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今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その1『東独にいた』の話

年末。今年も漫画を読みました。面白かったもの、テンション上がったもの、心落ち着くもの、今まで気にしていなかった心の部分に触ってくるもの、残念ながらいまいち合わなかったものといろいろありました。
せっかくなので、今年読んだ作品の内、まだあまり巻数の多くないおすすめをざっと紹介してみたいと思います。
縛りは、まだ当ブログで触れたことがなく、今年最新刊が発売されたもの、かつ5巻以内の作品。
題して、「今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!!」

時は1985年。東ドイツでは社会主義の腐敗がいよいよ隅々まで浸透しつつあった。しかし、そんな中でも人は人の営みを忘れない。その国で生きる女性アナベルは、書店の店主ユキロウにひそかな恋心を抱いていた。しかし二人には、お互いに隠している秘密がある。
テロを繰り返す反政府組織フライハイト。彼はそのリーダーだった。
フライハイトを狩ろうとする軍事組織MSG。彼女はそのメンバーだった。
自分の信ずるもの。憎むもの。守るべきもの。ことごとくが食い違う二人が生きるのは東独。そこは主義と思想と大国のエゴで引き裂かれた国。唯一同じであったかもしれない二人の愛するものさえ、引き裂かれてしまう国。二人は、東独にいた。


ということで、トップバッターは宮下暁先生の『東独にいた』です。
冷戦末期の東ドイツを舞台に、主義思想を全くの異にするアナベルとユキロウの二人を軸にした歴史群像劇で、国を愛するがゆえに守ろうとする人々と、愛するがゆえ一度壊してから作り替えようとする人々。そんな人々が戦火を交えます。
どちらも自らの主義主張を心から信じているために、彼らは決して相容れることがありません。きっと作者は、完璧な正しさなどないということを前提において描いているのでしょう、どちらの陣営にも心優しき人がいて、家族思いの人がいて、不正義を憎む心があって、国を愛する心があります。本作を読む人間は、その両者の視点にまんべんなく重なるため、どちらが正しい、どちらが勝つべきという判断を下せないのです。
これは両者を中立的に描くというより、片方の立場を描くときはそちらに肩入れし、逆側を描くときはそちらへ肩入れをするという印象です。心情の描写はドライではあるのだけど、そこにある「人間らしい」心の動きは細大漏らさず描いているのです。非常に読み応えのある歴史群像劇だと言えるでしょう。

さて、本作がただの歴史群像劇で終わらないのは、そこにスパイスとして加えたアクション。アナベルが所属するMSGは、正式名称を多目的戦闘群(Mehrzweck Schlacht Groupe)というのですが、その集団は、一言で言えば人間兵器。国による生物学的改造よって人間の限界をはるかに超えた身体能力を持つ彼らは、数十メートルを助走ひとつで飛び越え、ライフル弾の直撃にも耐え、素手で人をちぎる。神軀兵器とも綽名される鬼神のごとき姿です。
人外の膂力がふるわれる戦闘シーンは、残虐でありド派手。人々の思惑と感情が交錯する物語の中に、一服の血なまぐさい清涼剤をお届けしてくれます。
また、人を超えた力を持つようデザインされた人間が、軍人として国に、守るべきもののために自らの命を賭したとき、そこにどんな心の動きが生まれるのか。決して相容れることのない対立する「正義」という確固とした思想の地盤があるので、そのような難しいものも浮つかずに描かれています。

東ドイツは、史実においては1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌90年には西ドイツに編入される形で消滅しました。もちろん作中の彼や彼女は、そのことを知る由もありません。フライハイトはそれを実現するためにテロを起こし、MSGは東ドイツを生き延びさせるべく反体制分子を排除します。
両者に夢がある。理想がある。そして、戦っている現実がある。やってくる未来を少しでも良くしようと、目の前の現実に必死で取り組む相反する二つの組織。史実として私たちは東ドイツの結末を知っていますが、そこで生きていた人々を知りません。ドイツの統一を喜んだかもしれない。東ドイツの消滅を悲しんだかもしれない。儚んで命を落としたかもしれない。けろっと西側に染まりぬくぬくと生きたかもしれない。いろいろな人がいました。東独にいたのです。
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ということで、「今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!!」第一弾、『東独にいた』のレビューでした。現在5巻まで発売中です。
年内のうち、全6回で更新する予定です。できるかな?



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