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漫画の話です。

『ワンダンス』カボの強さと弱さ、浮かぶ宇宙と踏みしめる大地の話

高校対抗ダンスバトルの個人戦が佳境に入った『ワンダンス』。

ワンダ、伊折、恩ちゃん、宇千、カベ、そしてカボ。それぞれがそれぞれのニュアンスを出して踊るバトルは、ビートを見せていく絵と相まって、否が応にも盛り上がります。

さて、そのカボですが、ダンスの経験年数が圧倒的に少ないこともあり、主要キャラクターの中では最もダンスが安定しません。ノってるときは誰よりも魅せるし、ノれないときはてんでダメ。地に足がつかない、ふわふわとしたダンスになってしまいます。
彼のそんな両面性は、ダンスバトル編が本番に入ったクラブハウス内で垣間見えていました。

大会の受付をして、バトルが始まるまでのDJタイム。クラブハウスに来たのが初めてのカボは、その光や音に面食らいますが、一人踊るうちに、その感覚に心地よさを覚えていきます。

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暗いなクラブって
縦横無尽に視界が動いて
どっちが天井かわからなくなってく
頼れる情報は音だけ
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好きかも
(4巻 p134,135)

音楽に入り込んでいく内に、まるで宇宙に一人放り出されたかのようにカボが踊るこの2ページは、4巻の出色の出来だと思うのですが、クラブハウスでの自由な踊りに楽しさといくばくかの怖さを覚える彼も、次の瞬間にはワンダを見つけ、

大丈夫 この会場には湾田さんがいる
(4巻 p136)

と、己の立ち位置、立つべき大地を確かめるのです。
このシーンは、音楽に入り込んだときのカボの自由さ、ダンスの気持ちよさを表し、また、湾田への好意、信頼も強く示していますが、同時に、まだ彼のメンタルは常に自分一人でしっかり立つことができるわけではなく、つい湾田を求めてしまうことも表しています。
現に、ダンスバトルの予選で、自分の出番直前に反射的に湾田を探してしまったカボは、彼女が宇千に連れられフロア外に出て行ってしまったところを目にし、途端に心の安定を失いました。ふわふわした気持ちで臨んでしまった予選は、曲をうまく聴くこともできず、まるで調子の出せないまま終わり、あわれ予選落ち。呆然自失の体でへたり込んでいるところにやってきた湾田と話す中で、こう思いました。

そうか 今わかった 俺ダンスで飯食いたいからやってると思ってた でも 今んとこ
「成長した自分を湾田さんに見てほしい」って それだけなんだ
(4巻 p162)

辛くも敗者復活戦で本選に進むことができたカボですが、自分でもその不安定さを反省し、他に合わせたりせず自分自身に集中しようと意識したのです。
それが発揮されたのは、カベとの準決勝でのラストムーブ。
カベのダンスのキレと自分の疲労に、余計なことを考える余裕もなく、ただベストな踊りをしようと心に決めたカボは、伊折が言っていた「体幹」の話と、湾田の言っていた「脱力」の話に共通点を見出し、「転がるように 転ぶように 自然体のハウスをダイナミックに魅せ」ることに成功しました。

えっ 床動いてる? いや動いてるのは俺か 何言ってんだ 足軽
踊れる――…!
(6巻 p73)

予選前のDJタイムで見せたのと似た、重力が消えて自分の体の動きだけがつながっていくようなダンス。惜しくもカベには敗れましたが、そのダンスはジャッジもオーディエンスも、バトル相手のカベさえも魅了したのです。


失敗と成功。挫折と克己。それを繰り返して成長していく姿は魅力的ですよね。個人的には、湾田との初心なキャッキャウフフももうちょっと見たいとは思っていますが、それはバトル編後かしら。



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