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漫画の話です。

レベルE/冨樫義博/集英社

レベルE (vol.3) (ジャンプ・コミックス)

レベルE (vol.3) (ジャンプ・コミックス)

当たり前のようにある日常だけど、私たちが気づかないうちに他の星からの侵入者はそこかしこにいるのかもしれない。ほら、いまあなたの隣に座っている人は、本当にいつものあの人ですか……?


幽遊白書」終了後、アシスタントを一切使わずに少年ジャンプで月一連載された作品。
冨樫先生のセンスが澄み渡るほどに研ぎ澄まされ冴え渡っています。台詞回しが秀逸すぎる。

「あいつの場合に限って常に最悪のケースを想像しろ。奴は必ずその少し斜め上を行く

は、私の中で「一度は日常で使ってみたい言い回しランキング」上位に位置づけられています。

他にも
「俺とお前の『好き』の感情、絶対違う」
とか
「旅行は旅行、交尾は交尾、同時に行うなら両方とも事前に明確な了承を得るべきだ」「役所じゃあるまいし」
とか
「バカな、むしろこれからではないか。現におもしろ地球大改造計画は二年後に」
とか、素敵ワードが目白押しです。つーか改めて読み返すと、私の言葉遣いは結構この漫画に影響されているんじゃないかと言う気さえします。


「ハンター」のNGL編、特に最近の城突入編を読んでも思うのですが、冨樫先生の読者を引き込む力はもはや人外の域だと感じます。
その理由の一つが、一般的な漫画の読解文法を自家薬籠中に収めた上でそこから半歩外れることで、読者の意表を突く点だと思います。
日本の漫画文法的なものはおそらく手塚先生によりねっこの部分が確立されたのだと思いますが、それから歳月を経て、多くの漫画家たちがその文法を広げよう、打ち壊そうと努力し、足掻き続けた過程の上に、現在の漫画文法があります。
それはコマ割であるとか、フキダシの位置であるとか、構図だとかのことですが、冨樫先生は理屈でか直感でか、それをほとんど完璧に把握してしまっていると思うのです。

例えばこのページの右下のコマ。後ろで立っているキャラ「王子」は、このページの最初のコマで、舞台になっている部屋から退出したのですが、それを何の前触れもなくこのコマで登場させたのです。次のコマではもう一人の登場人物「雪隆」が突然の出現に驚いている表現を描いていますが、この驚きは、文法から外れた登場の仕方をした王子に対する読者のそれと軌を一にしているのです。
一般的な漫画文法を使えば、王子の登場前に台詞を入れる、物音を入れる、雪隆が気づく等の前振りを入れた上で王子は姿を現すものですが、それらをあえて一切排除して、王子を雪隆の後ろに立たせることで、王子の異質性、常軌を逸している点を現しています。

これなどはほんの一例で、注意して読めば、この漫画のいたるところに一般的な漫画文法から外れている表現が見受けられるはずです。これをセンスといわずしていったい何と言えばいいのでしょうか。

長尺のストーリー物という枷から解放された冨樫先生の奔放な遊びのセンスは、この作品で遺憾なく発揮されています。
台詞の文字数、逸脱した漫画文法、奇怪な動植物等、極めて情報量の多い漫画です。こんな怪作に思春期に出遭えていたのは、私の幸運の一つでしょう。
だからお願い冨樫先生、月一でいいから「ハンタ」の連載を再開してください。






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