ポンコツ山田.com

漫画の話です。

漫画

脆くひりつく思春期の心と、無意味で開放的な楽しさ 両方楽しめ! コトヤマ短編集『ファンフィクション』の話

高校2年生にして剣道日本一を達成した少年・高砂シン。その大会からの帰り道、快挙の達成とは裏腹に剣道をやめようと決意した彼の目の前に現れたのは、編み笠をかぶった小柄な辻斬りだった…… 百鬼夜行。それは、見れば死ぬと言われている妖怪達の大行進。人…

『アオアシ』想像の先の世界を楽しむために必要なものの話

先日の『アオアシ』最終巻に寄せた記事にて。 yamada10-07.hateblo.jp ここでは「想像を超える楽しさ」について書きました。曰く、想像力を持つことで人は成長できるが、その想像の枠を超えることで未知の面白さに辿り着けると。 ですが、ここでは言及してい…

『アオアシ』未知との遭遇 初めて気づかされるもの 想像力を超えた先にある楽しさの話

最終巻となる40巻が発売された『アオアシ』。アオアシ(40) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazon この先を見たい気持ちは起こりつつも、育成をテーマに描くのであればここでこう終わるのがベストだという判断は間違いないところ。当初は描く予定…

『宇宙兄弟』『人間の土地』限界状況で見せる人間の美しさの話

45巻の発売と同時に、次巻での完結が発表された『宇宙兄弟』。宇宙兄弟(45) (モーニングコミックス)作者:小山宙哉講談社Amazon 連載開始から早17年。第1話で主人公の六太が会社をクビになったのが2025年5月のことですから、連載開始時点ではだ…

米を食うまで異世界で死ねるか!『異世界メイドの三ツ星グルメ 現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました』の話

物心ついてから数年、少女シャーリィはある日、唐突に思い出した。自分が前世で日本人であったことを。そして同時に絶望の打ちひしがれる。日本で食べていたあの美食の数々を、もうこの世界では食べられないのかと。しかし彼女は諦めない。否、むしろ燃え上…

『BLUE GIANT MOMENTUM』コンペで際立つダイの、堂々として、悠々として、傲岸不遜でスペシャルなかっこよさの話

5巻が発売された『BLUE GIANT MOMENTUM』。BLUE GIANT MOMENTUM(5) (ビッグコミックススペシャル)作者:石塚真一小学館Amazon 若手ジャズマンの登竜門であるインターナショナル・ジャズ・コンペティションに参加したダイは無事デモ審査を通過し、二次予選…

怪談を生んだ、自分も知らない心の奥底『こころの一番暗い部屋』の話

ここは作家が集まるネットの通話コミュニティ。プロアマ問わず、作家なら誰もが参加できる通話ルームがいくつもあるけれど、その中の一つに、「キーワード怪談」が流行っている部屋がある。参加者がキーワードを一つずつ挙げ、それらを元に誰かが即興で怪談…

『ルリドラゴン』整理されていない感情の言葉と、読者と地続きの日常の話

先日発売しました『ルリドラゴン』3巻。ルリドラゴン 3 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:眞藤雅興集英社Amazon 読むたびに他の作品ではあまりない不思議な感覚を味わっているのですが、それがなんだと考えてふと思い当たったのが、感情表現のあけすけさ、…

推しへの愛はグッズに変えろ グッズ制作コメディ『推しをカタチにする仕事』の話

推しをカタチにする仕事 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:安藤狂太郎集英社Amazon 推し。 いつの頃からか私たちの生活に入り込んできたこの言葉。アニメ、漫画、ゲームといった二次元のキャラクター。アイドルやスポーツ選手といった三次元だけど遠くにい…

神の罪は弁当箱の隙間に 人の隙間に神のお弁当を『邪神の弁当屋さん』の話

読切コンペが掲載されたときにレビューをした、イシコ先生の『邪神の弁当屋さん』の1巻が発売されました。邪神の弁当屋さん(1) (コミックDAYSコミックス)作者:イシコ講談社Amazon そのレビューは去年の6月でしたが、まっこと時の経つのは早いものよ…

勇者たちの帰る先に待つもの 私が帰った後に待つもの『勇者ご一行の帰り道』の話

「家に帰るまでが遠足です」 私たちは子供の頃そう言われました。 でも、西の勇者はこう言いました。 「魔王を倒して終わりじゃない。生きて帰るまで俺達の旅が続く」。 そう、これは勇者たちが故郷に帰る物語。勇者たちのために、家族のために、旅を終わら…

盛れリビドー! 拗らせろ性癖!『オタク君の性癖を一生歪めていく異種族娘たち』の話

子供はまだ何色にも染まらず吸収力が高いだけに、ちょっとしたことが後の人生を大きく変える出来事にもなりうる。そう、たとえば性癖とか。その相手が、普通の人間にはない特徴を有する異種族であればなおさら。 年齢不詳のギャルエルフに「握手洗い」をして…

『フィットネス住職』説法とダイエットとなりたい自分になるための話

2025年1月3日付ののジャンプ+で掲載された、ネズクマ先生の読み切り『フィットネス住職』。 shonenjumpplus.com 霊障と思しき体の不調に悩む女子高生がお寺の住職に相談すると、説法という名のダイエットにいざなわれ、心身の復調と共に悩みも解決する…

俺の俺マン2024の話

あけましておめでとうございます。 さて今年も年明け早々去年を振りかえる俺の俺マン。俺シュレーションは例年通り、1,2024年中に発表された、もしくは単行本が出た作品で 2,その中でも特に心をつかまれた作品で 3,5作品 4,今まで選んだことの…

熱で夢はもう一度花開く さあその筆をとれ『モノクロのふたり』の話

母が死んだあの日から、夢を諦め堅実に生きることにした。 不動花壱は絵が好きだった。上手だった。将来はそれで食べていきたいと思っていた。でも、一人で自分たち兄妹を育ててくれた母が死んだ15歳のあの日、彼は筆を折った。妹を育てるため、勉強し、バ…

『その着せ替え人形は恋をする』五条のクソデカ感情とその陰に隠れていたあの気持ちの話

14巻が発売された『その着せ替え人形は恋をする』。その着せ替え人形は恋をする 14巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)作者:福田晋一スクウェア・エニックスAmazon 13巻後半での、冬コミの盛り上がりと裏腹の五条の落ち込みが不安を誘っていましたが、…

欲望は声に出さなきゃかなわない!己の「好き」を叫べ!!『君にかわいいと叫びたい』の話

桐山はある新入社員を見て、生まれて初めて驚愕で腰を抜かした。その女性社員・南ことみは、自分が愛してやまないヴィンテージドール、てぃあらちゃんに瓜二つだったのだ。 中野ブロードウェイで運命の出会いを果たしたてぃあらちゃんをお迎えして以来、単調…

科学の知識でおいしいごはんを! 『ヤンキー君と科学ごはん』の話

品行方正な高校の中で、一人目立つヤンキー高校生・犬飼千秋。一年一学期の内に留年リストに入れられかねない彼をどうにかしろと、担任である化学教師・猫村蘭にお達しが下る。何とか補習に出席させるも千秋は「科学なんて役に立たねーだろ」と吠えるのだが…

男四人廃墟に突撃 何も起きないはずがなく…『ゾゾゾ変』の話

「ゾゾゾ」。それは心霊スポットやいわくつきの廃墟を探索して、ホラーポータルサイトを作り上げようというYouTubeチャンネル。落合、皆口、内田、長尾らが怪しい場所に突撃しては怪しいものを探し、撮れ高が悪ければ誰か一人を置き去りにすることも…

食らえ! そして至れ! ドカ食いこそ至高の愉悦『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』の話

ドカ食い。それは生きる喜び。 人は生きていればお腹が空き、お腹が空けば何か食べなければいけない。お腹の隙間を余すところなく埋めるように食らい、ただただ目の前の食べ物を貪り尽くす。 ドカ食い。それは「至る」喜び。 満腹と高血糖の果てに包まれる恍…

彼の絵は彼女の夢を蘇らせ、彼女の熱は彼に絵を描かせる『モノクロのふたり』の話

母が死んだあの日から、夢を諦め堅実に生きることにした。 不動花壱は絵が好きだった。上手だった。将来はそれで食べていきたいと思っていた。でも、一人で自分たち兄妹を育ててくれた母が死んだ15歳のあの日、彼は筆を折った。妹を育てるため、勉強し、バ…

『2.5次元の誘惑』『モルモットの神絵師』作者と鑑賞者の間にある動的な営みの話

新刊にてまゆら復活編に一区切りがついた『2.5次元の誘惑』。2.5次元の誘惑 21 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:橋本悠集英社Amazon 区切りをつけつつ、新キャラを出しつつ、さらにガチホラー話も入れつつ。ガチでホラーにふっててとてもいいですね。もっと…

『アオアシ』セリフ内のカッコ書きによる、没入感の消失の話

新刊が出てやっぱり面白い『アオアシ』。ゲームの中で挫折と成長を重ねていく姿は見ていてワクワクしますね。昨日もつい既刊を読み返してしまい、寝不足気味です。アオアシ(37) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazon さて、面白い作品とはいえ、…

『きのう何食べた?』ケンジみたいになれたシロさんの17年の変化の話

最新刊の23巻で、まさかのシロさんとケンジの結婚式を挙行した『きのう何食べた?』。きのう何食べた?(23) (モーニングコミックス)作者:よしながふみ講談社Amazon 雑誌連載時に読んだときは、シロさんがぶちぎれるんじゃないかと本気で心配したのは以…

錦久家の日常はコミカルでカラフルでリズミカルで 『ザ・キンクス』の話

ザ・キンクス(2) (コミックDAYSコミックス)作者:榎本俊二講談社Amazon というわけで、榎本俊二先生の新作『ザ・キンクス』のレビューです。 小説家の隅夫、専業主婦の栗子、女子中学生の茂千(モチ)に、男子小学生の寸助。錦久家の四人家族が織りな…

『モルモットの神絵師』コミュニケーションの本質と、漫画を描くことと漫画の感想を書くことの意味の話

引き続き『モルモットの神絵師』を読んでのお話。 shonenjumpplus.com 本作の主人公・岡太朗は、インフルエンサーのチハルに監禁され、「人のため」の絵と「自分のため」の絵の2枚を描きあげた後、チハルが「『自分のため』に描いた絵の方が美しい」、「『…

『モルモットの神絵師』モルモット/人間を見る目と、「絵を描くこと」がつないだものの話

本日(令和6年9月12日)付でジャンプ+に掲載された、中山敦支先生の読み切り『モルモットの神絵師』。 shonenjumpplus.com これがたいそう面白かったのです。 物語は、世間で人気のあるものを徹底的にリサーチして、「いいね」を稼ぎ、フォロワーを稼ぎ…

好きなものを描け! そして食え! 芸術はパクパクだ!『馬刺しが食べたい』の話

テーマが「自分の好きなもの」だっただから他意なくそれを描いた。それだけのはずだった。なのになぜこんなことに。 梅野かえでが描いた馬刺しの絵は、見事最優秀賞に輝いた。その絵が校内に飾られたことで、彼女の馬刺し好きは学校中に広まってしまった。華…

『ヤンキー君と科学ごはん』「当たり前」に隠された理屈の面白さの話

現在「となりのヤングジャンプ」で連載中の『ヤンキー君と科学ごはん』。今まで特に触れてきてませんが、現在連載中で既刊5巻以内のおすすめ作品を問われたら、五指に入るくらいには好きなんですよね。ヤンキー君と科学ごはん 1 (ヤングジャンプコミックスD…

アニメ『ワンダンス』に期待する「見てて気持ちのいい」ダンスの話

アフタヌーンで連載中の『ワンダンス』がアニメ化という報が飛び込んできた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。 wandance.asmik-ace.co.jp 本作は、自身の吃音もあってコミュニケーションに自信のなかったカボこと小谷花木が、高校に入学し、ストリート…