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漫画の話です。

俺マン2021の話

あけましておめでとうございます。昨年は末に駆け足でばばっと記事を書きましたが、今年はもうちょっと均して書いていきたいですね。
さて、年明け早々の毎年恒例、俺マンの話です。
ノミネートは10作品。以前にノミネートした作品はなるべく避けて、どうしても入れたいと思えばやぶさかではない、というくらいの選出基準です。
まずはダダっと10作品。順不同です。

ハコヅメ/泰三子
2.5次元の誘惑/橋本悠
ブルーピリオド/山口つばさ
チ。ー地球の運動についてー/魚豊
映画大好きポンポさん3/杉谷庄吾
アオアシ/小林有吾
東独にいた/宮下暁
ブランチライン/池辺葵
メダリスト/つるまいかだ
ダンジョンの中のひと/双見酔


以下、簡単にコメント。

10作品の中で唯一、以前にもノミネートされた作品。
怒涛のギャグとリアルな現場の空気が、熱帯魚なら死んじゃうくらいの温度差で攻め立ててきて、その刺激がクセになりすぎる。
今年は、ギャグで言えば、何度読んでも笑わずにはいられない「三歩前」回が収録されている17巻が出ました。伝説の「みなもとフェイジー」を筆頭に、恐ろしいまでの笑いの密度。
そして、それと対になる形で出版された『ハコヅメ 別章アンボックス』。「楽しいことは何も出てこない」と帯に書かれるくらいに重っ苦しく、えぐみが強く、救いがない話。事件があったら、被害者がいたら、たとえ犯人が挙げられて刑に処されても、それは救いではない。代償に過ぎない。マイナスがゼロに戻るわけじゃない。傷が消えてなくなるわけじゃない。本編の方でもしばしばシリアスな回が描かれ、その時にも痛感しますが、警察ができることは敗戦処理ばかりなんだという辛さを味わえます。
この両方を同じ舞台で描けるのがこの物語の、そして作者の恐るべきところです。今年も期待大。集英社で連載中の作品の中で一番好きな漫画かも。マジで。
「現実の女に興味なし!」と言い切る漫研部長・奥村と、「コスプレROM(R15)」を作りたいと部室の扉を叩く新入生・天乃リリサ。二次元キャラクター・リリエルの愛で意気投合する二人だが、はたして、リリエルのコスプレを身にまとったリリサを見て、奥村は幾久しく忘れていた三次元の女性への興奮を思い出す。部長として、同じオタクとして、よこしまな心なくROM制作に協力したはいいものの、この調子で無事ROMは作れるのか……?
という感じの学園コスプレお色気コメディ。
登場人物もどんどん増え、オタクネタ満載のギャグといろいろなタイプので美少女によるお色気でフックはとても強いんですが、それ以上に、巻を重ねると強くなっていく、悩みやコンプレックスを、活動や交流の中でどう昇華させていくのかというのがとても熱い。
コミュ障の人間がどう一歩踏み出すか。コミュニケーションを拒絶している人間にそれでも関わりたいと思うならどうするか。長い間合うことのなかった父に思いを伝えるには。恋愛感情が分からなくなってしまった人間が恋愛感情を向けられたどう対応すればいいのか。etc…
このコメディのノリでよくこれだけの複雑な心理に踏み込んだ物語を作れるなと、唸ることしきり。通り一遍の解答じゃなくて、ちゃんとそのキャラクターに沿った、一歩踏み込んだ、具体的な言葉とシチュエーションを用意しているのがいいんです。
ちなみに連載のジャンプ+では少年漫画おなじみの湯気や謎の光が大活躍していますが、コミックスではTKB券が発行されています。要領よく生きていた高校生が、生まれて初めて自分の感じていることを絵にし、その「感じていること」が見たものへ伝わったことに感動し、美大を目指すことになる美大受験漫画、のちに入学して美大漫画。
絵を学ぶことをしてこなかった自分には、絵はこういう風に学ぶものなのか(たとえ一例だとしても)と知れて、まずそれが面白い。そのうえで、絵を描くこと、表現することのエゴイステイックさ、自分が感じていること考えていることを絵で伝える意義、絶対的な基準のない世界でそれでも順位や評価をつけることの困難・つけられることの理不尽。
自身も芸大出身者である作者の実体験も踏まえているのでしょう、ここぞというところで力のある一枚絵を持ってくる画力とともに、胸に迫ってくるものがあります。
『メダリスト』もそうですが、芸術的な評価の分野で理論や反復的な技術習得がどう必要になるのか、ということも描かれていて、そこも好き。
『ブルーピリオド』熟練度の向上とクリアになる世界の解像度の話 - ポンコツ山田.com
天動説華やかりし時代に、地動説の証明、あるいは神の美しさの証明のために命を賭けた人間たちの物語。
地動説を考えるのに文字通り命を賭ける必要のあった時代で、それでも証明に血道をあげ、そして死んでいった人々には、真実を追い求める姿は美しいなんて甘っちょろい言葉は似つかわしくありません。
たとえ死んでも、否、残虐に殺されてもそのことについて考えずにはいられないという切迫、焦燥、義務感。そんな、ある意味で狂っているとさえ言えるその姿は鬼気迫るものであり、C教からしてみれば(私達からしてみたって)悪魔に憑りつかれているかのよう。それを踏まえたうえで、言いたいのです。真実を追い求める姿は、狂気であり、醜悪であり、残酷であり、そしてなお美しいのだと。
『チ。―地球の運動についてー』理論の「美しさ」の意味と価値の話 - ポンコツ山田.com
『チ。―地球の運動について―』積み重なる知の価値の話 - ポンコツ山田.com
知の美しさと過去からの集積 『チ。』と『はじめアルゴリズム』の話 - ポンコツ山田.com
現実の科学者も見ていた美と調和と神 『チ。』と『35の名著でたどる科学史』の話 - ポンコツ山田.com
ポンポさんシリーズ本編の3作目。
若き実力派監督として名をあげたジーン君が、ポンポさんの祖父にしてかつての大プロデューサー・ペーターゼンと組んだ一方で、学校に行く羽目になったポンポさんは同級生を巻き込んで映画を作ることに。そして結局両方に関わることになったジーン君は、同時に2本の映画を作る中でさらに覚醒していく……
相変わらず、1冊の中で無駄なくプロットが組まれ、エンディングのカタルシスまで気持ちよくストーリーが進んでいく、非常に秀逸な作品。映画に狂う監督や役者はどう狂っているのか、短くも端的に印象的に描いています。
ぜひ、本作だけと言わず1から順に読んでほしい。ユースサッカーを舞台にした作品。主人公の葦人をはじめとした登場人物たちが、格上の選手や意図の分からない指示、一軍の壁など、困難に出会った時にどうくじけ、対応し、覚醒していくか、非常に印象的に描いています。
試合の熱さがたまらないですね。
また、何度かブログでも書いたように、「つながること」や「言語化」といった、感覚的な部分の話も私好み。
『アオアシ』「つながる」ことの面白さ、気持ちよさの話 - ポンコツ山田.com
『アオアシ』サッカーととアドリブの、言語化の先の身体化の話 - ポンコツ山田.com

以下は、昨年末に書いたレビュー記事をコメント代わりに。

yamada10-07.hateblo.jp
yamada10-07.hateblo.jp
yamada10-07.hateblo.jp
yamada10-07.hateblo.jp


以上、10作品でした。
去年を総括すると、『2.5次元の誘惑』や『アオアシ』、『ブルーピリオド』、『メダリスト』などの、熱量の大きい作品に心惹かれた半面、『ダンジョンの中の人』や、ノミネートには至りませんでしたが『トカゲ爆発しろ』や『でこぼこ魔女の親子事情』、『ミムムとシララ ドラゴンのちんちんを見に行こう』などの気楽に読める作品で心の安楽を得たように思います。
今年はどんな作品に出会えるか。
とりあえず、大みそかに衝動的に電書で買った『三拍子の娘』がとてもよかったので、それは紙で買います。
どうぞ今年もよしなに。



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