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漫画の話です。

男と女のSFでエログロでナンセンスな掌編集 『幻想ギネコクラシー』の話

「ギネコクラシー」。それは、「女性上位」「女権社会」を意味する言葉。古来、まだ人の社会がささやかな規模であった頃、それは女性を首長とする穏健な集団であったという。だが、社会が複雑になり、集団同士が相争うようになると、首長の座は男性にとって代わられていった。これは、人々の生活がまだ牧歌的であったことの記録である……(嘘です)

幻想ギネコクラシー 1

幻想ギネコクラシー 1

ということで、沙村広明先生『幻想ギネコクラシー』のレビューです。
とりあえず嘘あらすじから始まりましたが、「ギネコクラシー(gynaecocracy)」 の意味は本当です。
作者曰く

自分の漫画の傾向として女性キャラが男性キャラを下に敷くようなものが多い気がしたので、このシリーズもどうせそうなるだろうと思い連載途中で付けました。
(「あとがき」より)

とのこと。
女性が男性を組み敷いているかどうかはともかく、恋愛を軸にした男女の関係性にSFとエログロとナンセンスをないまぜにして出来上がった短編集が、本作です。
巨大な水槽の中で果物と一緒に浮かぶ、白痴の美少女。
童貞のまま40歳を迎えたことで妖精の国の女王と婚姻する資格を得た男。
男が宇宙船でたどりついた先の異星にただ一人いた、謎の美女。
悪魔的な画風の作家の絵に取り囲まれて暮らす、地主の未亡人とその娘。
そんな幻想的でもあり妄想的でもある物語が全12編。しょうもない話だと思いきやほっこりまとめたり、逆にちょっといい話っぽく始まったと思ったら圧倒的なくだらなさの下に終わったり、あるいは徹頭徹尾退廃的な空気のままに話が進んだり、くだらなさをくだらなさで煮しめたくだらなさの塊だったり。バラエティに富んだ作品群となっています。
ページ数は、最初と最後の話を除けば8p(ちなみに、その両話は「幻想ギネコクラシー」クレジットの連載とは別枠のようです)と、短編というより掌編で、突飛な設定を一気にぶち上げて、そのまま投げっぱなして終わるものが多数。オチていないという意味ではなく、余韻も無しにぶった切るようにして物語にエンドマークを付ける感じです。でも、掌編はそういうものの方が好きです。「楽園からのハッピーバースデー」の唐突なオチなんか相当いい。
私が好きなのは「鳳梨娘」。上で挙げた「巨大な水槽の中で〜」のお話ですが、白痴の少女を巡る悲しくもグロテスクな物語と、救いが無いようであるのかよくわからんラスト。最後の最後の一言の投げやりさがなんかもう身も蓋も無い。帯の惹句に「身も蓋も無い話を描かせたら当代随一」とありますが、こういうところなのでしょう。
あと「コップと泥棒、その妻と愛人」のおっぱい揉むシーン、普通にエロくてよいです。
クレイジー(notカオス)な掌編集をお望みの貴兄に。



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