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『GIANT KILLING』孤独の道を行きかけた達海と、行ってしまった村越の話

GIANT KILLING』最新刊の盛り上がりが「最高かよ……」って感じだったので、思わず全巻読み返してました。山田です。

で、その再読のなかでふと気がついたのが、今シーズン中盤までの村越と、現役時代の達海が、実は非常に似通っていたのだということです。
どういうことかといえば、村越も達海も、ある時期まで、チームの中心という役割を過剰なまでに担っていたのですな。責任感の塊のような村越と、ゴーイングマイウェイの権化のような達海。一見対照的な二人ですが、その実ETUというチームにおいては、フィールド上プレイヤーとしての振る舞いが不自由になってしまうほどに、周囲の期待で雁字搦めにされていたのです。村越は進んで、達海は嫌々ながら、けれど二人とも自分の意志で、その重荷を背負っていました。
村越のキャプテンとしての責任感の強さは、1巻から強烈に描写されていました。

あんたが出てったことで ETUは崩壊したんだ!!
二部に落ちて主力が抜けても俺は残った! キャプテンとしての責任があったからだ!
死にもの狂いでチームをまとめた! 4年掛けて一部に戻った!
俺は……
あんたが潰しかけたチームを………… 必死になって立て直してきたんだ!!
(中略)
チームを第一に…… そのために自らだって犠牲にしてきた
自分のことしか考えなかったあんたに……
俺の気持ちがわかるか……?
キャプテンとして やるべきことはやってきた
この10年……
俺は…… 自分のすべてをETUに懸けてきたんだ!!
(1巻 176〜181)

1巻でのこの言葉が端的に表しているように、チームのためチームのためと、その身を犠牲にしてきた村越。東京Vとのプレシーズンマッチでキャプテンを外されたことや、夏の合宿で達海に指摘されたこと、杉江にキャプテンを交代したことなどを経て、その意識は少しずつ変わっていきましたが、当初はここまでガチガチな考えを持っていました。
そして、チームを支える大黒柱という役割は、彼がひとりで個人的に背負っているものではありませんでした。そうだったらよかったのでしょうが、その役割は、サポーターやチームメイトまでが彼に押し付けていたのです。

そうさ…… 俺達が信用できるのはただ一人……
ミスターETU…… 村越さんだけだ
(1巻 p96,97)

手前ぇの言ってることはなぁ……
村越さんのやってきたこと否定してんだよ
(2巻 p31)

サポーターは村越だけを信用できるといい、チームのメンバーは村越のやってきたことと違うことをしようとする人間に対してそれは村越の否定だと短絡的に評価する。現実と対応していない理想や偶像が先行し、それから外れるものを強く拒否する。そのような、ある種の信仰とさえ言えるような状況に村越は祭り上げられていたのです。
そして現役時代の達海も、同様の状況にありました。代表にも選出され、日本サッカー界の新たな顔とされつつあった達海に、多くの人間が大きな期待をかけていました。

ファンは今のサッカー界に変化を求めている…… 新たなるスターの台頭を…!
それを担えるのは達海猛において他にない!
(14巻 p184)

俺達は達海が引っ張ってった面白えサッカーが観たいんだよ!!
カウンターで前に放り込むだけのサッカーなんてつまんねえんだよ!!
特に深作! お前トップ下で入ってるけどよ
お前じゃ達海の代わりは務まらねえんだよ! 上手くもねえのにそんなポジションやってんじゃねえよ!
(15巻 p188)

そもそもETUは達海のワンマンチームみたいなもんなんだよかよ
達海が抜けて勝てるはずがねえんだよ!
(15巻 p212)

「達海さん…… やっぱり足の状態良くねえのかな」
「あ? あいつ この前試合出たじゃねえか」
「だからそれで悪化したのかなって話ッすよ」
「……」
「それだよなぁ」
「夏キャンプは参加すんのかなぁ」
「後半戦どうなっちまうんだろ」
「……」
(気持ちはわかるが… しかしいつまでも達海さんの心配してていいのか?)
(16巻 p43,44)

サポーターも、スタッフも、選手達も、考えの前提に良くも悪くも達海があり、彼は無責任にその重荷を投げられていました。
前述のように、達海自身はどんなに周りが騒ごうとも、傍から見れば飄々とした態度を崩さず、いつも楽しそうにボールを蹴っていましたし、そういう声には「わけわかんねーこと好き勝手言いやがって…… 人のこと何だと思ってやがんだ?」と悪態をついていました。しかし、内心では彼なりにチームのバランスをとり、チームのためを思って行動し、かつて彼をETUへと誘った笠野が言った「垣根を取っ払ったクラブ作り」に協力していました。そんなクラブを愛している達海でしたが、いつしかその献身は、本来一プレーヤーが担える分を越え、自分を殺してまでチームをまとめようとしていたのです。

「笠さん…… 俺は考えが甘かったよ 俺がいい加減にやってたせいで ETUはこんなことになっちまった…
皆で楽しくなんて思ってたけど… それじゃ駄目だ
俺はもっと真剣に… チームのために意識変えてさ……」
「嫌われ者でも演じてチームまとめるか?」
「!!」
(16巻 p34,35)

達海が進もうと思っていた道は、彼がETUをここまでまとめあげていた方向とまるで違うものでした。笠野曰く、「今のETUは 楽しそうにプレーするお前の姿に周りが惹かれていって出来ていったチーム」であり、その中心にいた達海が嫌われ者になるということは、その「楽しさ」を失くすということになってしまうのですから。そしてそれは、今のETUの喪失であると同時に、「達海猛というプレーヤーまでもが大切何かを失っ」てしまうことになるのです。その危険な道を進もうとする達海を笠野は止め、ETUを離れ海外でプレーをしてくるよう勧めました。達海の核ともいえる「楽しさ」を失くしてしまう前に彼を外へ放ち、そしてそのホームであったETUを立て直すために。
ここで村越に立ち戻りましょう。
周りから過剰な期待と重圧と役割を負わされてきた達海は、そんなの面倒くさいと心底嫌がりながらも、それでも最後のところで一人で背負いこもうとしましたが、その直前に荷を放り出せました。それに対して村越は、時期としてはまさに達海の直後になりますが、達海が放った、本来人間一人で背負うべきでないそれを拾いに行きました。直接の描写はないものの、当初は決して楽な道のりではなかったことでしょう。まだ大きな業績もないい新人の村越がチームのためと思って行動しても、それが積極的に評価されたとは考え難いです。しかし、その献身ぶりが周りに評価され、サポーターも選手も村越を信頼するようになりました。二部落ちしたチームを再び一部に引き上げたもの、おおむね村越のおかげと評価されていますし、その信用は強大だといえます。
ですが、その強大な信用も結局のところ、かつての達海同様、彼一人ですべてを背負う、あまりに孤独な荷役にならざるを得ませんでした。なんとも皮肉なことですが、かつて村越が憧れ、そして裏切った(と村越は思っていた)達海の後を、彼は忠実にトレースし、そしてその先まで行ってしまったのです。
日本に帰ってきた達海が村越を見て、いったい何を思ったのでしょう。そこにいたのは、振る舞い方こそ違えど、現役時代の自分が日本にとどまっていたら有り得ていたに違いない、皆から頼られ、けれど誰にも頼れない、孤独な王様の姿だったのですから。
ETUを立て直すために、まず村越の立場をぼろぼろにするところから始めた達海。それは村越にとってひどく屈辱的なことでしたが、まずはそこから始めなくてはいけなかったのでしょう。以前の自分がいた、一本の柱に支えられるだけの家をいったん解体する。大黒柱は必要ですが、荷重は分散させなくてはいけません。横の力縦の力、色々な方向からの色々な種類の力に耐えられるよう、柔軟な構造が求められます。そのために、まずバラす。
達海が監督に就任して以来ETUは、昨年までとは比べ物にならないような快進撃を続けました。それを目の当たりにした、達海が現役時代にもフロントスタッフにいた現会長は、こう言いました。

しかしやはり人には一番振り返りたい時期というものがある
(中略)
そいつぁまさに お前が7番背負ってプレーしていた頃の話だよ 達海
(中略)
俺達にとっての理想はあの頃だ…… ずっとそれを目指してやってきた
(中略)
実際に今季のチームはいい 俺たちはいよいよ……あのシーズンのような光景が見られんじゃねえかって期待してんだよ
皆お前に 夢を見てんだよ 達海
(14巻 p98〜101)

これが達海にとって非常に恐ろしい言葉であったことは、今では想像に難くありません。達海にとってもあの時期は、たしかに輝かしいものであったでしょう。しかしその輝きは、薄氷の上の危ういものでした。薄い氷を一枚踏み割れば、その下には空中分解寸前の不安定なチームがあったのです。それを理想とされるのは恐怖以外の何ものでもありません。しかもそれを、当時のチーム内部にいた人間が言うのですから、その恐怖はいかばかりでしょうか。その考え方が、村越にも自分と同じような重荷を背負わせていたのではないか。そう身震いしていてもおかしくありません。
だから、達海は笠野に会いに行った。「垣根を越えた意見」を聞くために。「垣根を越えた意見」を言うために。つまり、「垣根を越える」ために。監督が、スカウトが、フロントが、キャプテンが、選手が、サポーターが、「各々の垣根を越えて自分の役割以上の仕事をする」ための第一歩として。
39巻で、代表戦から帰ってきた椿がチームメイトから囲まれるのを見て、笠野は不安を覚えましたが、それを打ち消すように会長から話しかけられました。会話のなかで安心する笠野ですが、本当にETUが垣根を越えるチームになれるかはまだわかりません。けれど、その芽がでているところは見られます。かつての自身の轍を踏まぬよういろいろ達海が思案する中で、杉江ら次世代の成長や、村越の自発的なキャプテン交代など、チームの柱はうまく組みあがりだしているようです。
さあこれからの終盤戦、ETUはどのような活躍を見せるのでしょう。「垣根を越える」クラブとして、楽しいサッカーを見せられるのでしょうか。期待MAX。



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