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漫画の話です。

愛したいのか知りたいのか オタクの興味の二つの方向性の話

 昔からオタクってなんやねんというのはずっと考えていて、自分はオタクなのかそうでないのか、友人なんかからはオタクと思われてるだろうけど自分では別にそうは思ってなくて、それって結局はオタクってなんやねんていう、定義が定まってないからなんですよね。
 この記事も別に定義が定まったって話ではないんですけど、オタク的な人、つまりはある対象について一般的な水準を超えて興味を持つような人は、興味の持ち方にどんな方向性があるのか、対象にどういう風に接すると楽しいのか、ということを、友人と雑談してるときに考えたんです。
 で、思いついたのが、二種類の方向性。
 一つは、対象を愛する(愛でる、慈しむ)方向。
 一つは、対象を知る(研究する、考察する)方向。
 大雑把に、この二種類の方向性があるんじゃないかと思ったんです。

 前者は、たとえばいわゆる腐女子のような興味の持ち方。あるキャラクターに興味をもって、そのキャラクター自身についてや、そのキャラクターと他のキャラクターの関係性(絡み)を想像することが楽しいタイプ。
 キャラクターに限らず、ストーリーについて完結後のアフターストーリーやifのストーリー、サイドストーリーなどを考えるのもあてはまるでしょう。二次創作気質とでもいうんでしょうか、想像を作品の外に膨らませるタイプです。

 それに対して後者は考察タイプ。既にいるキャラクターやストーリーについて想像を膨らませるのではなく、その細部を観察し、関係性を考察し、設定を洞察するのが楽しい人。
 このシーンでのこの描写にはどういう意味があるのか、この言葉遣いをするということはそのキャラクターにどんな内心が隠れているのか、このエピソードの構造は同じ作者のた作品のこれと比較してこう言えるのではないか。そんなことを深堀していくのが楽しいタイプです。

 もうちょっと対比的に言うと、前者は興味の対象に描かれていないことまで想像するのが楽しい人。後者は描かれてあることについて細かく考えるのが楽しい人。
 前者は自分の想像力を物語の外に飛び出していくように使うのが好きな人。後者は物語の奥に掘り進むように使うのが好きな人。
 前者は物語を膨らませるのが好きな人。後者は物語を細かく切り刻んでいくのが好きな人。
 同人誌即売会を舞台にすれば、前者は前述したような二次創作をするようなタイプで、後者はきぬた歯科の看板を集めた同人誌を出すようなタイプ。いやまあただのたとえですけど。
 このブログを普段から読んでくださっているような方ならお分かりのように私は圧倒的に後者の成分が強いですが、だからわかるんですよね、興味があることについてカタログ的に網羅したくなる気持ち。情報を一覧化したくなる気持ち。きれいに整頓された情報には、得も言われぬ美しさがあるんです。
 そして私には前者の成分が薄いので、二次創作、すなわちある作品にインスパイアされてそれを膨らませた物語を作りたくなる気持ちは、わかりはしても共感まではできない。
 もちろん、私が好きなある作品があって、それについての二次創作があったとして、その作品を二次創作のモチベーションがない私が楽しむことはできるんですが、それはその作品単体を楽しんでいるのであって、二次創作(一次創作から膨らませられた作品)だから楽しんでいるわけではない。
 マイナー二次創作は供給が少なくて地獄、という話はしばしば小耳にはさみますが、それは供給があると嬉しい、他人の描いた二次創作が読めると嬉しい、物語のより大きく膨らんだ世界が読めると嬉しい、ということの裏返しです。もともとの好きな物語があって、それから派生した物語群があることが嬉しい、という感覚です。
 私は別にそうではない。読んだそれが、面白い物語であるからうれしくて楽しい。それが二次創作であるかどうかは関係ないんです。

 以上の話は基本的に、ある作品(物語)を受容した人間がどう反応するか、どういう方向で興味を持つかという話になっていますが、物語とは直接関係ないとことでもオタクと呼ばれるような人は存在します。オーディオオタクとか、ファッションオタクとか、物に執心する人ですね。そういう人は、上記の分類でいえば、後者の考察タイプになるのでしょう。対象についての情報を集めたくなるタイプ。
 物ということで言うと、キャラグッズなども物ですが、これを集めるのは愛するタイプも考察タイプも両方いるでしょう。前者は、物語のキャラクターに関連する物、キャラクターを想起させる物、キャラクターのイメージを膨らませるものとして、集めます。自分の想像力を膨らませる起爆剤にする感じですか。
 後者は、カタログ的に集める(集めるために集める)こと、あるいは性能などに着目して集める(合目的的、利益追求的に集める)ケースでしょうか。いずれも、物そのものに着目しているのであり、そこからなんらかの物語を展開させるためではありません(そのために買えば、前者になるでしょうけど)。


 当然ですが、この二つの方向性は二律背反、トレードオフのものではありません。片方のグラフが伸びればもう片方が引っ込むものではなく、どちらも無関係に増減するものです。細かい考察するのも二次創作するのも両方好きという人だって、当然いるでしょう。興味のあるものの分野によって変わりもするでしょう。
 それでも、オタク的興味の持ち方にこの二つの軸を導入すると、今までオタクとは何だ、自分はオタクなのか、などといった益体もない考えに、少し補助線が引けたような気がします。
 対象への興味の程度がある程度以上に甚だしければオタクで、そのオタク的気質には二つの方向性がある、と考えると、まあ自分もオタクってことでいいかなと。



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