『GIANT KILLING』椿が「好きにやる」ことの意味の話

最新巻が発売された『GIANT KILLING』。

天宮杯で緒戦の徳島を破ったチームをよそに、アジアカップの敗戦から椿は塞ぎこみ続けています。
靭帯をやってしまいしばらくサッカーから離れざるを得ない親友の窪田。自らのレッドカードで敗戦の決勝点となったPKを献上してしまったアジアカップ準決勝。ネットやメディアでの心無い批判。もともとメンタルが課題だった椿にとっては、どれをとっても重い負担になっています。
そんな状況で、椿のもとへ届いた窪田からのメッセージ。辛い状況でも明るく振舞っている窪田に申し訳ないとは思いつつも、取り繕う方がむしろ不誠実と、前へ進むことのできない己の弱さを椿は吐露しますが、それに対する窪田の返答は、慰めではなく、肯定。

それでいいよー。
椿くんがしたくないことは
しなくていいと思うよ。
(57巻 p76)

驚く椿なぞ気にせず(スマホ越しなので気づきようもないですが)、窪田は続けます。いわく、日本代表が敗退した責任は窪田自身も感じているし、志村も感じている、いや、代表のメンバー全員が感じているはず。それなのに椿一人に敗戦の責を負わせる形になってしまい、申し訳ない、と。だから、椿は好きにすればいい、と。
これまでの椿のサッカー人生は「誰かとつながるためのサッカー」でした。それは小学校時代にすでに表れており、過疎地にある廃校直前の小学校時代、小1から小6までの生徒に加えて、若い先生から定年間際の先生、老若男女が入り乱れてもちゃんとサッカーらしいサッカーができるよう、椿がシステムめいたものを考えだし、廃校になる最後の時まで皆でサッカーを楽しんでいました。中学生になって、プロになりたいと思った動機も、「プロになって活躍したら 廃校で離れ離れになった人達が自分を見てくれる そうしたらバラバラに生活してても 皆がつながっていられる」というものでした。プロになっても、言葉に出さないで自分のプレイで他の誰かに自分の気持ちを伝えようとする、そんなシーンが散見されます。
このように、誰かとつながるためのサッカーを続けてきた椿ですから、窪田から言われた「好きにしたらいいと思う」という言葉は、一つのメルクマールになると思います。
もちろん今までの椿だって、誰かに言われてつながるためのサッカーをやっていたわけではなく、自分自身の意思でもってそれを選んでいました。ですが、誰かとつながっているということは、そのつながりを通じて様々なことがやり取りされるということでもあり、それは今の椿にとって、明確に悪い要素として働いています。敗戦の責任も、日本中のバッシングも、つながりのせいで全部自分のところまで流れ込んできてしまうからです。
そこに言われた「好きにしたらいいと思う」。これは裏を返すと、皆を信頼しろ、ということだと思うのです。誰かとつながるためでなく、もうつながっていることを信頼して、好きにやれと。
特に代表に選ばれるような人間たちは、どいつもこいつも我が強く、自分にも他人にも厳しいプレーをしますが、それは他のメンバーにはそれができると思っているからです。自分の期待に応えられる人間ばかりのはずだと信じてるからです。他の奴らがいるから、自分も好きにやる。好きにやれる。
今までは、ある意味では周りの顔色を窺ってばかりだった椿に、もっと自分勝手に、selfishに、好きなようにやれ、と。それは椿が一皮むけるきっかけになるのではないでしょうか。
窪田は窪田で、自分が好きなようにやりたいこととして、また代表で椿とプレイすることを挙げていました。それを見て椿が考える、自分のしたいこと。まとまらないまま夜のグラウンドでボールを蹴っているときに、達海監督がかけた言葉は、「自分の中から沸き上がるものが出てくるまで 待つしかない」でした。今が雌伏の時として「待つ」椿。次巻には顔を上げフィールドに出てこられるのか。期待がビンビンです。



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