- 作者: 松本藍
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2011/01/12
- メディア: 単行本
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ということで、松本藍先生のデビュー作『生きろ!モリタ』のレビューです。もうなんていうか、すごくアレなコメディ。自分の性癖を今までずっと独りで抱え込んできたドMのモリタのヘタレっぷりと、自分の性癖に気づくことなくモリタを思うがままにイジリたおす彩のナチュラルボーンドSっぷりが、ものの見事に噛み合うのです。
そもそもモリタがネットでS女性を募集したのは、「もう一人はいやだ」から。自分の性的嗜好という極めてプライベートなものを生まれてこの方誰とも分かち合うことができず、ずっと孤独を抱えてきました。「これで誰とも うまくいかなかったら もう終わりかな俺」とまで思いつめた彼にとって、募集をかけて間をおかずに届いたメールは天から垂れた蜘蛛の糸。そして待ち合わせ場所には女子高生。彼の絶望をあざ笑うかのように、彩は告白する。「来たのは興味本位 あとヒマだし」けれど、彼女はそこからドSの片鱗をどんどん覗かせ始めます。モリタの性的状況を口にしながら彼の足を踏み、恥ずかしがる彼を写メに撮り、心底楽しそうに笑う。ナチュラルボーンドS。そしてそれに喜ぶモリタもドM。
さてこの彩、モリタをいじめる度に、本当に屈託なく笑うんです。
(p63)
(p104)
(p113)
なにこの子、Sかわいい。
で、こっちがドMなモリタ。
(p18)
彩と初めて会ってから数時間後に、自ら持参した拘束衣を着せられたところです。棒みたく細い身体に、羞恥に赤く染まった顔。マジヘタレドM。
ヘタレドMなモリタは、ド天然ドSの彩に振り回されっぱなしになるのですが、それがまたドM心にたまらない。彩から連絡がないのは放置されているからなのか、それとももう見捨てられたのか、考えるほどに落ちこみ、そして興奮します。
Sの自覚が無い彩は、ただ面白いから、ただ楽しいからと彼の心を翻弄するのですすが、身体は、そして心は意識の与り知らぬ所でドMのモリタをいじめていることに興奮しているのです。
孤独だったモリタは、自分をいじめてくれる初めての相手である彩にどんどんのめりこみ、天真爛漫天衣無縫に生きてきた彩は、自分の嗜虐心を満たしてくれる初めての相手であるモリタに心惹かれていく。とんでもない凸と凹の二人が出会った奇跡。
この作品を面白くしているのは、徹底してモリタの視点から作品世界を描くことで、彩をモリタにとって完全に異邦人としていることです。
孤独な性癖のモリタにとって、彩は色々な意味で初めての相手。ただでさえ10も歳の離れているところに加え、ド天然のドSである彼女は、モリタにとって不条理の世界の存在なのです。だけど、彩が不条理の存在だからこそ、モリタにとって彼女は絶好の相手となります。「調教というよりは支配されたい」彼には、行動原理がわからない彩のことを考えてもまるで読めず、だからこそ彼女のことを考えずにはいられません。人は誰かを理解したから愛するのではありません。理解したいから愛するのです。だから、彩のことを考えても考えてもわからないモリタは、彼女のことを理解したとまた考え、結果、彼女に支配されるのです。
彩にしてみても、自分の知らない性的嗜好を、自分の知らない世界を、自分の開けたことのない扉をどんどん教えてくれるモリタは、やはり不可思議な存在。直接描かれてはいなくとも、モリタもまた彩にとって不条理の存在なのです。
不条理同士の奇跡の出会い。
拘束され、詰られ、ア●ルにペンをつっこまれ、辱められ。M気質の♂にはたまらないプレイが美少女によってなされるのですから、そっちの気のある方にはそういう意味で面白いでしょうし、そうじゃなくともコメディとして実にテンポよく仕上がっています。性的マイノリティの孤独さが奇妙な形で埋め合わされていく様は、笑いの中にも味わい深さを残すのです。
こいつはなかなかお薦めですよ。
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