- 作者: つばな
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2010/12/13
- メディア: コミック
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とまあそんな感じの、つばな先生の『第七女子会彷徨』です。
世界中が「なんだか解らないもの」に蹂躙されているのを台風みたくちょっとした災害気分でやり過ごしたり(第2話 正体不明 The destroyer)、未来人からのプレゼントで並行世界に飛ばされたり(第15話 多元宇宙ボタン I am missing)、はた迷惑な地球防衛軍がいたり(第21話 地球防衛軍 No war)と、全体的にすっとぼけたテンションの中で展開されるコメディは、基本おちゃらけたまま話が進み、たまにはちょっと真面目な方面に足を踏み入れる時がありつつも、ゴーインマイウェイな高木さんのパワーによってフワフワした空気に引き戻される、なんというか全体的にゆるゆるとした作品なのです。
ただ、そのゆるゆるの中にもそこはかとない狂気が孕んでいたりもして。
例えばまず、この主人公である金やんと高木さんの出会いのきっかけは、「友達選定システム」なるもの。高校入学と同時に全ての生徒に友達となるペアを組み与えるこの制度、一つ間違えればちょっとしたディストピアにもなりかねない代物ですが、大多数の生徒はそれを当たり前のものとして受け取り(金やんは当初懐疑的な立場でしたが)、世界は恙無く回っています。
他にも、技術の進歩により人間の心をデータ化することが可能になったため、死んでも「デジタル天国」で再生することが可能になりました。言ってみれば、技術が生み出したあの世なわけですが、その結果生まれたのが死の形骸化。
「えー 出席を取る前にお知らせがあります 昨晩……事故で入院していた坪井沙季さんが
死んじゃいましたので日直は一人分繰り上がって次戸川だから今日よろしく」
「えーっ 坪井のやろう!!」
(1巻 p46)
実に軽い。
本来不可逆であったはずの死が、肉体を伴わないデータの形とはいえ乗り越えられてしまった状況は、色々と倫理的な問題を抱えていて然るべきなのですが、そこらへんを(おそらく)あえて無視した形で進められるおちゃらけた話は、深刻さがないからこそ、そこはかとない狂気を感じるのです。
胚胎する狂気とそれを大きく包む真綿のようなSF(少し不思議)。のんびり読めるも、時折感じる不穏さ。変にクセになっちゃうような読後感です。
で、さらに最新刊であるところの3巻第30話「ジプシーキングス」。このお話は、今まで少しずつ小出しにされてきた高木さんの過去、まあネタバレってほどではないので言っちゃいますけど、父親の仕事の都合で高校に入るまで引越しを繰り返してきた半生にずっと感じてきた寂しさ・物足りなさを、SF(少し不思議)からは離れた、叙情的ながらも軽快な筆致で描いています。3巻の最終話として収録されているのですが、高木さんの性格や「友達選定システム」の話に上手くつながり、思わず「いい最終回だった……」と唸ってしまいたくなるような感じなのです。
ちなみにこのつばな先生、『それ町』の石黒正数先生のところでアシスタントをやっていたようで、『それ町』の巻末でのスペシャルサンクスでも名前を確認することが出来ます。特に背景なんかに、なんだか見覚えがあるような。
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