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漫画の話です。

『メダリスト』クセの染み込んだ体と自由な心の話

 先日6巻の発売された『メダリスト』。

 難易度の低いジャンプを構成に入れているために高得点が望めないと思わせるいのりの演技が、実はGOE(スキルレベル)を上げる方向で構成を組んでいることが判明し、これは予想外の選手が5位以内に食い込んでくるかと他の選手がやきもきしだしたところで、ジャンプの点数が上昇する演技の終盤に2回転アクセル+オイラー+3回転サルコウという見る者すべてが仰天する高難易度ジャンプをぶちこみ無事着氷。全選手唯一のノーミス完走の演技ということもあり、いのりが見事に初の金メダルを獲得しました。
 わずか一年余りでメダリストとなれる練習を積んできたいのりと、それを心に技に体にと支えてきた司、両名が成し遂げた偉業だと言えるでしょう。熱いぜ。泣けるぜ。
 
 さて、上記のようにいのりは唯一のノーミス選手だったのですが、大会がスタートする直前に、いのりの地元のリンクで受付をしていた男性・瀬古間が、加護父子にした説明のように、スケートリンクは「ツルツルというかもはやヌルヌル」の世界。練習通りの演技が本番でもできる保証などかけらもなく、演技の成功率と得点のバランスを考えにを考え抜いて構成を作る、「賭け」の競技です。
 その成功率と、そして演技自体のクオリティを上げるために必要なことの一つが、動きやポージングを身体にしみこませること。
 これは、4巻での合宿中に、バレエの講師を招待していのりら生徒に教えられました。

バレエやってると自分の体への意識が変わって どんな時も姿勢をコントロールしやすくなります!
みんなも試合で焦った時…
緊張して体がうまく動かなくなることがあるでしょ? 凹むと前屈みになるじゃん マジ感情って色んな重力があるワケ
バレエのレッスンは毎日姿勢を確認する バーレッスンで正しく綺麗な動きを修正して
毎日毎日メンテナンスして クセで必ず同じ角度でできるくらい体に覚えこませる
身体が美しい姿勢を覚えてくれてるから心が自由になれる
感情を込めて演技しても姿勢は綺麗なままで転んだりしない
(4巻 p133,134)

 一見チャラいあんちゃんとしか思えないバレエ講師が、現に陸上で直立状態から3回転し、それでいて美しい姿勢を崩さない様子を見て、いのりたちはその言葉の重要性を実感するのです。

 この「クセで必ず同じ角度でできるくらい体に覚えこませる」「身体が美しい姿勢を覚えてくれてる」「感情を込めて演技しても姿勢は綺麗なまま」というのを改めて読み直して、依然似たようなこと書いてたな、ってことに気づきました。
yamada10-07.hateblo.jp
yamada10-07.hateblo.jp
ここらへんの記事で、練習をする意味・目的について書いていますが、そこでも触れているように、

 練習の目的は極論すれば二つ。
 一つ目は、できないことを意識すればできるようになること。
 二つ目は、意識すればできることを意識しなくてもできるようになること。
 この二つです。

 なのですが、美しい姿勢を体に覚えこませ、感情(思考)とは離れたところで綺麗な姿勢を維持するというのは、「意識すればできることを意識しなくてもできるようになること」だと言えます。
 氷という不安定な場所でも、プレッシャーに押しつぶされそうな中でも、既にしてしまった失敗にさいなまれている真っ最中でも、演技は続いているのだから、その中で最善を尽くさなければいけない。その最善のために、思考が、感情が揺さぶられていても、身体は綺麗な姿勢をとっていなければいけない。そのための練習です。

 また、クセがすっかり身に付き、姿勢の維持に気を払わなくていいということは、その分思考のリソースを他のことに割けるということ。すなわち、思考の省エネ化です。その分のリソースが使われる先は、演技中に構成を変えることかもしれませんし、したばかりの演技の反省・修正かもしれませんし、とっておきの演技をするための覚悟かもしれませんが、いずれにせよ、姿勢を注意する以外の余裕が生まれるわけです。
 何度も書いていますが、私のやっているジャズでスケール(音階)やフレーズの反復練習をするのは、考えなくても指が動くよう体にしみこませることで、「今どう指を動かすか」ではなく「次は何を吹くか」に意識を割けるようになるためです。刻一刻とコードが進行しリズム隊が演奏を続けているアドリブにおいて、今何を吹いているんだっけどう指を動かせばいいんだっけ次に何を吹こうかな、などと悠長に考えている余裕はありません。それらは同時に行う必要があり、そのうちの一つである「どう指を動かせばいいか」を考えなくて済むようになるのは、演奏のクオリティを上げるための非常に重要なステップです。

 なんであれ、上手い人が他の人の何倍も練習をしているというのはそういうことなんですよね。体に動きを染み込ませる。動きのクオリティを上げる。それをするためには、ひたすら練習を重ねるしかないのです。同じ練習量でも各人で結果に差が出るという残酷な現実はあっても、それは練習をしない言い訳にはならない。
 
 金メダリストとなり、中部大会を抜けたいのり。その先には、狼嵜光をはじめとした全国の強豪選手が待っています。その選手たちも、いのりと同等かそれ以上に練習をしている選手ばかりでしょう。その上でいのりがどんな演技を見せるか。司がどんなコーチングを見せるか。今後もドキドキがとまりません。

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