「家に帰るまでが遠足です」
私たちは子供の頃そう言われました。
でも、西の勇者はこう言いました。
「魔王を倒して終わりじゃない。生きて帰るまで俺達の旅が続く」。
そう、これは勇者たちが故郷に帰る物語。勇者たちのために、家族のために、旅を終わらせる物語……
shonenjumpplus.com
ということで、平野稜二先生の読み切り『勇者ご一行の帰り道』の感想です。この作品は、ジャンプ+への掲載は2018年のことですが、今月発売されたジャンプ+10周年企画読切集の一つ、『読切集 情』に収録されています。
最初に書いたように、この物語は勇者たちの帰還を描く物語。世にも名高い「西の勇者」のご一行が、魔王城を後にして彼らの故郷へと帰る物語。
初めのうちこそ彼らの足取りは軽く、朗らかな空気が漂っています。最年少である魔法使いのニナが勇者、戦士、僧侶に楽し気に話しかけながら、長い旅路を歩んでいきます。
しかし、その旅路のいびつさは少しずつ露わになっていく。ニナ以外の者たちは終始俯き、食事にも手を付けず、テントがモンスターに襲われても指一つ動かさない。端々でニナが回想する旅の楽しい思い出に三人の異様さは覆い隠されるが、旅が終わりに近づくにつれ、いよいよ隠し通せないほどの異質さがご一行にたちこめる。その異質さとは、端的に虚無。故郷に帰るという楽しいはずの旅路から、次第に笑顔が消え、三人の無表情と、ニナの絶望の顔だけが張り付いている。
ついに故郷まであと少しという宿営地。勇者の弟との再会で、真相が明らかになる。勇者たちは既に死んでいた。魔王との戦いで、皆死んだのだ。唯一生き残ったニナが遺体操作と防腐の魔法を使って、勇者たち三人の遺体を彼らの故郷の村まで送り返そうとしていたのだ。
そう、これは勇者たちが故郷に帰る物語。たとえ道半ばで力尽きても故郷で眠りたいという勇者のために、そして勇者たちの帰りを待つ彼らの家族のために、ニナが旅を終わらせる物語。
この物語が「帰り道」の物語だとは、冒頭で述べられています。
——これはこの世界に
勇者たちにまだ 帰り道ができる前の話
終盤で明らかになるように、ニナが属する「西の勇者」たちパーティーは魔王に敗れ、ニナを除いて命を落としました。その三人を連れて彼らの故郷へ帰るニナ。ニナ自身は三人の旅の途中で拾われた孤児なので、勇者たちの村とは縁がありません。その意味で、魔王城から勇者たちの故郷への道は、ニナにとって帰り道ではないのです。そこが帰り道なのは、死んだ彼らだけ。
その道が「帰り道」になるのが、帰った先に待っているものがあるから。家族であったり、故郷であったり、待っているものがあるから、そこが帰る場所になる。
孤児のニナには、待っててくれる家族も、帰るべき故郷ない。強いて言えば、一緒に旅をした勇者たちこそが家族だった。勇者たちが一緒に帰ろうと言ってくれた彼らの故郷こそが、ニナにとっての故郷だった。でも、その勇者たちももういない。彼らの故郷についても、そこにニナの家族はもうおらず、ニナの故郷ももうない。ニナの「帰り道」はどこにもない。
だから、ニナにとって、この「帰り道」の道中の旅こそが居場所だった。勇者たちが故郷に向かっていればまだ旅を続けられる。家族と一緒に居られる。でも、旅を続けることは勇者たちの願いに背くこと。
自分の居場所と、彼らの帰る場所は、決して相容れない。その二律背反に引き裂かれながら、ニナは旅を続けました。
そしてついに旅の終わり。「帰り道」の終わり。死んだ勇者たちを彼らの故郷まで送り届けたニナは、一人生き残り勇者たちの遺体を送り届けることしかできなかった自分に罵声を浴びせられる覚悟までして、彼らの遺体を家族に引き渡しました。彼女にかけられたのは、感謝の言葉でした。たとえ死んでも故郷で眠りたいと勇者たちが願ったように、彼らの家族も、たとえ死んでいたとしても勇者たちが返ってきてくれることを願っていたのでした。
旅の終わりは、ニナと家族の別れの時であり、ニナが家族の願いをかなえられた証。ニナにとって、どうしようもなく悲しいものであり、どうしようもなく安堵と嬉しさに包まれるもの。
旅の終わりは、勇者ご一行としてのニナの終わり。そして、「帰り道ができる前の話」の終わり。終わりの先にニナが見つけた道は、自分のいなくなった家族同様、帰る前に命が尽きてしまった人を、その人の故郷まで帰す道。家族も故郷もないニナが選んだのは、自分自身が帰る道ではなく、自分では帰れなくなった人を帰す道でした……
朗らかな空気と楽しい思い出を塗り潰していく虚無と絶望。明かされる真相。旅を終えたニナを待つ別離と祝福。旅の先に見つけたニナの新たな道。
これらがあまりにも無駄なく美しく、コミカルさまで入れながら配置され、クライマックスまでの起伏とカタルシスを産んでいるのが素晴らしいです。短編として出色の出来だと言えるでしょう。この一話のために『読切集 情』を買う価値があるといっても過言ではないでしょう(※個人の感想です)。以前ブログで書いた『正しくない先輩』もついてるんだから、その価値は二倍でドン。
『正しくない先輩』の正しくない物語で描かれる平熱の正しくなさの話 - ポンコツ山田.com
読切集の発売からちょっと空いてしまいましたが、ぜひ読んでほしいです。
一言コメントがある方も、こちらからお気軽にどうぞ。