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漫画の話です。

『HUNTER×HUNTER』キルアとイルミに見る、ゾルディック家の絆の(異常な)強さの話

!CAUTION!
HUNTER×HUNTER』31巻のネタバレがあります。


HUNTER×HUNTER』の新刊である31巻。30巻からたった8ヶ月で刊行されるなんてずいぶん早いんだなと思うあたりすっかり飼いならされてる感もありますが、まあそれはともかく。

HUNTER X HUNTER31 (ジャンプコミックス)

HUNTER X HUNTER31 (ジャンプコミックス)

以前の記事でキルアの倫理観というものについて考え、その中でゾルディック家特有の、仕事の優先度の高さと、それを離れた時の家族の親密性について触れました。31巻でゾルディック家の面々が再登場しましたが、その流れで彼らの「家族の親密性」について考えを深められる部分が出てきたので、ちょっと書いておこうと思います。今月末には32巻も刊行されるので、そちらでさらに深まったり、あるいは別の面が見いだせるかもしれませんが、ひとまず31巻時点でこれは言えそうだな、ということを軽くジャブちっくに。


ハンター協会会長選挙の裏で、ゴンを救おうと奔走するキルア。そのために実家へ帰り、家の奥深くに軟禁されているアルカを連れ出そうとしました。アルカの能力である「お願い」。それはあまりにも強力であるがゆえにリスクも大きく、まかり間違えば家族全てが滅びかねないために、能力の発覚以後他人との接触が非常に厳しく制限されていましたが、ゴンがピトーを倒すために自らへとかけた制約も人一人が背負い込むには不相応に大きく、その制約を外すためにはアルカの力を借りるしかないとキルアは判断したのです。
しかしキルアのこの行動は、ゴンの治療と同時にアルカの解放をも目論むものでした。
幼少時代のキルアはアルカと仲が良く、「お願い」の能力にいち早く気付いていたのもキルア(とミルキ)でしたが、イルミに針を埋め込まれた彼は、アルカが隔離・幽閉されてもそれを不思議と思わずにいました。

イルミに…… 操作されてたから…なのか!?
何で…オレは!! こんな目にあってる妹を 放っておけたんだ……!!
(31巻 p29)

久し振りの面会を果たしたキルアとアルカは、新婚夫婦もかくやのラブラブっぷり。一緒に遊んで、抱きついて、なでなでして、チューして。父親との交渉、というか脅迫により家の外にアルカを連れ出した後も、帯同した執事を撒いてからは「もしも世界中でアルカの事大好きなのが お兄ちゃんだけだったら…悲しいか?」「へ えへへへへへへへ 笑いが止まんないくらい嬉しい」とバカップルがごときの問答。「な この先お兄ちゃんはずっといっしょだ 他の奴の事なんか 考えなくていいんだ」などとぬかす彼は本当にキルアなのかと。
さて、そんなダダ甘お兄ちゃんであるキルアとめんこいアルカ、そしてそんな二人、というかアルカを殺そうと狙うイルミのせいでギャグに振れつつもキルアがライトサイドの存在として描かれていますが、よくよく考えてみれば逃げるキルアと追うイルミ、この二人はある点において非常によく似ています。それが何かと言えば、家族の一人に対して異常な執着を見せているということ。キルアはアルカに、イルミはキルアに。
キルアのアルカへの執着の異常さは端々に表れており、たとえばアルカを外に連れ出すための交渉というか脅迫の際のセリフ。

ナニカ 30分以内にこの山からオレ達がいっしょに出られなかったら 母親を殺せ……!!
30分以内にオレ達二人がいっしょに山を下りられたら オレのホッペにチューしろ
わかったな?
(31巻 p73)

アルカを外に出すためには母親が死ぬことも厭わない。それがあくまで交渉(脅迫)のセリフだとしても、それを家族に向けて明言することをまるで問題にしないのです(それを聞いた母親当人の反応もまた異常なのですが、それについてはまた別の記事で)。
また、アルカに対して殺意を剥きだしにするイルミに対して、キルアもまた彼を殺す気満々です。

アルカを傷つけようとする奴はオレが許さない
兄貴だろうが 何だろうが 
どんな手を使ってでも ツブしてやる
(31巻 p163)

同じ家族でもアルカは、少なくとも母親やイルミより大事。そんな執着をキルアは見せます。
そしてイルミも、キルアのために家族を殺すことを厭いません。実のところ、キルア以外の家族はアルカを家族の一員と見なしていない節がありますが、イルミはそれが非常に顕著で、アルカの「お願い」の発動がキルアや他の家族の命を危険にさらすことになるならば、なんの躊躇いも無くアルカを殺すでしょう。いや、それ以上の目的で、彼はアルカを狙います。

これは「取り引き」だぞ キル
<キルアは生涯苦しむだろう>
「オレの死」と「ゴンについての『お願い』をお前自身でする」とを交換だ!!
<オレはキルアの心の中で 永遠に生き続ける…!>
(31巻 p198)

自分がアルカを狙えば、キルアは自分を殺すだろう。どんなに憎んでいても家族である自分を殺せば、キルアはそれ生涯重荷として背負うに違いない。永遠に忘れられない存在としてキルアのこころの中で生きられるのなら、死ぬも本望。そんなことを考えるイルミです。キルアの一番であるためなら、他人の命どころか自分の命さえ惜しまない。
ゾルディック家の家族への執着は、その他母親やカルトちゃんにも見られますが、とりあえず31巻で露わになったキルアとイルミにスポットを当ててみました。32巻が出たら、そこでの進展を踏まえて改めてゾルディック家の家族問題について書きたいと思ってますので、今日はこの辺で。
ちなみに31巻で笑ったのが150p、「これは…」「祖母よ しっかり掴まってて」のやりとり。真面目なやり取りのはずなんだけど、バイクを指して「祖母よ」って。



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