新宿に仕事場を構える初老の男性・樫村蔵六。曲がったことが大嫌いで、子供に説教代わりの拳骨をぶん回すことも厭わないそんな彼は、ある日、フリフリのドレスを着た金髪の少女・紗名に出会った。彼女は奇妙だった。場違いな格好。不自然な挙動。ピントの外れた問答。けれど、なにより奇妙だったのは、その場から文字通り消えたこと。これをきっかけに蔵六は、不可思議な事態に巻き込まれていくことになる。異能の力がゆえに人とは違う幼い人生を歩んでいた紗名が、日本の頑固爺である蔵六の道と交わるとき、そこになにが生まれるのか……
- 作者: 今井哲也
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2013/03/30
- メディア: コミック
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前作の『ぼくらのよあけ』でサイエンスフィクションを描いた今井先生が、今作では超能力フィクションに挑戦。なんだ超能力フィクションて。まあでもわかるでしょう。空飛んだり、無から有を生み出したり、ここからあそこへ瞬間移動したり。そんな超能力の使い手は「アリスの夢」と呼ばれ、その一人である紗名が、「アリスの夢」を囲っている研究所から抜け出して出会ったのが蔵六でした。自分たちを苦しめていた研究所をぶっ潰すべく、蔵六の助けを借りようとする紗名。けれど、まっとうな教育を受けられず研究所で育った紗名は、適切な礼儀も、それどころか社会常識すらも無く、曲がったことが大嫌いな蔵六の怒りに触れてしまう。爺の説教から始まるボーイ・ミーツ・ガール。新しいな。いやそもそもボーイじゃないか。
なにはともあれロリ幼女。金髪幼女。わがまま幼女。食いしん坊幼女。双子幼女。幼女。幼女。そんな感じで素敵なものがたくさん詰まっている本作ですが、無論のこと魅力が幼女ばかりということはなく、ひねりの効いたいいキャラなのが、主人公であるところの蔵六です。
頑固爺。現在日本で絶滅が危惧されている固有種と言えばトキか頑固爺かってなものですが、頑固一徹を地で行くようなこの蔵六、相手が幼女だろうがヤ○ザだろうが、目の前で超常現象が展開されていようが武器を向けられていようがおかまいなし、「曲がったことが大嫌い」という己の信条を貫き、説教をくれて拳骨を飛ばす、The 頑固爺。そして、拳骨をもらって涙目で怯える幼女。いいじゃないか。
最後は話がそれましたが、このオールド・ミーツ・ガールの物語は、まさにその言葉通り、大人が子供に出会う物語です。社会のことを知らない子供が、社会の酸いも甘いも噛み分けた大人に怒られ、社会とつながっていく物語。爺だからこそ説得力のある言葉がある。その爺が頑固爺であればあるほど、説得力に厚みは増していく。言葉の正しさは人に拠らないだろうけれど、その言葉に説得力があるかどうか、その言葉が相手に届くかどうかは、どうしたって人に拠る。「私はあなたの意見には賛成だ、だがあなたがそれを主張する仕方には反対だ」とはオレテール(もしくはオレンタイア)の言ですが、真っ当なことは、その真っ当さの綺麗な面だけでなく、重さもキツさも知っている(少なくとも、知っているだろうと思われうる)人間が言わないことには、どうにも嘘くさいし軽々しい。この頑固爺こと蔵六は、自分の信念を曲げない強情な人間ではありますが、裏表のなさゆえかなんだかんだの人付き合いの良さゆえか、他人からはひどく信頼されており、その描写は彼の人となりに筋を通し、彼の言葉の真っ当さにバックボーンを与えてくれているのです。いい爺だ。
研究所への復讐を考える紗名。彼女を研究所へ戻すべく派遣された、同じく「アリスの夢」の双子の姉妹。二人を後ろから操る研究所の面々。そして紗名を保護しようとしている謎の組織。その中心にいる頑固爺が、果たして物語をどう動かしていくのでしょうか。
さて実はこの作品、1巻でのとある描写によると、ある人物によるある時点からの回想(昔語り)のようなのですが、その描写と2巻への引きとなる1巻最後のシーンがあいまって、えらく続きが気になります。ベタといえば無論ベタだけど、だがそれがいい。
タイトルが『アリスと蔵六』であっても、具体的なキャラクターとしてのアリスはまだ出てきていません。今後、何らかの形で登場するのでしょうか。
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