『葬送のフリーレン』人との交わりと褒めることの意味の話

前々回、前々々回の続きにあたる、『葬送のフリーレン』の話。

それらの記事で、大人/子供や、交換などについて書いてきましたが、フリーレンがどう変わったか、何をするようになったかについて、もう少し考えてみましょう。

旅の始まり 変化の始まり

そもそもフリーレンは、もともと他人に興味を持たない人間でしたが、ヒンメルの死に際して彼のことを知ろうとしなかったことを悔いたために、「人間をもっと知ろうと思う」と旅に出ました。
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(1巻 p34)
人間を知るためには何をしなければいけないか。当然、人間と交わらなければなりません。1000年以上にわたる長い人生のほとんどの期間、他人とろくすっぽ交わらずに生きてきた彼女ですが、具体的には何をしていくのでしょう。
一つには、以前のブログでも書いたように、借りを返すことです。誰かに受けた借りを返すことは、他人との交換の輪に入っていくことに他なりません。かつての魔王退治の仲間だったハイターとアイゼンのもとに出向いたのはその一環ですし、その結果、彼らの養子(弟子)であったフェルンとシュタルクを自分のパーティーの一員としました。他人との交わりの発生です。
また、どこかへ再訪したり、誰かに再会することもその一つでしょう。80年前に封印した魔王軍の一人クヴァールを改めて討伐しに行ったり。かつて見損ねた新年祭を見に行ったり。勇者の剣を守る里へ定期的に魔物退治へ行ったり。同じ長寿仲間のドワーフの旧友フォル爺に会ったり。
再会を目的としたものはもちろんのこと、再訪についても、その地でフリーレンら魔王退治の一行のことを憶えている者やその話を教えられてきた者がいれば、思い出話などをすることで、交流が生まれます。
その他いろいろあるでしょうが、その中でも特筆すべきこと、作中で何度となく描かれている行為は「他人を褒めること」だと思うのです。

褒めることの意味

褒める行為の意味については、3巻で具体的に言及されています。

俺の成してきた偉業も正義も、知っている奴は皆死に絶えた。
だから俺は死んだら天国で女神さまに褒めて貰うんだ。よく頑張ったクラフト。お前の人生は素晴らしいものだったってな。
わかるだろう、フリーレン。自分の生きてきた軌跡が誰にも覚えられちゃいないってのはあまりにも酷だ。
(3巻 p131)

ここでクラフトが言っているように、褒めるという行為は、誰かの行いや身の上を知ることで初めてできるものです。つまり、誰かと交わり、その人の良いところを知らないとできません。
そして褒められた側からしてみれば、誰かが自分を褒めてくれたということは、誰かに自分の良いところを知ってもらえたということ。この事実は、思った以上にその人を勇気づけるものです。
たとえば、フェルンを褒めて導きたいと言っていたハイター自身がフリーレンに褒めて貰ったときのことです。
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(4巻 p39)
酸いも甘いもかみ分けた老齢のハイターでさえ、誰かに褒められるのはうれしいことでした。
他にもフリーレンは、ザインがフェルンとシュタルクの仲裁をしたときや、混沌花の討伐に活躍したときにも彼を褒めていました。
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(4巻 p145)
またシュタルクが、幼いころに、尊敬する兄から集中力を褒められ構えを指導してもらったことを今でも覚えているのも、褒める行為が相手に与える影響の大きさを物語っています。
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(3巻 p170)

褒められたから、褒めるようになる

フリーレンが誰かを褒めるようになったのは、おそらくはヒンメルの死後、すなわち「人間をもっと知ろう」と決意してからです。褒めるには相手のことをよく知らなければいけませんから、それまで他人に興味を持とうとしなかったフリーレンが、誰かを褒めることはしないでしょうから。
そんな彼女でも、褒められる側には回ることはありました。
たとえばヒンメル。彼は旅の途中、フリーレンの趣味である魔法集めを褒めたことがありました。ほんの些細なことなのかもしれませんが、それが今のフリーレンの旅の目的の一つとなり、またヒンメルの像の周りに彼の故郷の花を咲かせる動機にもなっています。
たとえばハイター。彼は旅の途中、フリーレンが「それこそ人生を懸けたような」「血の滲むような努力」をして魔力を制限していることに気づき、彼女を褒めました。そのときの彼女はきっと、褒められることの価値によく気づいていませんでしたが、このことが、後に他人を褒めるようになったきっかけであることが示唆されています。
こうして、誰かが誰かを褒めることで、その誰かがまた別の誰かを褒めるようになります。
良いことをしてもらったら、自分もしないではいられなくなる。
返報性の原理ってやつです。交換ってやつです。

これが彼女の生きる道

人間をもっと知ろうとしたフリーレンは、人間の交換の輪に入って、かつて自分がそうされたように誰かの良いところを知って褒めてあげて、その人をまた別の交換の輪へと送り出します(現にザインは送り出されました)。そうして輪は増え、広がり、彼女自身が交わる機会も増えていくのです。それが、人の中で生きるということです。

今後、彼女の変化がどのように描かれるのか。その変化がまた周囲にどのような変化をもたらすのか。影響がまた影響を与えていく交換の連環がどう実を結んでいくのか、楽しみに待ちたいと思います。



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