数多の星を支配下に置く帝国アザトス。かの国の矛先は今地球へ向けられ、先遣隊として降り立ったのは、帝国軍きっての俊英、リザ・ルーナ。低レベルな地球の文明に辟易していた彼女だったが、小休止しようと入った猫カフェで、恐ろしいものを目の当たりにする。それは猫。今までの価値観を全て塗り替えられるその愛くるしさに、リザの心も体も完全に屈してしまった。猫。それは地球を救う最強の生き物……
ということで、城戸みつる先生『カワイスギクライシス』のレビューです。かわいいは正義。猫はかわいい。よって猫は正義。あまりにも明白な三段論法によって猫の偉大さが証明されましたが、そんな正義の象徴である猫が、悪辣な宇宙帝国の地球侵略を食い止めるのです。だって猫がかわいすぎるから。そんな作品。そんなギャグ漫画。
猫のかわいさは全宇宙に知れ渡っている普遍の真理かと思っていたのですが、どうやらこの猫という至高の存在は地球にしか存在しないらしく、今まで地球に来たことのない宇宙帝国の者たちは、それを知らぬまま生きてきたらしいのです。人生の損失ですね。
ですから、先兵としてやってきたリザが猫に出会えば、あっという間にメロメロ、腰砕け、その場にへたり込んで何もできず語彙を失い忘我の境地に至るのも無理からぬことです。
(1巻 p14)
猫に初めて出会った宇宙人の一般的な反応。
彼女らにとって既知であった66兆種超の生物種すべてと比べたところで足下に及ばぬほどのかわいさを有する猫。そんな驚異の存在を帝国軍が知れば、価値観が転覆し、帝国ごと地球の、否、猫様の支配下に置かれかねず、それゆえリザは、地球にとどまり猫の生態を観察し、どうすればこの至高の存在を極力穏当に帝国へと伝えるかを全力で検討するために、地球にとどまり猫の生態を観察するのでした。嘘です。猫とにゃんにゃんしたいだけでした。
まあこの猫のかわいがり方、猫かわいがり方がギャグの真骨頂で、リザをはじめとする宇宙人たちが、猫様にまるで抗することができません。体つきのしなやかさに驚愕し、体毛の柔らかさに慄き、鳴き声に脳を溶かされ、肉球の感触に失神する。全力で甘えてくる姿には下僕のように媚びへつらい、不意に飽きて体を離されると傷心に膝から落ちる。
そんな宇宙人たちの姿に、すでに猫の存在を知っている地球人からは滑稽さを指摘する声が投げかけられますが、しかし宇宙人たちの名誉のために言えば、地球人だってたいがいです。登場する地球人たちはなにかしらペットを飼っていますが、リザが初めて言葉を交わした、猫カフェ店員の向井も猫を飼っており、彼が猫を飼うその姿は女王に傅く臣下そのもの。明らかに猫を高次の存在とおいています。
(1巻 p70)
だいぶやべえやつ。
それだけではありません。コカ・コーラにペプシ、白い恋人と六花亭バターサンド、ポカリとアクエリアス等々、人間の争いに終わりはないものですが猫と同程度の派閥を持つペット界の二大巨頭の片割れ、犬。犬派の人間も登場し、猫派に負けず劣らず飼い主バカ姿をさらします。
そして、きのこの山とたけのこの里の争いにアルフォートやルマンドが参戦するように、猫や犬以外にもハムスター、ハリネズミ、ウサギ等、各種愛玩動物の飼い主たちもまた、自分の家族であるペットをなによりも大切にし、他のペットを決して貶めることはせず、己がペットこそ宇宙一の存在とそのかわいさを誇示するのです。なんという平和な世界。
平和な世界ゆえか、端々で投げつけられるフレーズが光ります。
(1巻 p23)
(1巻 p34)
(1巻 p48)
狂った人間に対して平静な一言を入れる温度感がすごい好きなんですよね。やはり狂気と平静のあわいにこそ笑いが存在する。
各種動物がきちんとかわいく描かれているのもとてもポイント高し。全力で甘えてくる猫がかわいいんだまた。
(1巻 p68)
惚れてまうやろ。
なんかクサクサしたことがあってもこれを読むと幸せな気分で眠れそうな、そんなギャグ漫画。猫派でもそうでなくても、動物をかわいいと思える感性さえあればとにかく読むんだ。
現在4巻まで発売中。第1話はこちら。
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