青木瑠璃。ちょっと人見知り気味の、普通の女子高生だったはずの彼女。でも、ある朝起きたら、その額に一対の立派な角が生えていた。
「あんた 人と龍とのハーフなのよ」「父親が龍だから」「ま 普段通りでいいよ 死にゃしないし」
混乱する彼女に母親はなんてことのないように言うけど、言われるルリは混乱に拍車がかかるばかり。
不安にさいなまれながら学校に行くけど、クラスメートは思ったより普通に接してくれる。はてさてどうしたものかなと思っていたけど、授業中、くしゃみした拍子に口から火が出て、前の席の男子の髪を焼いてしまい……
ある日突然自分が龍と人間のハーフであると知らされた少女と、その少女を取り巻く世界の、大きそうで大きくないでも少し大きい蹉跌を、かわいらしく、ユーモラスに、ファンタジックに、そして時たまヒリリと生々しく描く、なんだろう……青春の物語、なのかな?
そんな本作ですが、最大のフックは当然、主人公のルリが龍と人間のハーフであるという事実です。
ある朝目覚めたら、何の兆候もなく生えていた角。痛みも違和感もなく生えていたそれは、鏡で見て初めて気づくようなものでした。
明らかに他の人には存在していない異物。でも母親はそれを、
「実はあんたのお父さん 人間じゃないんだよね」「お父さんも角生えてるから」「あんた 人と龍のハーフなのよ 父親が龍だから」
と、まるで、子供の頃に水疱瘡にかかっていなかったからそのうちかかるのかなと思っていた、くらいの軽いノリで驚愕の事実を告げてくるのです。
物語の世界観として、龍や妖怪が跋扈していたり、悪魔と天使の大戦が控えているようなものではない、現実の世界とよく似たもののようなので、言われたルリがその事実に目を白黒させるのは当然だし、他の人間が彼女の角に興味津々なのもむべなるかななのですが、その事実に接して前後不覚になるほどの恐慌に陥ることはないし、周りも腫れ物に触るように遠巻きにするわけでもありません。受け入れ方が、非常に親和的なのです。
その意味で、とてもやさしい世界。フィクションと言えばあまりにもフィクションなのかもしれません。
でも、それが悪いかと言えば、全然そんなことはなくて。
今まで普通の人間だと思っていて、あまり話したことはなくてもコミュニケーションは普通にとれる(と感じていた)クラスメートが、ある日を境に角を生やし、火を吐く。
角に火。
普通の人間(とりあえず、人間同士から生まれた人間)にはまずありえない特徴ですが、はたしてその特徴の顕現は、その人間の評価をどこまで変えうるものなのでしょうか。
その角で人を突き殺しまわるわけでもない。その火で辺り一面火の海にするわけでもない。昨日と同じ頭に角が生え、昨日と同じ口から火が出てしまった(一度不意に吐いてしまった以降はほぼ制御可能)彼女は、それ以外のパーソナリティに何か昨日と変わるところはあるのだろうか。
あると言えばあるし、ないと言えばない。
友人と喧嘩した。恋人と別れた。そんな一山いくらのイベントで、それまでと性格が多少なりとも変化してしまうことは誰しもあるでしょう。角が生え火を吐けるようになったことで、性格に何らかの変化が起こってもおかしくはありませんが、それは前記のようなケースと大差ないのではないのか。
登場人物たちはそのような考え方を裏付けるように、ルリへの態度を常識的な範囲以上に変えはしないのです。
もちろん彼女を遠ざけたり、恐怖を覚える者もいます。「みんな わたしのこと怖くないの?」と恐る恐る尋ねたルリに、「実はあたし ちょっと怖いけどね」と正直に言ったクラスメートもいます。一緒に食事をしようと誘ったらはっきりと避けたクラスメートもいます。
でもそれは、たとえば「あいつ昨日喧嘩して他校のやつを病院送りにしたんだって」というクラスメートの避け方と大差ないレベル。むしろそれより軽いレベルです。
でも、角が生え火を吐ける龍と人間のハーフという突拍子のないことがわが身に降りかかった者だろうと、そう露骨に避けられれば気にしないわけはないし、傷つかないわけはありません。その理由が何であれ、周囲の人間から恐れられて平気な者などいないのです。
その意味で、ルリの悩みや苦しみは等身大。
でももちろん、彼女に降りかかってきた事件はあまりに突拍子もなく前例も聞いたことがなく、その意味で悩みや苦しみは無限大。
その両者のバランスがかわいらしく、仰々しくなく、心地よいバランスで物語が進んでいきます。
ルリも、母親も、ルリの一番の友人ユカも、担任もみんな、目の前の珍事に慌てながらも真剣にいろいろあれこれ考えながら、でも肩肘を張る風でもない長閑な空気感を漂わせているのが、とても印象的なのです。
「まあ普通の人間社会でもよくあることです 普通とは違う特性を持った人がいることなんて」
これはルリの担任教師のセリフですが、ルリの特性をこう言い放つ彼の言葉が、この作品のスタンスを端的に表していると言えるでしょう。
龍と人間のハーフなのは、大変なことではあるだろうけど、変なことではないのです。
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こちらが第一話。
「なんかわたし 人間じゃないらしいよ」と、友人に戸惑いながら言えるくらいの 日常と不思議のバランス感覚。
現在休養中で連載は止まっているようですが、一刻も早い回復をお祈りする所存です。再開楽しみ。
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