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漫画の話です。

『アオアシ』「つながる」ことの面白さ、気持ちよさの話

サンデーうぇぶりにて6巻まで解放されたのを機に、そこまで一気に読んだサッカー漫画の『アオアシ』。

実は以前、同じ作者の『ショート・ピース』を読んで面白かったので、試しにと1巻に手をだしたもののそんなにはまらなかった過去があるのですが、当時の自分のぼんくらぶりを責めたいくらい、続きを読んだら一気にはまりました。

で、以前よりも少しは大人になった私は、既刊を一気にそろえることなく、噛みしめるように1,2冊ずつ集めているんですが、今現在で11巻。いやはや面白い。

サッカー漫画である本作、試合シーンがもちろん面白いんですが、具体的にその中の何にグッとくるかというと、選手が何かを「わかった」シーンだったり、あるいは誰かに「わかってもらった」シーンなんですよね。

11巻で例を挙げれば、まずは、多摩体との試合(8巻)後の回想として、ヤンキーDFの冨樫がユースチームヘッドコーチの伊達に褒められるシーン。

「冨樫。今日のお前はよかったぞ。」
「おお! 決勝点、義経へのアシスト… 完璧だっただろう!!」
「そこじゃない。献身的な守備だった。どれだけチームが前がかりになっても…悪い流れを察知すると必ずゴール前に戻って来ている。お前の守備力あってこそのチームだ。」
(中略)
「低いレベルに下りていく必要などない。お前のあたりを受け止められるカテゴリーにいつか上がる。あくまで照準はそこ。闘争心を持ち続けろ。
お前は、今のままでいい。」

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(11巻 p65)

その態度や素行ゆえにチーム内で浮きがちで、自身もそれを自覚しながらも、いつかユース監督の福田のもとでプレイをするためにと励んでいる冨樫ですが、思いもよらぬところから自分を認めてもらった瞬間の冨樫の目のアップは非常に印象的で、自分のことをわかってもらえたという驚きとうれしさがにじみ出ているようでした。

そして、その回想シーン直後。武蔵野との後半開始早々のプレイで、彼は魅せました。今までずっと敵意をむき出しにしてきた、ジュニアユース上がりで同じCB竹島の意図を汲んで、それまでにはありえなかったパスカットを成功させたのです。

竹島の野郎の…守備力の高さ…その一番の要因は「距離の取り方」 これが抜群にうまいところだ。
(中略)
さっきのあの間合いになった時点で、敵はもう、金田に出す以外の選択肢がなくなっているんだ。
――――つまり、
「ここにパスを出させる」
それがお前の狙いだろう、竹島

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11巻 p68

今まで言葉にはしていなかったものの、ずっと感じていた、同じDFである竹島の長所。それを理解し、実際のゲームの中で彼がしたプレイの意図を汲み取ったのです。
これは、冨樫から見れば、竹島の意図を「わかった」側ですが、竹島から見れば「わかってもらった」側です。言葉にしなくとも自分のプレイの意味が伝わったことのうれしさに、竹島は上のような表情を浮かべたのです。

また、「わかった」とは、上の冨樫や竹島のように、人と人との話だけではなく、一人の人間の中だけでも起こります。
たとえば主人公の葦人。これまでの試合でも、ゾーンに入るとピッチ上の選手たちの動きを鳥瞰的に把握できることがあった彼ですが、武蔵野戦せのハーフタイム終了間際に、福田からアドバイスを受け、今まであやふやだった自分の中の感覚がすっきり整理されました。その感覚がイメージを結んだ瞬間

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11巻 p111

選手の動きの予測が今までよりも鮮明になったのです。
自分の感覚が「わかった」瞬間の葦人の表情は、読み手に彼の覚醒を強く印象付けました。

このような「わかった」「わかってもらった」とは、いいかえれば、自分が誰かと「つながった」、自分の中の知識や感覚が一つに「つながった」ということです。その感覚の気持ちよさは、どのような形であれ経験のある人なら共感できるでしょう。
パズルのピースがピタッとはまるような、お互いの呼吸が完全にそろうような、一瞬先のもう見えている未来に体が滑り込んでいくような、あの気持ちよさ。
葦人自身も、「つながる」感覚には自覚的で

――――つながった。
あの時黒田が言ってたこと…
これなんだ。
アイコンタクト、コーチング以外にも、ボールの質そのものにメッセージを込められるんや…
また、「サッカー」がつながった。
(11巻 p143)

もともと感覚的にプレイをしてきた葦人でしたが、レベルの高い環境で、レベルの高い指導を受けて、レベルの高い試合をこなすことで、今まで確かにあったけど曖昧模糊としていた感覚が、くっきりと輪郭を持ち始め、ばらばらだった状態から言語化できるまでに「つながった」のです。

そんな葦人のプレイに感化されて、彼と「つながった」朝利は、普通ならばやらないプレイにも走ります。

青井!
堅実な僕が、またも一か八かのダイアゴナル・ランなんて… ふつうはやらない! やらないんだ!!
でも、さっきのサイドチェンジ… 蹴る瞬間 君は僕を、見た!
かましてやろうぜ」って、
笑ってたよな。
なあ!?

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11巻 p154

葦人の意図が「わかった」ので、文字通り彼とパスも意図も「つながった」朝利。そこから試合を決める決定打へと局面は進んだのです。

サッカー漫画では他に『GIANT KILLING』が好きなのですが、あちらの方から感じる面白さは、この「つながった」感覚とはまた別のように思えるので、やはりこれは『アオアシ』の特徴と言えるのではないかと思えます。

このまま最新刊までじわじわと買い集めていく予定ですが、どこかで堰を切って一気に買ってしまわないか、我ながら不安です。