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漫画の話です。

『好きな子がめがねを忘れた』光に消えそうな二人と光に祝福される二人の話

 『好きめが』最新刊を読んで口から大量の砂糖を吐瀉した山田です。こんにちは。

 ここ数巻はあまりの糖度の高さに青春の過剰摂取を心配していましたが、最新刊でついにその頂点に辿りつきました。
 小村君……三重ちゃん……おめでとう…………

 頂点の頂点たる95話は、つかみも好きなんですよね。
 「私はどくずです」。
 たぶん三重ちゃん語録で一番汚い言葉。それが告白回の最初のセリフ。つかんでくるぜ。
 で、そのあと、眼鏡をかけてない三重ちゃんの手を小村君が自然にとって、登校する二人。……まだ付き合ってなかったの? そりゃ東くんもいぶかる。
 そして、放課後になってついにその時に至る二人。「ちゃんと俺の顔を見てもらい」たいからと、三重ちゃんから預かっていためがねを、手ずから彼女の顔にかける小村君。これ、実質指輪の交換では? 
 ところで、けっこうフェチズムが強いと思うんですよね、他人の顔にめがねをかけさせるって。眼鏡の掛け心地って日常の快適度に直結しますし、もしレンズを触られ指紋がつけられればどんな温厚な人でもブチギレるというのはめがねあるあるですが、それを他人に任せるというのは、これ、実質セ●クスでは?某平●耕太先生や某小●寺浩二先生あたりはどう思うのでしょう。
 そんな与太はともかく、しっかりとお互いの目を見て、顔を見て、お互いの気持ちを声に出して確認し合おうとする二人。
 放課後の誰もいない秋の教室というのもあって、薄暗い教室と、外からの夕日の光が、二人の顔の上にささやかなコントラストを作り、それがどこか不安定さを生んでいます。もちろんいい意味です。自分の気持ちだって、きっとそうに違いない相手の気持ちだって、実際に言葉にしなければ自分で信じることはできない。だから、自分で言葉にして、言葉にしたものを相手から聞かされて、そこで初めて確かなものと信じられる。
 その言葉を交わし合った後に二人の顔から影が去り光に明るく照らされているのは、確かめることができた安心と安堵と嬉しさと、そのほか世界中の幸福を一身に受けられた証なのかな、と。

 私の漫画史で最高の告白シーンは、『子供はわかってあげない』のサクタとモジ君だったのですが、小村君と三重ちゃんもそれに匹敵するものとなりました。

 『子供はわかってあげない』の告白が、夏の屋上、汗と涙と緊張ゆえの笑いにまみれた、ポカリスエットのような青春の甘酸っぱさだとすれば、『好きめが』は、やさしくやさしく砂糖をぶちこみ、口の中でホロホロと崩れるマカロンのようなお菓子の甘さ。
 どちらも、いい大人になったって「こんな記憶を抱いて死にたかった……!」と思ってしまうとても素敵な告白シーンです。
 おめでとう…おめでとう……

 さて、10巻の頂点はもちろん95話での告白シーンなわけですが、それ以外にもいいなと思うシーンがいくつもありました。
 たとえば89話(10巻1話目)の、早起きした二人が早朝に登校するシーン。誰もいない通学路を歩く二人は、朝の白々した光に包まれ、まるで「世界に二人だけみたい」。目を眩ませる秋の早朝の太陽は、世界を白い光に染め上げ、存在の輪郭を淡く薄めていました。
 光に溶け込むようにして歩く二人の姿は、美しくもあり、儚くもあり、この気持ちを声に出したらすべてが消えてしまうんじゃないかと不安がる小村君の、そして三重ちゃんの思いにも似て、もう少しこのままでとつい思ってしまう小村君の気持ちもわかってしまうようです。
 ところでこのシーンで思い出したのは、市川春子先生の短編『25時のバカンス』(同名の短編集に収録)のラストでした。

「普通」の人間の枠から少しはみ出てしまった弟とだいぶはみ出てしまった姉、その二人が二人、昇る朝日(あるいは沈む夕日)をバックに、強い逆光に消えるようになりながら、冗談めいた、告白めいた言葉を交わす、愛しさともおかしさとも恐ろしさともつかない曰く言い難いラストシーン。このシーンの印象が蘇ってきたからこそ、『好きめが』のこのシーンでも、美しさと、儚さと、そして消えてしまいそうな不安を抱いたのかもしれません。
 その複雑な印象が、とてもいいんだ……

 他にも、イケメン東君に恋の相談をされる小村君の想像力豊かさゆえの気持ち悪さ、いいですよね。まあ小村君は三重ちゃんのことを思ってるときはたいていちょっと気持ち悪いんですけど、中学生男子なんて多かれ少なかれ気持ち悪い生き物ですから。
 あと、東くんもこれ、「隣のお姉さんが好き」なんですよね。

マンガクロスのあっちとは関係性というか二人の属性が違いますけど、男の子が女の子に相手にされないという点では同じで、でもあっちのほうは心愛さんが気にするようになってきて、はたしてイケメン東くんはすっぽん小村君の相談で朝姉に意識してもらえるようになるのか。

 他に細かいところだと、91話の二人の私服(裏表紙の格好)で、三重ちゃんは細いストラップのポーチをコートの上から斜め掛けてしている(しかもストラップが肩に掛かっている部分はコートの大きな襟で隠れてる)けど、太いベルトのバッグの小村君はブルゾンの下に掛けているところは、服のラインを壊さないようこだわってるのかな、と感じました。
 小村君みたくベルトの太いバッグを薄手のアウターの上から掛けると、肩に触れてる部分で生地がよれたり、バッグがアウターを押さえちゃうので、シルエットが崩れやすいんですよね。数年前から、小さいバッグをアウターの下で掛けるのを見るようになりました。三重ちゃんの場合は、ポーチが小さいこと、コートの生地が厚手に見えること、ストラップが細いため肩にあたる部分でも生地がよれづらいことなどから、コートの上から掛けてもシルエットの乱れは出づらいんですけど。
 ファッションに自信のない(自称)小村君がわかってててそれをやってるのか、あるいは他の人がやっているのを真似ているというテイなのか、それとも作者が無意識のうちにそう描いているのか、確証はありませんが、なんとなく一番最後のがありそうかな、という気がします。

 あと、93話で久しぶりに出ましたね、三重ちゃんのウォーリアー語彙。「さては謀ったでしょ」。なかなか中学生は言えないぜ。

 とまあ10巻読んで感じたことを縷々述べてみました。
 なんとアニメ化も決まった『好きめが』。三重ちゃん目の悪さ(視界)の表現はアニメでやったら面白いだろうなと常々思っていましたので、これはとても朗報。観たいぜ。
 無事両想いを確認できた二人ですが、以降ではどんなお話になるのでしょうか。とてもきれいにいったんまとまったので、今後はある意味での後日談になりそうですが、そもそも拙者後日談大好き侍なのでそれは大いにウェルカム。後日談という言い方が適切でなくとも、物語としてもまだまだ見たい!
 楽しみです。

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