14巻が発売された『その着せ替え人形は恋をする』。
13巻後半での、冬コミの盛り上がりと裏腹の五条の落ち込みが不安を誘っていましたが、今巻で無事カタルシスを得ることができました。107話の最後5ページのバカな感じ、すごい好き。さて、13巻発売の時点で私にしては珍しく、五条の心情についてその時点での推測する記事を書いていたのですが
yamada10-07.hateblo.jp
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それがだいぶ見当違いだったことがものの見事に判明しました。ガッハッハ。
五条の言葉を否定したもの。そして五条が気づいたもの。 それを、嫉妬や恋心などというのは簡単です。ですが、それだけと捉えるにはあまりにも五条の表情は重く、イベントが終わり二人きりになった後も沈痛なままでいる理由にもなりません。
『その着せ替え人形は恋をする』一目惚れへの五条の挑戦と、今更気付いたものの話 - ポンコツ山田.com
五条自身も、海夢が手が届かない人間だと心の底から思っていたわけではないでしょう。でも、理想の「ハニエル」が生まれてしまったことで、手が届かないハニエルの依り代となった海夢もまた手が届かない人間なのだと、両者が補い合うようにして彼の絶望的な感情を強めてしまった。そう思えるのです。
『その着せ替え人形は恋をする』五条の二つの後悔と、現実になってしまった「手の届かないもの」の話 - ポンコツ山田.com
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<彼はなぜ「虜にさせるように振る舞って下さいなんて言わなければ良かった」などと思ったのか。 それは、そんなことを言った、すなわち、そんな指示を海夢にして、理想の「ハニエル」が現れたために、「「愛を求めたところで 返ってくる訳がない」存在は、本当にその通りの存在なのだということ」に気づいてしまったから。
『その着せ替え人形は恋をする』五条の二つの後悔と、現実になってしまった「手の届かないもの」の話 - ポンコツ山田.com
深読みしすぎというか、いったい私は五条をどれだけネガティブな思いに囚われた人間だと考えていたんでしょう。14巻を読めば、五条がこの時点で自分の嫉妬心を自覚したことはわかりますが、その嫉妬心≒恋心が海夢に届くとは露とも考えていない(その気持ちは海夢に伝えるべきものではなく、自分の中で完結させるものである)と五条は信じていた、と私は考えていたわけですから。
「嫉妬や恋心」と呼んでよかったんやで。むしろ正解だったんやで。
とはいえ、負け惜しみではないですが、13巻までの五条君の心情のネガティブな描きっぷりと、それと対比するような周縁の人間(司波や溝上、コミケのカメコ、海夢をプロに誘ったプロダクションの人間など)による海夢の持ち上げっぷり、ある意味での偶像化は、読者に二人の関係性の亀裂を予感させるようなものだったと思うんですよね。そのミスリードに見事私は引っかかったわけです。
さてさて。
それを踏まえた上で、五条が海夢にハニエル、すなわち「作った物で人の心を動かす」「圧倒的な力」に挑もうとした理由を考えると、五条から海夢へのクソデカ感情があったことがうかがえます。もちろんずっと前から五条から海夢への好意は描かれていますが、そんなふわっと描かれたものではなく、また別種の、もっと激しいクソデカなヤツがです。
なぜって、司波刻央の描いたハニエルに「心が完膚なきまでに叩き潰されたような」気持ちを抱き、「何十年も鍛錬を重ねてきた方に俺が敵うはずありません 俺ではハニエルを表現しきれません」と言いながらも、「「この衣装を作りたい」「見たい」と思」って、五条は制作に取り掛かったのですが、実際に実行に移せたのは、クソデカ感情を抱いていた海夢がいたからです。
俺が表現したいハニエルは
喜多川さんがいれば必ず完成します
今まで撮影してきた表情を見てきたからこそ確信しています
俺はハニエルが見たいです
お願いします 力を貸して下さい 俺の我儘に付き合って下さい
(13巻 11~13p)
自分がハニエルに愛されていないと分かるほどにです
でも「それでも構わない」と
虜にさせるように振る舞って下さい
(13巻 16p)
人知を超えた美しさを持つハニエルになるための、五条からの要求。あまりの無理難題に海夢はためらいますが
大丈夫です!!
俺の知ってる喜多川さんなら
必ず出来ます!!
(13巻 18,19p)
この断言。海夢の容貌と、モデルとして振舞うときの精神性にたいする絶対的な信頼がなければ、こんな物言いはできません。人間以上の美しさを持つ存在にあなたならなれるという絶対的な信頼。端々で描かれてきた五条のピュアピュアな好意とは明らかに別種なこの思いを、クソデカ感情と言わずして何と言いましょう。
きっと五条は、自分のクソデカ感情については自覚的だったでしょう。だから海夢にハニエルのコスプレをお願いした。でも、そのクソデカの影に隠れていた恋愛感情は、嫉妬心に自覚するまで気づけなかった。
五条が海夢への恋愛感情に気づくためには、第三者から彼女への好意が必要でした。好意というか、好奇というか。あるいは憧憬や崇拝かもしれませんが。
もともと自分とは違う世界にいると思っていた海夢と、コスプレを通じて近くにいることができた五条。でも、まさにそのコスプレによって、彼女が他の人間から特別な感情を向けられてしまっている状況。必然のような、どうしようもないことのような。でも、どうしても我慢がならなかった。
それは嫉妬。それは独占欲。俺の大事なものをとらないでくれ……
13巻から読み返すと、答え合わせのように五条の表情や態度の意味が理解できて楽しいですな。そして14巻をまた読むと、海夢のはしゃっぎっぷりがさらに楽しいですな。よかったよ五条君…よかったよ海夢ちゃん……
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