというエゴがあるし、そこに公憤やら義憤やら誰かのためやらという、他人に自分の感情の責任を押し付けるようなものは極力塗りたくるべきじゃないと、私は思うのですよ。
  • そんな人間のエゴイスティックとは別に、人間のあらゆる行動がいつかどこかで誰かの世界を少しだけでも変えることはありうるし、その変化の積み重ねは大きなうねりになったりならなかったりする。
    • おまけ描きおろしの、東郷君もそういうことだ。千世の怒りが東郷の世界を少し変えて、世界を変えられた東郷の1ツイートが、さらに誰かの世界を変えるかもしれない変えなかいかもしれない。



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『違国日記』7巻の感想の話 中

  • page.33 目立つこと キャラのこと
    • ボーカルオーディションに出るかどうか悩む朝。
      • 人前で歌うことに怖気づく朝へ、目立つのが嫌なのになぜ軽音に入ったのか、俺はモテるから、と言い放つ同級生の男子部員。
        • バンドをやるとモテるんじゃない、モテる奴はバンドをやってもモテるというだけの話なんだ……
          • などと現在進行形でバンドをやっているけど何のモテる気配もない人間が申しております。
            • モテる奴がモテるだけなんだよ、ロック。だから、この話はここでお終いなんだ……
    • 友人が何の気なしに言った、「いるだけで目立つんだから大人しくしてればいいのに」にひっかかる朝。
      • 別に嫌いじゃないけど、本人のいないところでそういうことを言う感じ。悪意はないんだろう。直接言ってないんだから善意でもないんだけど。
        • じゃあ何かっちゃあ、本当にただ思っただけなんだろうな。「悪目立ちしないほうがいいのにね」って。
          • そういう邪気のない悪というかをさらっと描くのが、ヤマシタ先生の怖さですよ。悪いと思わないでいう人間もいれば、そこにもやもやを感じる人間もいる。何の気なしに発した言葉でも、それが他人にどう届いているのか、しばしば自分にはわからない。怖い怖い。
        • 「きちんと目立つ」という言葉に不可解を覚える朝。私もよくわからない。なんだろう。「きちんと目立つ」。悪目立ちはダメなのか。
    • 記憶の中の両親。楽しかった合唱コンクールの感想を求めたら、母は「負けちゃったのは残念だったね」、父は「なんだか目立ってたね」。
      • 当時の朝は、両親からの芯を食ってない感想に無邪気な怪訝さしか感じなかったけど、今から思い返すに、「楽しかった」という朝に↑のような感想を返す両親から、「呪縛」めいたものを受けていたのだろう。
        • 感想の方向性というより、朝の感想にそぐった返答をしていない、自分本位な感想を言っている、という点で。
    • 槙生ファッションショー。
      • 恥じらいのない下着姿はときめきませんね。
      • 「コミュ障」なのに、サイン会をしたり、結婚式でスピーチしたり、小説家として「妄想書き連ねて世間に発表して」る槙生がどうにも訝しい朝。
        • 目立つって何だろう。いいことなんだろうか悪いことなんだろうか。
      • ボーカルやりたいけど自分のキャラじゃないからためらってしまう、という朝を、即座に切って捨てるもつ。
        • 俺もそんな大人になりたい。多感な頃の悩みをスパッと切って捨てた後にきちんと的を射た答えを言える大人に。
      • で、そんなもつのキャラ不要論。
        • その論自体は巷間よく聞くものだけど、それがpage.32の「なりたい自分になるにはどうすればいいか」にリンクするのがよい。
          • なりたい自分になるには、まずやりたいことやりたくないことを自覚するのが大事だということなんだろう。キャラなんていう他人のためにつくりあげた自分じゃなくて、自分のためにあれしたいこれしたくないを決められる自分になれと。
            • そうか、目立つことが嫌いな父がおそらく言外に非難を込めていた「なんだか目立ってたね」が、それをさせぬよう朝の呪縛になっていたということか。
        • 「こうあれ」と己の枠を定めるという意味で、呪縛もキャラも同類。こうなりたい、と未来に開かれている希望とは別なのだ。
      • 独白で「それに気づいたのはずっとずっと後だった」と、作中で描かれている現在にかぶせて未来完了(あるいは未来から見た過去完了形?)を書く。こういう時間軸の作り方が好きでしてね。
        • アリスと蔵六』とかもね。
        • もともとこの作品、最初の話で高3の朝を描いてるだよね。だから、高3の朝が存在することはすでに確定しているわけで。
          • 描かれつつある朝が積み重なって、page.1の朝に集約していくという物語の在りよう。好き。
    • ひとくさり歌って、オーディションに出ることを決心する朝。照れながら「槙生ちゃんいなかったら軽音とかやんなかったかもてかやんなかった」とこぼすが、こちらは火の玉ストレートで「それはないでしょう」と否定する槙生。
      • この、相手に寄り添わない返答。そのあと否定するにしても、「そうかもね」の一言でもあればよく見る会話になろうに、否定しかしないこの返答よ。
        • もちろん、槙生は心からそう思っているんだろうけどな。
        • 心に浮かんだ両親の返事とは大きく違うけど、実際こう発言したシーンてあったっけ? 実際の過去? 朝の想像?
    • 最後のページ、「歌いまーす」の朝に、同席している誰もキャラ云々を言ってない。
      • 他の登場人物の顔が見えないから、そこらへんの作者の意図(つまり、自分のキャラじゃないというのは、朝が自分にかけていた呪縛でしかなく、周りは別にそんなことを思っていなかった、ということ)は判然としないけど、どうなんだろうな。



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『違国日記』7巻前半の感想の話

  • page.31 私の父親って「誰」?
    • 通り過ぎざまに、ドラマの感想で「空虚なやつだなあ」と吐き捨てる槙生。
      • 実際同居している人間がこうだったらたまらんなあと思う。自分が楽しんでいるものに(悪意でなくとも)これを吐き捨てていくのはたまらん。それが生まれた時から一緒に暮らす家族でないのならなおさら。
        • そういう、「生まれた時から一緒」じゃないもの同士が暮らす生活、異邦人同士の暮らしというのも、この作品で書かれるべきことの一つだと思うけど。
          • それは同時に、「生まれた時から一緒」に暮らす者同士の楽しいことときついことの話の反対側でもある。それまでの朝の暮らしを朝が振り返っているように。
    • 朝の書く、槙生の悪口語録。「浅薄」「邪悪」「厚顔」「短慮」「愚劣」「蒙昧」「卑怯」「蒙昧」「姑息」「陰険」「悪辣」「醜悪」。強い。
      • およそ、口語で使うことのめったにないであろうワーディング。でも、そういう漢語を口頭で使っちゃう気持ち is わかる。普通は言わないことをあえて口にした時の音の感覚って、ちょっと楽しいの。槙生がその感覚で使ってるわけではないだろうけど。
        • 漢語は、和語よりも意味がかっちりする分だけ、誤解を生みにくいのが長所だけど、口頭の発音のみで表現すると漢字が浮かばなかったり同音異義が浮かんでしまったりするのが短所。
          • ちょうど昨日、友人が口頭で「逐電」を使ったけど、言われた人がきょとんとしてたあの感じ。
    • 槙生の言った「空虚」から父を思い出す朝。「からっぽ人間」で連想するのが実の父。
      • 両親は事故で同時に亡くなったのに、「これまで思い出すのはほとんど母のことばっかりだったことに初めて気がついた」 「わたしの父はいったい「誰」だったのだろう」
        • そりゃあこの言葉から「娘に訪れるすべての幸福も災厄も母親に由来する」(HER CASE.4)を思い出しますよね。
      • 思い出の中の父は、えみりの家族と同席しているときでも、頑なに輪に入ろうとしなかった。ずっと顔を伏せ、象徴的なまでに描かれない、眼鏡の奥の彼の目。たぶん、今まで一度も描かれてないはず。
    • ところかわって、えみり母とランチをする槙生。なんだろう、誰かと対等に仲良くしている槙生を見ているだけで、ちょっと楽しくうれしい。
      • 昼間から洋食でビール。最高かよ。
      • 槙生とえみりママの間でも交わされる、朝の父の話。
        • えみりママにとって朝の父は、「品のない物言い」をすれば「なぜこの人を選んだのだろうって何度も思」うような人だった。それは、彼の「社会に関わろうとしない」面が主らしく、その態度は槙生のものとはまた違うという。
          • 槙生の「社会的逸脱」は、なんでしょうね、自分以外の世界の自分と合わないところに、頑として譲ろうとしないところ。社会を弾き、社会から弾かれるという意味での逸脱。
          • それに対して朝の父は、これまでの描写に沿えば、自分と合わない世界から目を逸らしてひたすら閉じこもろうとする人。社会に飲み込まれようとも決してそこに馴染もうとしない、関わりのなさ。
          • 槙生の逸脱には、対決と反発という精神の動性があるけれど、朝の父は、飲み込まれたままじっと動かず逆らわずただやり過ごそうとする静性がある。
    • 朝に浮かんだ、そして尋ねた「誰」という問い。その言葉は、まず知っている人間に向けるものではないだろうと思う違和感に、ヤマシタ先生の言葉のチョイスの妙がある。
      • 「誰」は見ず知らずの人間、存在自体を知らない(知らなかった)人間に向ける言葉のように思える。存在を知ってはいるけど中身をよく知らない人間なら「何」、もっとマイルドに言えば「どんな人」の方が一般的だろう。実の父を対象とする問いとは考え難い。
        • それでも浮かんだ「誰」は、それだけ朝にとって、今まであえて意識に上ることのなかった、存在を意識しなかった相手なのだろうか。同じ家で暮らしていた父なのに。
    • 最後に、槙生と笠町が交わす、自分にかけられている呪縛の話。
      • 笠町は父。槙生は……姉か。
        • なんで槙生もとけつつあるんだろうね。朝と暮らしているからかね。
          • 「自分に呪縛をかけた姉の子」と暮らすことで、とけていく呪縛。ごくごく微量ずつアレルギー物質を取り込むことでアレルギー反応を弱くしていくみたいなものか。
  • page.32 男社会。男の社会。男のいる社会。
    • 高校生たちの意味も取りとめもない会話。
      • 特に若い子同士の現実の会話って、主述やてにをはもあいまいで、文字に起こすと筋がとってるように思えないんだけど、実際に会話をしている当事者にとってはコミュニケーションとして特に問題はなかったりする。
      • たとえば今井哲也先生も『ハックス!』でやってたけど、それを漫画で表現すると、なんだろう、ネガティブな意味でなく、物語の中の空気が漫然として雑然として、がやがやした声を幻聴する。多用されるときついけど、効果的に使われると好き。
    • えみりが男子をふったとき、彼の言った「納得できないから」。
      • 納得は大事だけど、それが理不尽でないのならば、他人に「自分を納得させろ」と要求していいものなのか。いや、要求まではいいと思うけど、強制はできないよな、と。それが対等な関係や、金銭の絡まない関係ならなおさら。
        • でも、納得したいという気持ちは大事だし、対等な関係だからこそ、納得させてほしい(実際に納得できるかは別として)というのもわかる。
    • 偶然昼食を一緒にとることになった笠町と塔野。
      • 知人以上友人未満の人間と一緒に食事をとることって、それだけで私には難易度が高いな。
        • 男社会から降りてもそれはできるのか。
          • まあ「男」社会は関係ないか。
      • 「空気の読めないガリ勉」だったから、「男社会の洗礼」とは比較的縁遠くいられた、と塔野。
        • 高校大学そして卒業後も体育会系ではない世界で生きてきたので、「おれの酒が飲めないのか」のような「男社会」とは縁遠く生きてこられた私。けど、もしそういう世界で生きていたら、やり過ごしつつ過ごしても、たぶんどっかで精神が決壊しただろうなという感覚はある。
      • 塔野の告白の後に挿入されている、数ページずつの短いエピソード。
        • 誰もいない教室で猥談をしていたら女子が急に入ってきたから黙りこくった男子たち。
        • 先輩からの理不尽な暴力に耐えきれず部活をやめようとする男子と、それを咎める友人。
        • 医大が女子受験者の点数操作をしていたことに憤慨して学校に行けなくなった医大志望の女子。
        • これらはきっと、「男社会」の例なんだろう。性的な話題を、その対象のカテゴリーに入る人間の耳に入れようとしない。男子が男子であるというだけで不当な扱いを受ける。女子が女子であるというだけで不当な扱いを受ける。そんな特徴を持つ社会。
          • たしかに「男」社会の話ではあるけど、これが「女」社会の例を書いたとしても、程度の差はあれ似たような、その社会ゆえの特徴や不当不公平な取り扱いがあるのだろう。
      • 笠町は食事のシェアや「俺の酒が飲めねえのか」を男社会の特徴として挙げたけど、口にするものを共有することは、性は特に関係ない、共同体構築のためのある種の儀礼なのではないかと思う。「俺の酒が飲めねえのか」はともかく、食事のシェアは女性同士、あるいは家族や仲のいい人間同士でもするものだと思うし(塔野のように苦手な人ももちろんいるけど)。
        • まあ、単にそれをすることではなく、過剰に強制することが、笠町の感じる〇〇社会の嫌さなんだろう。
      • さらに笠町が列挙する、男社会を悪い方から見た点。
        • より危ないことをしたやつが勝ち
        • より女の子をモノ扱いできるやつが勝ち
        • より楽をしていい目を見たやつが勝ち
          • 気になるのは、最終的な価値基準が「勝ち」であること。勝ち負けがつくものであるとされていること。順位序列がつくものとされていること。実際に男社会がそうであるかはともかく、笠町はそういう構造になっている社会に生きることが心の底からいやになり、そこから降りて逃げて、やっと「人間」になれ余裕ができた、と。
            • 笠町の言う男社会に馴染み、その中でも余裕をもって「人間」でいられる者もいるだろうけど、笠町にはそれができなかった。
            • 別に、「男」であれば「人間」ではない、ということではないだろう。「人間」らしい余裕をその社会で持てるかどうか、なのだと思う。
              • 意図的かどうか、男社会的なものはかなり悪しざまに描かれていますがね。
              • 同程度には、女社会的なものも醜く描いていますが。
                • どんな社会も歪んでいて、まっすぐなだけの社会なんてないんですよ。
      • 朝が塔野に聞いたという、「なりたい自分になるにはどうすればよいか」という問い。塔野は「何を言っているのかわからなかったので「何を言っているのかわかりません」」と答えたという。
        • 馬鹿正直か。
        • 自分が中高生からそんなことを聞かれたらなんて答えるだろう。
          • 青春のにおいに心の中でニコニコクラクラしながら、「まずはなりたい自分が何なのか、それをしっかり自覚するところからじゃないかな」と大人らしくキメ顔で言ってあげたい。
        • でも、塔野が朝のその問いに「何を言っているのかわからなかった」というのはどういうことなんだろうな。
          • 「なりたい自分」という言葉の趣旨がつかめなかったのか、「なりたい自分になる」という言葉の趣旨がつかめなかったのか。
            • 「空気の読めないガリ勉」で、「勉強をすること」で「初めての違う国に連れていって」もらえるような気分になれることを知っていた塔野にとっては、なりたい自分、ありたい自分というのはもう通り過ぎてきたもので、こうある自分、こうなった自分を、既に感得しているのではないか。
            • ここにいれば、こうしていれば自分が自分として落ち着いていられることを知っている人間にとっては、「なりたい」という、希望や未来形で表される、まだ見ぬ理想の自分像は不要なのかもしれない。
              • どんな社会や環境に身を置こうとも、すでに得ている現在形あるいは完了形の自分像を基準に、そこにいることを望む望まない、その道へ進むことを望む望まないということを判断できるのだ。
              • 「泰然自若」とは、そういう判断基準を身に着けた人間なのかしらね。
    • 最後に朝が漏らした、「お父さんがあたしをあいしていたのか知りたい」という思い。
      • 母が愛してくれていたことについては、ある程度自覚できているんだろうな。

後半はまた次回。



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全一お嬢様は世界を熱くする!『ゲーミングお嬢様』の話

全一お嬢様。
国民の九割がご存知のとおりそれは、ゲームの大会で優勝したお嬢様のこと。今その看板を背負うのは、日本屈指のお嬢様が集う超・お嬢様高校、聖閣東芸夢学園に通う祥龍院隆子である。eお嬢様戦国時代にその名を轟かす彼女は今日も、勝てば全力で相手をあおり、負ければお嬢様式罵詈雑言をまき散らしながら台パンをし、eお嬢様としての己を高めていくのである……

ということで、原作・大@nani先生、画・吉緒もこもこ丸まさお先生の作品『ゲーミングお嬢様』のレビューです。
原作者の手による読み切りがジャンプ+に掲載されたときには、その荒ぶる絵柄とセリフ回と格ゲーへの狂熱にネット界隈がざわめきましたが、さすがに荒ぶりすぎた絵柄のせいか、作画を付けた上で晴れて連載となりました。
中身は、格ゲーへの愛を狂気とウソンコお嬢様で煮詰めたギャグ漫画。テキトーな上品言葉で悪口雑言というのはそれだけで楽しいですよね。クソわよ!
石を投げればeお嬢様に当たるくらいにゲームが席捲している日本を舞台に、音ゲー、MOBA、FPSと、多くのeお嬢様が鎬を削るゲームジャンルの中で、格ゲーを最上位カーストに押し上げ、とどめているのが、主役たる全一お嬢様・祥龍院隆子です(持ちキャラは当然リュウ)。
皆の前では、数多のeお嬢様の憧れたる完璧な淑女。だけどその陰では、全一お嬢様たる自分をなおも高みへ登らせようと、練習の日々。それはあたかも、優雅な白鳥が水面下では必死にバタ足をしているがごとし。

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ゲーミングお嬢様 1巻 p6

必死にバタ足をしているお嬢様です。
とまあ、バタ足の姿がどんなに醜かろうとも、全一お嬢様にかける彼女の思いは本物。

私は偶然の勝利など求めませんわ
何が起きようと決して動じずに 触らせず 近寄らせず 必ず勝つ そこに紛れが起こる余地はない
立ち回りに完璧を求め続けたことが 私が「全一お嬢様」たる所以ですわ
1巻 p37

勝とうが負けようが回線が落ちて怒り散らそうががゲーム代のためお嬢様らしからぬバイトをしようが、この気概と実力で、彼女は全一お嬢様として君臨しているのです。
もちろん登場するのは彼女だけでなく、心友と書いてライバルと読む雷撃院蹴子お嬢様や、隆子お嬢様の弟子である二回堂転子お嬢様(その他ベガ立ち要員であるモブお嬢様)などがいるのですが、読んでて楽しいのは、彼女らは(果てしなく誇張しているとはいえ)、ゲームの勝敗に全身全霊で一喜一憂しているところです。
勝てばこの世の春とばかりに己の強さを誇り喜び、負ければこの世の終わりとばかりに身悶えし転げまわり地団駄踏みまわる。遊びでやってんじゃねえんだ!と言わんばかり。というよりは、遊びでやってるからこそ、己の楽しみ以外に奉じるものはないわけで、勝てば喜び負ければ悔しがる。それが当然なのです。
また、気心の知れた間柄であれば、戦う前にはお互い相手を全力で煽り合い、勝てば言葉の限りで罵り尽くし、負ければ相手からの罵詈と自分が言った煽りのブーメランで燃えカスになる。そんな煽り合いもまたゲームの華。お排泄物ご令嬢のように無邪気に全力に、彼女らはゲームを遊びつくすのです。
1巻でもゲーセンで格ゲー以外にちょろっと触っていますが、未収録分では温泉地にあるような古っいゲームやボードゲームアナログゲームにも興じています。ゲームを全力で楽しむ姿はこちらでも健在です。
ゲームに賭ける熱くクレイジーな思いと、お嬢様の口から吐かれるクレイジーなお嬢様ワード。大人になると人は、子供のころにはあれだけ熱くなっていた遊びへの気持ちを忘れてしまうものですが、この漫画を読むことで、昔の自分に会えるかもしれませんね。いやそんないいもんじゃないけど。自分が子供のころこんなに煽りはしなかったけど。
shonenjumpplus.com



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『よふかしのうた』6巻後半の感想の話

  • 第54夜。ドキッ!男だらけの銭湯大会!
    • 吸血鬼のなり方(され方)は知ってるけど、まだなっていないマヒル。つまり、まだ血を吸われていないということ。
      • キクが「優秀な吸血鬼」であると聞かされているので、その状況に疑問を覚えるコウ。
      • 「眷属にしたいわけじゃない」「でも 自分を好きな人間の血は吸う」 この2つは成り立つのか?
        • 前者は部分否定だし、両者が排他的な関係にあるわけではないだろう。なんかいまいちわかりづらい問いの立て方だけど。
    • ヒルの嘆きに適切な答えを出せないコウは、二人の助っ人を呼ぶ。一人はあっくんこと秋山。3巻で登場し、セリの眷属になった男。
      • 頑なにあっくんをメンヘラさんと呼ぶコウ。お前本当に学校で社交の仮面をかぶれていたのか?
    • もう一人は吸血鬼の蘿蔔ハツカ。どう見ても女の子な男。吸血鬼にまつわる男の悩みは吸血鬼の男に聞くというコウの人選コンセプト。
      • 姓名ともに大根に絡めてあるのは、股の間にぶら下がっているもののせいだろうか。
    • 4人で連れ立って銭湯へ。コウ・ハツカペアと、マヒル・あっくんペアに分かれる。
      • 少女だと思っていた人間の股間にパオーンがぶら下がっているところを現実に目の当たりにしたとしたら、自分はどういうリアクションになるかな……。
        • まず、少年を少女だと完全に勘違いするというシチュエーションを想像しがたい。でも、人生で一度くらいは出くわしたいな。
    • ハツカから聞かされる意外な事実。眷属の数はあんまり多くない。基本は数人程度。でも、マヒルの好きなキクは例外的に多く、ざっと50人。
      • そもそも吸血鬼はなんで眷属を作るんだっけ。
        • 眷属は、人間でいうなら子供なのか、それとも配偶者なのか。今のところ、種の保存云々言ってるので、前者ぽいけど。
        • 子供がほしくない人もいればたくさんほしい人もいる、てところか。
          • だとすると、「『そんなつもりはなかった』と涙を流し 自分の眷属とは一切の連絡を断ち 二度と会おうとしない」キクのヤバさよ。
    • 一方ポジティブなメンズトークに花を咲かせるマヒルとメンヘラさんことあっくん。
      • あっくんには「そういうとこだぞ」と言ってやりたい。
    • コウにしろマヒルにしろ、もう眷属になるしかない、というハツカ。眷属 or dieである。
    • そして唐突に現れた、シリアスパートを担う女、鶯餡子。すごい次回への引きだね。
  • 第55夜。吸血鬼の弱点。
    • まず冒頭の、灰になろうとしている死体(?)と少女。誰なんだろうね。
      • 餡子と、吸血鬼になった(そして彼女が殺した)彼女の係累のように思えるけど。
      • ジッポライターが、死体が生前執着してた私物かな。
    • 前話からの引きと冒頭のシリアスな導入からいきなりはずしてくる女、餡子。そりゃあ店員さんもビビるし怒るよ。
    • からの、自分の眼鏡でひるんだあっくんをナイフでめった刺し。おっかねえ。狂気フルスロットル。
    • セリが乱入してきて、形勢逆転したところで、ついに明かされる、吸血鬼の弱点。吸血鬼は、人間だったころの私物、特に思い入れが強ければ強いほど、それが弱点になるという。
      • 弱点というのもふわっとしてる表現。肉体が弱体化するのか、精神が平衡を保てなくなるのか。
    • ハツカ曰く、「僕らはヒトを殺す趣味なんてないよ」。
      • 「僕ら」はどこまでを指すのか。趣味では殺さないけど、必要があれば殺すのか。
        • まだよくわからない、吸血鬼の倫理観。コウは真意が他の吸血鬼に知られるまでは殺される可能性が十分あったし、セリはあっくんをガチで殺す気っぽかったし、人間殺しがタブーでというわけではないのだろうな。
    • 吸血鬼殺しをしている餡子が特に執着しているのが、マヒルの思い人であるキクの様子。はてさて、どんな因縁が。
      • 冒頭の死体を吸血鬼化させたのがキクだったりするのだろうか。
  • 第56夜。人間の記憶。
    • 自分以外の吸血鬼がコウの血を吸ってご機嫌斜めのナズナ
      • この話中ずっと引っ張ってるのがかわいい。
    • さて、吸血鬼は人間だったころのことをだんだん忘れるという。
      • だんだんということは、吸血鬼である期間が長ければ長いほど、人間だったころの記憶は少なくなる、と言えるだろうか。
        • 各キャラの年齢(吸血鬼になってからの期間)はまだ明らかになってないけど、重要そうな情報だよな。誰が一番古株なんだろうか。
      • 作中で、まだ人間のコウや吸血鬼になりたてのあっくんも感じてることだけど、吸血鬼になってしばらくすれば、かつて自分が好きだった人のことも忘れてしまうことになる。
        • でも、吸血鬼になってからの記憶はあるのならば、吸血鬼になってからも自分が好きだった(=自分の血を吸った)吸血鬼と付き合いが続いていれば、その記憶までは消えないはず。吸血鬼になった時点でその恋心が残っているのならば。少なくともあっくんには現時点で残ってるし。
          • それとも、吸血鬼になりたての頃の記憶もぼんやりしていくのだろうか。人間が昔の記憶ほど思い出せなくなっていくように。
        • これを踏まえると、眷属を作っては連絡を断つキクが生み出した吸血鬼は、他の者に生み出された吸血鬼よりも早く、人間だったころの恋心を忘れてしまうことになる。
          • 吸血鬼になったきっかけを覚えていられない吸血鬼を大量に生み出している女、キク。意図的なのか何なのか。
    • ナズナが好きになった人の事を覚えていないという事実にショックを受けるコウ。それは将来の自分に起こりうる姿なわけで。
      • ナズナを好きになってナズナに吸血鬼にしてもらいたいと思ってるのに、今抱いているその気持ちをいつか忘れてしまうかもしれない。
    • 吸血鬼になった後に、恋心そのものを覚えていたとしても、あっくんが言うように、そのきっかけとなっている人間時代にあったことは忘れてしまう。彼女と出会った時のことも。彼女を好きだと初めて自覚した時のことも。
      • それはきっと悲しい話。少なくとも、人間の感覚を多く残している今は。
  • 第57夜。女の人に年齢を聞いちゃダメだぞ。
    • ついに明かされるナズナの年齢。30から40前後。生々しいな。
      • でも、生々しいかわいさがあるな。
        • 40前後であの振る舞いだとするとだいぶ年不相応である。人の精神は見た目に左右されるのか。精神は肉体に宿る。
      • ところで、吸血鬼は老化しなそうだけど、見た目は吸血鬼になった段階で止まるんだろうか。ナズナの「30から40前後」ってのは、吸血鬼になってからの話なのか、それとも人間時代を含めてなのか。どっちてもとれる言い方をしているので、いまいち判然としない。
    • ナズナの人間時代のヒントを見つけ、病院に行く二人。廃病院とかでなく、普通に営業中。
      • 見つかって不法侵入が発覚することを恐れるコウだけど、その割には声量に気を遣わなすぎじゃないですかね。
      • 物音を追って上階に行くけど、なんでそっちにナズナに関する何かがあると思ったんだろう……? むしろ職員に見つかることを恐れて離れるべきでは?
    • で、出会ったのが、なぜかナース服に身を包んでいる吸血鬼のカブラ。ちゃんと働けるのか(法的な意味で)?
      • 同じ吸血鬼のミドリもメイド喫茶で働いてるけど、バイトならなんとでもなりそうだが。看護師となると要資格では?
  • 第58夜。ナース服=えっちなお店という偏見。
    • 基本的に同族に気配りのないナズナだけど、カブラには輪をかけて無礼を働く。強い。
    • 「久… 久しぶりじゃない」という言いなおし。何を言いなおした?
      • 「久(ひさ)」から続くのは「久しぶり」に類する言葉しか思いつかんなあ(辞書の前方一致検索も使った)。
        • 人名等の固有名詞だと文脈変だしな。
          • 全っ然関係ないけど、この検索で「久生十蘭」が「くぜじゅうらん」ではなく「ひさおじゅうらん」であると知った。マジか。
            • むしろなぜ「くぜ」だと思っていたのか。
    • 病院内で調べることの条件に、ナズナにナース服(とコウに患者服)を着るよう申し付けたカブラ。趣味か?
      • 少なくともこの巻では特に重要な意味を持っていない。趣味か?
        • もしくは、カブラの回想に出たように、カブラが(おそらくは)人間だった時代のナズナの姿を思い出したかったのか。
          • やっぱり趣味だな。
    • 寝取り好きの嗜好を垣間見せるカブラさん。赤羽さんはただの患者なのか、眷属候補なのか。
    • ところでナズナちゃん、ずっとコウにおぶさってたね。
  • 第59夜。ナズナの過去とカブラの過去。
    • 一人トイレに入ったところで、カブラに襲撃されるコウ。
      • 物音がしたけど鏡越しに確認したら誰もいなかったから安心したのに、鏡に映らない吸血鬼の特性ゆえに奇襲に成功したカブラ。うまい表現だと思った。
        • 拉致られてる真っ最中も、鏡にはコウしか映っていないというコマで、それが吸血鬼の特性であることを最小限の情報量で示してる。うまい。
    • コウに寝取りを仕掛けるのと同時に、ナズナの心配もするカブラ。
      • なんとなく関係がありそうな性質である気がする。なんとなく。
    • そして、ナズナが見つけた、ナース姿の自分とベッドの上のカブラが写る写真。コウがカブラに尋ねる「ナズナはあなたの眷属か」という問い。次がめっちゃ気になるいい引き。
      • 次巻予告の書きっぷりで、さらに謎を掻き立てる。果たして写真に写っているのは本当にナズナなのか、カブラなのか。



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『よふかしのうた』6巻(前半)の感想の話

  • 第50夜。吸血鬼になることを決意するマヒル
    • 人当たりがよくて、友達も多い。と思われてるマヒルの内面。キクと出会って楽しさを感じたことで、翻って今までの自分の生活が別に楽しくなかったと気付いた。
      • 48夜でマヒルがコウを尊敬してるって言ってたけど、あれはコウが「他人とあわせないでいられる自分を持ってる」、つまり一人でいられる人間だから。それをリスペクトするマヒルは、他人とあわせないではいられない人間ということで。
        • ヒルにからんだ同級生、AKIRAの鉄雄ぽさがある。『だがしかし』でもAKIRAネタがあったな。
    • 最後にマヒルの言った「きっかけ」はなんのきっかけだろう。
      • 告白するきっかけ?
      • それとも、自分の嫌いな自分を変えるきっかけ?
  • 第51夜。そうだ、東京へ行こう。
    • 5巻のラスト(49夜のラスト)で示唆されたキクのキモさ怖さに改めて光が当たる。
      • コウやナズナは気づているけど、マヒルは気づいていないアンバランスな状況。コウは友人を心配するけど、その思索をナズナに邪魔される。
        • うまく問題を宙ぶらりんにした。
    • で、東京。
      • 「理由もなくなんとなく"東京に憧れる"をやってるやつらがムカつくコウ。(もともとの意味での)中二病でとてもよい。
        • 邪気眼とかじゃないぞ。飲めもしないブラックコーヒーを飲んだり、意味の分からない洋楽を聞いたりする方のやつだぞ。
      • かつて、漠然とした楽しさを求めて一人東京に出たナズナは、その華やかさがむしろ寂しかった。だから、今度は明確にコウと一緒に行きたいと思って東京に行った。
        • 外連味のあるナズナの表情がとても良い。アンバランスなはすっぱさが、彼女の精神をとても華奢に見せる。
          • その直後のコミカルなデフォルメ顔でさらに良い。
    • 「きっと 生まれて初めて 自分以外の誰かを大切だと思った。こんなにいつも一緒にいるのに またすぐに会いたくなる。これが この感情が恋じゃないなら じゃあなんなんだよ」
      • なんなんだろうね。そう思いながら血を吸われても、吸血鬼になれないんだもんね。
        • 獰猛なナズナの口元と、恍惚と照れの混じったコウの表情の対比がいい味出してる。
  • 第52夜。What is this thing called love
    • 道行く人々の恋愛(ナンパ)模様を見ながら、恋とは何かを考える、恋を知らない中学生男子と、恋に奥手な吸血鬼。
      • 純な恋愛。不純な恋愛。純からたどり着く不純。不純から行きつく純。
        • 「いいじゃないか 当人が納得していれば 他人が口出すことじゃない」
          • それができないのが人間。吸血鬼もかな?
      • 今まで恋愛感情を抱いたことのないコウが、自身の異常な体験を思い返し、道行く見知らぬ人々の恋愛する姿を見て、気づく真理。「ドラマなんかなくても人は恋愛ができる。」「恋愛なんて特別なことじゃない。」
        • まるでぴんと来てないナズナ。ははーんこいつ中学生男子以下か。
    • 夜の誰もいない動物園。動物も見えない。
      • 背景がしっかり描かれた大きめのコマに、小さめのキャラクターの絵。拙者そういう構図大好き侍。
      • ナズナに、明確な好意がこもった言葉を吐けるようになったコウ。男の子だぜ。
        • 「帰ろっか」がいい。自分たちがいる地元に帰るんだよ。自分たちが会えた場所に帰るんだよ。
      • 「せっかくならいつかは…」
        • その「いつか」は、来るべきではない時。マジョリティから背を背ける未来を選んだ者たちには来ない時。
  • 第53夜。中学生の恋バナを肴に酒を飲むダメな人(鬼)たち。
    • コウの話でアルコールが捗るダメな人(鬼)たち。
      • 自分もやってみたいか? ……ちょっとやってみたいかも。
        • あと、かわいい女の子とテレビゲームして盛り上がりたい。
          • 男はいくつになってもそんな願望を抱いてしまうかわいそうな生き物。
    • 最後にコウをさらっていったナズナ。かっこよくてかわいい。
      • コウと二人ならテンションガン上げでゲームをするけど、他の人間と一緒ではそういう素を出せない。照れをにじませるでもないスンとした顔のナズナ、いい……



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俺マン2020の話

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
昨年はコロナ禍で引きこもるしかなく、本好きには絶好の積読崩しイヤーだったかもしれませんが、もともと引きこもり傾向のある私にはあまり関係なく、例年と大差ない読書量でした。今年もぼちぼち読んでいきたいと思います。
さて、なぜか恒例となっている新年早々に去年の総括。俺マンを軸に振り返ってみます。
俺ギュレーションとして、2020年に発表された作品から、もっともグッときた作品5本(順不同)。ただし、殿堂入りを+1本と、次点の作品群も挙げてみます。また、今年は(というか例年そうなのですが)、それ以前の年と被る作品がちらほらあるので、タイトル以外に言及するのは、俺マンに初エントリーの作品のみとします。
では、まずは俺マン2020に輝いた5作品。

・ワンダンス/珈琲

・水は海に向かって流れる/田島列島

・違国日記/ヤマシタトモコ

以上三作品は常連ですね。『水は海に向かって流れる』は完結ましたが、『ワンダンス』と『違国日記』は2021年も作品発表が想定されるので、おそらく次回は殿堂入りになるかと思います。

以下は新規の作品。
・葬送のフリーレン/山田鐘人・アベツカサ

こちらは既にブログで紹介していますが
魔王を倒しても世界は続く 自分と仲間を知りなおす旅『葬送のフリーレン』の話 - ポンコツ山田.com
『葬送のフリーレン』旅でフリーレンが知るもの、気づくものの話 - ポンコツ山田.com
その独特な空気は3巻になっても健在です。魔王を倒したパーティの一人である、主人公の長命なエルフ・フリーレンが、その冒険の中で見過ごしていたことを、かつての仲間の係累や、かつての冒険の足跡をたどりなおすことで、再発見していく、物語の後日談の物語。『このマンガがすごい!2021』オトコ編第2位にランクインしたのもうなずける、非常に完成度の高い作品です。
生物としての性質が異なる知的種族が混在する世界。その性質の違いとは、端的に言えば寿命であり、時の流れは誰にも平等で流れながら、その流れを受け止めるキャパは種族ことに違う。1000年の時すら生きるエルフと、100年で死ねば大往生の人間では、見えるものも感じるものも変わるのです。その性質の差ゆえに、すれ違ったり食い違ったり理解できなかったりする思い。エルフのフリーレンが他の種族の思いを理解するときには、その当人は既に死んでいることがほとんど。でも、フリーレン自身は生きているし、死んだ彼や彼女の係累も生きているかもしれない。気持ちの受け渡しは、必ずしもその当人の間だけで行われるものではなく、人を変えて世界に広がっていくものなのでしょう。
葬送のフリーレン 1. 第1話 冒険の終わり/第2話 僧侶の嘘


・ハコヅメ~交番女子の逆襲~/泰三子

こちらはブログでも未言及の作品。すでに15巻まで出ている作品なのに、恥ずかしながらちゃんと読んだのは今年の秋口という体たらく。これがめっぽう面白くて、なぜ今まで読んでいなかったのかと後悔することしきりでした。タイトルだけ見て、「被害者が折りたたんで箱の中に詰められている猟奇殺人事件を追う交番の女性警官のお話」というミステリーものと思い込んでいたせいで、食指が伸びなかったんですよね……よもや、元警察官の作者が描くコメディだったとは。
で、そのコメディのノリが非常に私好みでした。ボケに対してしれっとした感じのテンションでキャッチーな言い回しのツッコミを当て、さらにツッコミにもツッコミを重ねていくスタイルで、まずその切れ味が抜群。一歩間違えればくどい言い回しになってしまいそうなところを、会話劇を軽妙にさばいていきます。
また、そもそものシチュエーションが警察なので、非警察官である多くの人間にとってそのシチュエーション自体が異次元。まだ警察の常識に染まりきっていない主人公の新人女子警察官が、いわば読み手の目となり、すでにズブズブになっている先輩警察官たちが当たり前のものとしてふるまう常識に対して、(読み手からすると)まっとうな拒否反応を示し、いやその拒否反応こそおかしいのだ何を言っているんだお前はと先輩たちは主人公の常識を塗り替えようとする。そして、その一連の流れを、時に主人公の目を通して、時に物語の外にいる非警察官の目として見せることで、えらい破壊力の高いコメディが出来上がっているのです。
ずるいのは、コメディだけでなく、警察官としての職業倫理がキラリと光るような話もささっと挟んだり、伏線や布石をうまくつなげた長編も作り上げる、ストーリーテラーとしての手腕。コメディで終わる話かと思ったらそのコメディ部分を伏線としていい話のオチにしたり、いい話で落とすと思ったらもうひとひねりコメディで着地したり。いやホント、なんでもっと早く読んでこなかったのか。
ハコヅメ~交番女子の逆襲~ - 泰三子 / その1 アンボックス(ハコから逃げろ) | コミックDAYS


さて、以下は惜しくも次点組。
・よふかしのうた/コトヤマ

異世界おじさん/殆ど死んでる

異世界おじさん 5 (MFC)

異世界おじさん 5 (MFC)

こちらは以前にも登場済みですね。

・味噌汁でカンパイ!/笹乃さい

幼いころに母を亡くした中学二年生の善一郎と、そのお隣に住む幼馴染の八重。ある日、善一郎が毎朝簡単な朝食しかとっていないことを知った八重は、突如彼の家に押しかけ、朝食を作ってあげることに。そこには、善一郎の母が死んだときに八重が彼とした約束があって……という、ハートフルなラブコメディ。中学生の幼馴染というもだもだする甘酸っぱさや、着物の描写にやたらと力を入れている作者や、味噌汁のうんちくなど、要所要所で私の心にフックした作品です。
この作品も、10巻が発売された段階で初めてまともに読んだのですが、そのきっかけは漫画アプリでの試し読みで、実はそれは『ハコヅメ』も同様。1巻か、せめて3話くらいまで読めると、販促に大きく寄与しますね。
味噌汁でカンパイ! 1. 1杯目 君の味噌汁が、食べたい?


・忍者と極道/近藤信輔

世の中の裏側で長年にわたり対立してきた忍者と極道が、異能とクスリでバッキンバキンのメッタメタでド派手な戦いを繰り広げていくバイオレンス漫画。そして、忍者方の主人公である忍者(しのは)と、極道方の主人公である極道(きわみ)は、裏では相手方の組織を壊滅させようと血道をあげているけれど、表の世界では、偶然知り合った同好の士(アニメ「プリンセス」シリーズのガチオタ)として、相手の正体も知らず親交を深めている。
よくあるといえばよくあるシチュエーションではあるのですが、荒唐無稽なバトル(殺戮)シーンと、謎のルビが乱舞するセリフ回しには、「よくある」などとは決して言わせぬ力があります。「そんな…お前が敵だったなんて……」というラストは見せつけられているかのように見通せるのですが、そこまでどういうルートをたどってたどり着くのか、まるで予想がつきません。いや、予想はできるけど想像はできない、という方が正しいかも。地図で道を見てもその道がどんな様子で実際通った時に何がいるかまではわからないのです。
忍者と極道 - 近藤信輔 / 第1話 忍者と極道 | コミックDAYS


鬼滅の刃/吾峠呼世晴

いまさら何を付け加えることがあろうかという超有名作。2020年は間違いなく本作が席捲した年でしたね。
最後まで、一息はいるところはあっても中だるむことはなく、全23巻を最後まで駆け抜けたという印象。最終戦で、キャラクターの生き死ににシビアなのがしびれます。

栄えある殿堂入りは『BLUE GIANT』シリーズです。

『SUPREME』が終わり、『EXPLORER』が始まりましたが、まさに大の言うように、まだまだ上に行きたいから新しいステージに移るための新章突入でした。『SUPREME』で燃え尽きてそこで終わりじゃなくて、また先の世界を切り拓く『EXPLORER』の物語。こんなん殿堂入りにするしかないです。
『BLUE GIANT SUPREME』辿り着いた極点とゼロからの探求の話 - ポンコツ山田.com
ということで、2020年の総括でした。
今年もまた面白い漫画に出会えますように。


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