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漫画の話です。

『BLUE GIANT SUPREME』辿り着いた極点とゼロからの探求の話

続編の『BLUE GIANT EXPLORER』とともに、満を持して発売された『BLUE GIANT SUPREME』の最終巻。あまりにも最の高だったので、雑に感想を書こうと思います。

冒頭は、10巻から続く、成功を収めたロックフェスの後の、各メンバーの様子ブルーノ編。ヨーロッパドサ回りの後半から、大の成長ぶりにに自身との差を感じてきた他のメンバーが、一つの大きな山を越えた後に何を思うか。
抜きんでた大に追いつこうと焦るあまり、自分がどうありたいかを忘れかけていたけど、それを思い出したラファ。
家族からの期待やクラシックの過去というしがらみに区切りをつけられたハンナ。
大にも負けないはずの自分の成長を見せたかったブルーノ。
リーダーである大のレベルアップは三人とも認めるところですが、それに対してどう反応するか、自分はどうあるべきなのか、どうありたいのか、三者三様の姿が描かれ、バンドとしてではなく、個のプレイヤーとしての成長を感じさせるエピソードでした。
バンドがレベルアップするためには、個がレベルアップしなければいけない。それを考えても、NUNBER FIVEの今後のさらなる成長を思わせるエピソード群でしたが、当のリーダーである大は、現状に不満を感じていました。
いえ、不満というと正しくないのかもしれません。ライブの客足は好調。CDの売り上げは好調。バンドは登り調子。若手ジャズプレイヤーとしては誰もがうらやむような順風満帆の状況ではあるのですが、それでも大が抱いてしまったのは「解散したい」という思い。なぜか。それは、常に新しい音に触れていたいから。ラファやハンナやブルーノのプレイが好きという以上に、自分のプレーが好きだから。
この自分勝手さ。傲慢さ。残酷さ。
メンバーより自分の音楽が好きだなんていうあまりにもセルフィッシュなことを言いきる大の姿に、しびれます。
でも、それと同じくらいしびれるのは、メンバーたちが大の言葉に同意するところです。三人が三人とも、バンドの解散には不満だけど、それでも大のプレーが好きだということには同意する。大にはそうであってほしいと言う。
一つのものを同じステージで作り上げる仲間であり、同時に、自分こそという思いで切磋琢磨するライバル同士。とても美しい関係がここにあります。
そして、最大の山であるノースシージャズフェスティバル。
解散を賭けたステージに至るまでに、文字通り殴り合うような練習を重ねてきましたが、彼らはそのステージ上で、今までにないシンクロ感をもってプレーしました。出だしのほんのワンフレーズから、それぞれがそれぞれの具合を主張し、推し量り、そして通じ合う。
新しいリフに反応して次のリフを想像する。そのリフの勢いに吹きたいテンポを感じ取る。アドリブのボルテージが上がりきったところでソロを阿吽の呼吸で受け渡す。ソロが渡されるごとにボルテージは上がり、一瞬先は常に一瞬後を越えようとする。
何も言わずとも、一曲目が激しいソロからだったから、二曲目は静謐に始める。フレーズを展開させるリフを全員が了解する。倍速にしたそうなので倍速にする。横ノリのフレーズになりそうなので横ノリを付ける。
まるで言葉で会話しあっているかのように、否、テレパシーで通じ合っているかのように、お互いがお互いのプレーを、何をしたいかを、理解する。いわゆるゾーンに入ったような感覚。
NUMBER FIVEの面々がこの境地に至れたのは、本番での集中力もさることながら、そこに至るまでの長いライブ回りと、本番直前のお互いの我をぶつけあった練習が必要だったはずです。
ここではこう吹きたい。
ここではこう叩いてほしい。
合いの手はこう入れてほしい。
ソロにはこうつなげてほしい。
言葉どころか手も出るような激しい練習で、メンバーたちはそれぞれの希望を身体にしみこませているのです。それがあったから、この奇跡のようなステージが生まれたのです。プレーが素晴らしければ素晴らしいほど、終わりが切々と近づいてくる、アンビバレントなステージが。
まだこのバンドでやっていたい。
まだこのバンドで成長できるはずだ。
解散なんかしたくない。
そんな他のメンバーの思いをもちろん大は感じ取り、それでもなお彼は吹き上げます。「俺は行くんだ」と。
やっぱり、とてもわがまま。でも、そんなわがままな音こそが、自分なんだと。
メンバーの高揚に観客も巻き込まれ、会場全体が一つに融け合い、知らないうちに涙が流れるそのステージには、読んでるこちらの涙もこぼれるに十分な感動がありました。
そして、ノースシーを終え最終話。Dai Miyamoto NUMBER FIVEとして最後のライブとなるオスロ。有終の美を飾る演奏。大が抜けても続くことになったNUMBER FIVE。高台から望む開けた北極圏の地。大からの、ヨーロッパでのすべてに感謝を捧げるメンバー紹介。
最後の最後のメンバー紹介もいいんですけど、私はその直前の、五人で見た光景のシーンが好きなんですよね。単身ヨーロッパに乗り込んだ大が、一人で演奏し、ハンナに出会い、ラファに出会い、ブルーノに出会い、NUMBER FIVEとなり、四人でお互いを高め合い、バンドとしてどんどん強く、鋭く、研ぎ澄まされていった先で、解散というバンドの結末にたどり着いたところが、開けた地だというのが、アメリカに旅立つ大を象徴するようで、とてもいい。まさに、"supreme"の先に続くのが"explorer"なんですよね。極点の先で、またゼロから一人で新しいものを探し出すのです。
EXPLORER』1巻は、『SUPREME』の1巻とは違い、すでに一定の力量と海外慣れを身に着けた大の新たなスタートですから、後者ほどの緊張感まではないのですが、それでも新たな地で大がどんな新しいものを見つけるのか、期待させてくれる滑り出しです。無印で登場した雪祈の再登場フラグもたちましたし、それも楽しみです。
はよ。2巻はよ。


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