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漫画の話です。

俺の俺マン2023の話

 あけましておめでとうございます。毎年恒例、年の初めの去年の総括です。
 すでに本家の俺マンは企画を休止しているようですが、毎年恒例ですのでそのまま続けていきます。
 勝手に決めた俺ギュレーションは

1,2023年中に発表された、もしくは単行本が出た作品で
2,その中でも特に心をつかまれた作品で
3,5作品
3,今まで選んだことのある作品はなるべく除外する(なるべく)

 となっています。
 それではどうぞ。

ダンジョン飯/九井諒子

 無事去年完結した作品。何はなくとも今年はこれは外せない。
 妹を助けようとダンジョンへ潜るために、持ち込む食材の節約をすべく(その実、昔からモンスター食に興味があったのですが)モンスターを食べるという、連載当時波が来はじめていたグルメ漫画のバリエーションかと思いきや、ギャグも理屈もストーリーの起伏も素晴らしく練りこまれており、終盤に行くとともに、生と死であるとか、欲望であるとかといった人の根源的な部分に踏み入っていく気配に楽しくも慄いていました。なんであの第一話からあんな最終盤につながれるんだ……
 各キャラクターが秘めていた過去が明らかになるにつれ、欲望というテーマとも相まって、暗い気持ちになるような描写も増え、それでいてその緊張を一瞬だけ消し去るギャグもこまめに挟まり、物語のテンポが絶妙。あんなにかわいくて面白いエルフは今後現れないんじゃないだろうか。
 全14巻で完結しましたが、これは全後世に語り継ぐべき作品。アニメも楽しみ。

●正反対な君と僕/阿賀沢紅茶

 陽キャなギャルと、「興味ないね」風なメガネ。パット見テンプレ的なキャラ付けをされそうな二人だけど、その心の中は、当然テンプレに回収されるものではなく、周りに流される自分が嫌だったり、自分にかまってくるギャルにドキドキしたりと、意外なことを考えては自分とは違う相手に惹かれて、自分とは違うからこそ何かの感受性が同じであることに心躍らせて。とかく、人の心は外からではわからないものなのです。
 主人公である陽キャギャル鈴木とクールメガネ谷以外にも、素直なネアカ山田、ノリ軽ギャル東、高校デビュー平といった個性豊かなサブキャラたちがいて、こんなテンプレ紹介には収まらない彼や彼女の内心が丁寧に描かれているのも至極よいですね。
 一言で言いきれない何とも言えない気持ちを表す(あるいは直截的に言うと角が立つので婉曲に不快を表現する)「モヤっとする」。いつの間にやら人口に膾炙するようになったこの超絶便利ワードは、どんな微妙な心の機微も一言で表現できてしまいますが、そのあまりにも広汎に使える便利さゆえにもはや具体的な意味を有さない言葉。でも、本作はその「モヤっとする」感情にきちんと具体的な言葉を補って言語化しようとしているので、強く読み手の「腑に落す」力があります。そこがいい。
 
●令和のダラさん/ともつか治臣 某怪談(2chの怖い話「姦姦蛇螺(かんかんだら)」|恐怖の泉)をベースにした化物と、令和を生きる子供たちとの心温まる交流譚。温まるか?
 山の神として畏れ崇められてきた荒魂・屋跨斑(やまたぎまだら)が、その山の守り人の家系である三十木谷日向・薫のきょうだいと出会い、「ダラさん」などという不敬極まりないあだ名をつけられその神威をメリメリと剝がされていくコメディで、傍若無人なきょうだいとそれに振り回されるダラさんのドタバタが楽しいです。
 でもただのドタバタコメディにとどまらないのが、各話の冒頭に挿入されている、かつて人間だったある女性がいかにして屋跨斑に成り果てたのかという過去の話そ。の凄惨さがダラさんの存在に凄みと悲壮を与えていて、だからこそ、適度な畏敬と適度な雑さで自分に接してくれる三十木谷きょうだいにダラさんの心根が救われているのが、物語に深みを与えているのです。

●隣のお姉さんが好き/藤近小梅

 隣の家の高校生のお姉さんに恋した中学生男子のラブ模様。先月に無事全4巻で完結。
 相手の心を推し量るには幼すぎる男子中学生・佑(たすく)は、初めはストレートに自分の感情をお姉さんに押し付けていたのを、自分の心情や相手の感情を言語化していくことを少しずつ覚えていき、その上で自分の心を再確認していく。
 他人に心を許すのが苦手な女子高生・心愛(しあ)は、初めはただのお隣さんとしか見ていなかった男の子のこっちの気持ちを考えない態度にうんざりしていたけど、鬱屈した自分にはないそのまっすぐな気持ちに少しずつほだされていく。
 大人になれば何でもないけど、中学生と高校生の三歳差はあまりにも大きい。それは、精神的にも、社会的にも。じゃあそれがどうやって詰められていくかというと、時間と成長なわけです。学生時代の三歳差が大人に比べて大きいのと同様、学生時代の一年というのはとても得るものが多い。それは、精神的にも、肉体的にも。男子三日会わざれば刮目して観よ、ではないですが、ふとした瞬間にたーくんの成長に、そして自分の気持ちの変化に気づいた心愛さんのかわいさったらないですね。
 『好きめが』に続き、こちらもワンちゃんアニメ化あるか?いや、コンプラ的にギリか……?

異世界サムライ/齋藤勁吾

 「武士道とは死ぬことと見つけたり」は『葉隠』が有名ですが、それを地で行くような女侍・月鍔ギンコ。関ヶ原の戦いで死にきれず、徳川の太平の世で強者と戦って死ぬことも許されず、自分の生きる意味に懊悩していた彼女がふとした拍子に飛ばされたのが、魔法とモンスターがはびこる異世界。凶悪なモンスターに人類が脅かされているその世界は、ギンコにとって己の命を賭けるに相応しいものでしたが、そんなギンコの性根は異世界の人間にとって完全な異物でした。
 ある者は彼女の強さに憧れを抱き、自分を助けてくれたことに感謝をし、またある者は世界の秩序を乱すものとして疑惑の目で見、疎んじる。善かれ悪しかれ目立つギンコ。で、当のギンコは、自分の腕を試せるモンスターを相手に惨殺三昧でご満悦。
 全き異物が異世界をどう掻きまわすのか。そして、ギンコの宿願は果たせるのか。血しぶく派手なアクションと、自分の信念に基づき何の罪悪感もなく刀を振るうギンコのせいで、妙な爽やかさのある作品です。現時点で2巻までなので、簡単に追いつけるぞ。

 以上5作品でした。他のノミネート作品としては

◎ギャグ・コメディ部門
となりのフィギュア原型師/丸井まお

 安心して読めるストーリー系4コマ。登場人物であるフィギュア原型師他のエッジの尖り方がいい塩梅で、心に負荷をかけずに楽しめます。
 ギャグでもストーリーでもエッジが効きすぎた作品て、面白いのはわかってても手を延ばすのにガッツがいることがありますが、そういうのが不要な本当にいい塩梅。癒し。

限界煩悩活劇オサム/ゲタバ子

 腐女子高生除霊師オサムが、オタクの霊の話を聞き、知らない分野であれば学び、時には拳でわかり合い、時には自分の煩悩に負けかけたりと、ドタバタハチャメチャしたコメディ。これまた会話運びやシーンのテンポの良い作品。

異世界部門
科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌/KAKERU

織津江大志の異世界クリ娘サバイバル日誌/原作・KAKERU 作画・瀬口たかひろ 前者の連載がスタートし、人気が出たところでサブキャラクターを主人公としたスピンオフがスタートした、同じ世界観の作品。簡単に言えば、R18の『Dr.STONE』です。魔法もチートスキルもなしに、ただ現代知識と技術だけもって亜人やモンスターが跋扈する世界に放り出されたら、その知識と技術でどう生きるか、という話です。まあ現代知識と言っても、両作の主人公は理系の大学に通って一般常識以上の基礎的な科学知識を持っていますし、後者の主人公は一人でも生き抜ける技術満載の古武術の使い手だったりするので、一般人が身一つ、というわけにはいきませんが。
 それはそれとして、とある事情で一定水準以下の科学技術にしなければいけない制約がある中で、主人公たちは水車や製紙や冷蔵庫などを異世界にもたらすのですが、そういう、私たちの身の回りに当たり前にある技術やモノの仕組みや成り立ちを教えてくれるのは、そういうの大好き侍なのでとても楽しいのです。
 R18なのは、前者の作品の主人公・栗結大輔の子供の頃からの夢が「クリーチャー娘のハーレムを作ること」なので、無事(?)クリーチャー娘(略してクリ娘)のいる異世界に飛ばされハーレムを作る、すなわちアッハンウッフンなことをしまくるからです。
 前者に時折ぶっこまれる、フェミニズムに対する強烈な敵意は読んでて消化のいいものではありませんので、そこだけは注意。

◎グルメ部門
ヤンキー君と科学ごはん/岡叶

 料理が「食材に、その特性に応じた科学的成分の付加、温度変化、その他物理的作用等を加え、人間の生体的システムに好感するよう作られたもの」であるならば、これまでの常識とは違っていても、科学的なアプローチによって美味しいものを作れるのではないか。そんなコンセプトの料理漫画です。
 高校を舞台に化学の教師とヤンキー学生が、化学実験のノリで作る料理は難しいものではなく、実際に作ることも容易。たぶん今まで読んだ料理系漫画で、揚げ物に対するハードルを一番下げてくれる気がしました。
 この作品は、料理を科学で、というアプローチで、感覚に理屈を与えているわけですが、「モヤっとした」気持ちに適切な言語を、というアプローチをしている『正反対な君と僕』とある意味で通じるものがあって、私はそういうものが好きなんでしょうね。

◎ホラー部門
怖い話はキくだけで/原作・梨 漫画・景山五月

 ふだんはエッセイ漫画を描いている作者が、編集者を通じて広く募った怖い体験談をもとに漫画を描いていく。初めは「怖い話って関わると本当になっちゃうから」と冗談半分にいうくらいに乗り気でなかったけれど、いろんな人のいろんな話を集めて、聞いて、描いていく、バラバラだったはずのものつながった線が見えてきたり、自分に身に変なことが起こるようになってきたり…という体のモキュメンタリー。
 聞いた話として描かれる怪談は、何かその土地に元々曰くがあったり、怪奇現象が能力者によって解決されるような、起承転結のはっきりしたものではなく、その中の「承転」だけが描かれるような、不条理感漂うもの。怪奇現象を聞き取りする作者は、その投げっぱなしの怖い話を聞いては、すっきりしないものを抱えながら怪談漫画に仕立て上げていくのですが、その不条理さが作者に忍び寄ってくる不穏さが、ぞっとさせてくれます。
 また、作画面でも、線の細い女性向け漫画調の絵と、エッセイ漫画的なデフォルメを利かせた絵が、語られているシーンの水準(作者が怪談を聞いている等の作者自身が描かれているシーンなのか、それとも誰かによって語られた怪談が作者によって漫画化されている(=作者がそこにはいない)シーンなのか)で使い分けられていることで、これは聞いた話を元にした創作物に過ぎないのだ、という体裁を出しつつ、それに過ぎないはずの不可思議な状況に作者が飲み込まれていく感じが出て、とても良いのです。こわいぞ。

 とまあこんな感じの2023年でした。今年もまた面白い漫画に出会えますように。

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