人懐こいピアニスト・アントニオとの出会いと、なんちゃってエージェント・ジェイソンとの別れ。孤独のドライブと、レッスンの生徒たち。
一人でアメリカに来たダイは、また新たに出会いと別れを得ました。そんな5巻。
「一人でも多くのプレーヤーと合わせて学ぶ。俺にはそれしかなかった。」という彼は、「一人で吹いてたオレと真逆だ」というダイ自身の言葉どおり、今までの道のりだけでなくプレイスタイルも真逆。多くのプレイヤーから様々なものを吸収してきたアントニオは、その引き出しの多さゆえに、初めて合わせたダイのシリアスなソロにも難なくついていき、冷静にダイの音を聴きながらなおソロを下支えし、自身のソロもダイのプレイに合わせてシリアスなものに仕上げていきます。
己を曲げられないダイの愚直でシリアスなスタイルとは真逆の柔軟性であり、様々な引出しを作った末に見いだした自分自身のスタイルも「根底から明るいサウンド」。やはりダイのシリアスさとは真逆と言えるでしょう。
そんな二人を評したジェイソンの言葉は印象的でした。
なんだろう、この2人… 何かが少し似てて、何かがまるで違う感じがする…
色で例えるなら… 2人とも同系色………青は青だが…
アントニオは明るいターコイズブルーで、
ダイは濃く深いネイビーブルーか――――
(5巻 p24)
本作は、ふとした時に挟まれる鮮烈な比喩が印象的なんですよね。
音を出しようのない漫画というメディア、その上で二人のプレイをどう差別化するかというときに、ただ音楽のスタイルの違いだけでなく、楽しいとかシリアスとかいう言葉だけでなく、色というまったく違う観点からの比喩を用いる。
明るいターコイズブルーと、濃く深いネイビーブルー。
カリブの海を思わせるような底抜けの明るさと、宇宙まで沈んでいく夜の空のような遠い深み。
中米出身のアントニオのらしさと、この巻で登場するシーンであるところの夜空を一人見上げたダイのらしさ。両名のキャラクターと非常にマッチしている比喩だと思うのです。
で、そのダイが夜空を見上げたシーンもいいんですよね。
延々と一人荒野を走る中、キャンプスペースで空腹を抱えて、焚火の横に寝っ転がって、見上げる満天の星空。
まずダイは、人差し指と親指でわっかを作り、そこから星空をのぞきこみます。
オレがあの星だとしたら、
今まで知り合った人間とか、これから知り合ってく人間を集めても、多分この丸の中の数くらいだろうな…
(5巻 p70)
自分の勝手さ。自分の矮小さ。未来の見えなさ。
不安を抱えて大自然の中にただ一人でいると、ただでさえ育っている孤独が一斉にがのしかかってくるようです。
でも、ダイはその孤独を飲みこんでつぶやきます。
まあ、いっか。
金もねえ、仲間もいねえ、何もかも置き去りで。――でも、
オレは前に進んでる。それしかないけど、それでいいべ。
アントニオにシリアスすぎるって言われたのは、正直、ちょっと考えなきゃとは思うけど…
あとのことはみんないいべ。みんなを置いてきたけど、許してくれ。オレはこの空の感動も必ず持ち帰るから。
(5巻 p71)
そう独りごちたあとの、視界いっぱいに広がる星空。ダイの指のわっかとは比べ物にならないくらいに、たくさんの星が彼の目の前にはばらまかれています。
まるでそれは彼の将来を示すかのよう。
ダイが生涯で会える人は指のわっかに収まる程度の数かもしれないけれど、彼の音に感動する人はきっと数え切れないくらい、それこそ星の数ほどの人を感動させることを予感させるシーンです。
ネイビーブルーのダイのように深い夜空と、それを背景に輝く星々。とても象徴的です。
5巻の後半では、辿りついたアルバカーキでサックスレッスンの代理講師の職を得ました。
生意気な少年、未亡人、のんだくれのおっさん、まじめな少女。タイプの違う四人へのレッスンでダイは彼や彼女に音楽の楽しさを与えますが、同時にダイもまた彼や彼女から音楽の与えられました。
ダイの初めてのレッスン。誰かに教えることは自分の理解を深めることにもつながるとはよく言われることですが、どう教えれば生徒が上達できるのか考えるダイにはその言葉が似つかわしく見えました。
レッスンの休憩時間、生徒である未亡人・キャロルはダイに向かってこう言いました。
アナタはGiverね。
こんな言葉、聞いたことあるかしら。
If you give all,you are given some.
アナタにはきっと、何かが与えられるんだわ。
(5巻 p163)
このキャロルの「全てを捧げてる人」という言葉には、4巻でやったL.A.でのライブで、すべての力を振り絞った結果、演奏終了時にはステージの上で平伏するようにして疲れ果てていたダイの姿が思い出されます。
スムースジャズが幅を利かせるL.A.の、それもロックのライブハウス。かつてはヨーロッパ最大級のフェスでも演奏したダイが、なんとか集めた20人にも満たないわずかな観客の前で、倒れこむくらいの渾身の演奏をしたその姿は、「全てを捧げる人」にふさわしい。
そんな彼が与えられるものは何か。きっとそれは、言葉にすれば野暮なもの。少なくとも今はまだ。
と、今巻も見せ場の多い本作です。
心を揺さぶられ知らず涙がこぼれるようなエピソードはありませんでしたが、アントニオとの出会いやレッスン生徒の出会いなど、BONUS TRACKも含めてニコニコしちゃう巻でしたね。いとおもしろ。
一言コメントがある方も、こちらからお気軽にどうぞ。