もう誰か指摘してることかもしれないけど、気づいたので書いておこうかしら。
最新刊であるところの17巻では、シーズン折り返しの夏キャンプのエピソ−ドを描いている『GIANT KILLING』。
- 作者: ツジトモ,綱本将也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/10/22
- メディア: コミック
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強豪との差って何?
選手の個人能力の差? 優勝経験があるか無いかの差?
残念だけどそこまでの差は 一回キャンプ組んだ程度で埋められるもんじゃない
だけど試合に勝つためのチーム力… 全部ひっくるめた総合力っていうんだったら
俺はその差は十分埋められると思うよ
(16巻 #154)
その差を埋めるため達海が選手に求めることはたった一つと言いますが、達海はそれが何か教えず、キャンプの内容もスイカ割りよろしく目隠ししてのミニゲームだったり、大学生チーム相手に自分の一番得意なポジション以外での練習試合だったり、ホテルの部屋割りもくじで決めたりと、選手もコーチもその読めない達海の意図に翻弄されます。
ですが、合宿に集中するうち、選手の間にもおぼろげながら達海の考えが理解できていきました。つまり、選手同士の相互理解。チームの共通意識の養成。複数の人間が集まってできているクラブチームというものが一つの生き物のように成長するには、それが必要なのだという達海の意図の下に、今回のキャンプは計画されていました。
チームの中でも特に察しがいいのは杉江や緑川、堺などでしたが、逆に達海の目から見てもっとも悩んでいるように思えたのが、キャプテンの村越。キャプテンとしてチームの状態に人一倍責任感を覚えている彼ですが、その悩みこそ、達海には彼の成長の足枷であると感じられていました。
けれど練習試合の中で、慣れないFWを任されていた村越が自分のパスミスからカウンターを仕掛けられ、結果失点に繋がってしまった時、反省の弁を述べる彼に向けて黒田が叫びました。
んなこといいって
村越 さん!! 後ろはいいから点取ってきてくれ!!
村越 さんのフィジカルなら前でボールを受けられるし打開もできる! どんどんシュート狙って下さいよ!
俺はどうせこいつが守備できねえから上がれねえんだ!! あっちの攻撃は俺が潰しますよ
(17巻 #161)
その言葉を聞いて、村越は胸を突かれた思いでした。
俺は今まで……
自分一人が抜かれたら……
チームが決定的なピンチに陥ると思っていなかったか……
(同上)
そして、プレー再開後、前線でボールを受けた村越は走ります。
前を出るにはリスクを犯さなければならない
そのリスク…… 俺がもしボールを奪われたとしても……
後ろにはあいつらがいる
俺に足りなかったのは…… チームの仲間を
あいつらを 信じきることだったんじゃないのか
(17巻 #172)
結果、村越は相手DFを引きずったまま、パワフルなシュートを決めました。
で、このシュートシーン。何かを髣髴とさせると思ったら、プレシーズンマッチでの東京V戦で同点ゴールを決めたところなのですな。
1点ビハインドで迎えた試合最終盤、東京Vのカウンターを止めた村越は自らボールを持って上がり、そのままシュートを決めてきました。
そのシュートを達海が評して曰く。
ま…… あのゴールだけは良かった
あとさき考えずに 突っ走った結果じゃねーの?
あの光景を頭に刻んどけ
地鳴りみたいなサポーターの歓声 ガキみたいに駆け寄ってくるチームメイトの顔
お前を長い会い差見てきた連中の答えが あの瞬間に詰まってた
このチームの色…………
そいつはお前だ村越
前だけ向いてろ
(3巻 #21)
達海は監督として、今まで誰にも頼ろうとせずにキャプテンとして孤軍奮闘してきた村越の背負ってきたものの半分を、「命がけで背負ってやる」と言いました。そして「
この言葉は、東京Vとの試合中に村越の胸中に去来した言葉とも符合します。
チームのためにサッカーをやってきた……
果たして本当にそうだったろうか
キャプテンという立場を………… 自分の逃げ場にしていなかったか?
(3巻 #20)
キャプテンとして責任感があるのはいい。けれど、それに縛られすぎては、自分自身も一人のフィールドプレイヤーであるということを忘れてしまう。今までの村越は、一人で色々なことを背負い込みすぎてしまっていたために、プレイヤーとして活ききることができなかった。だから達海は言ったのです。「前だけ向いてろ」と。
さあ、このエピソードがシーズン開幕前のプレシーズンマッチ。それから半年ほどのリーグ前半の間、村越はこの達海の言葉を意識しながらも、長年染み付いた呪縛からはなかなか逃れることができませんでした。なぜ活躍できない自分を監督は使い続けるのかと悩んでいた椿にアドバイスをしたり、夏合宿の最中も「死にもの狂いでやらなきゃいけないんじゃないのか」と上の空になったり。
そんな村越を開眼させたのが先に書いた、この巻のバックを信頼してのゴールだったのでしょう。
つまり、この夏合宿での村越のゴールは、プレシーズンマッチでの、自分がETUのカラーであると達海に言われたあのゴールのプレイバックのようなものなのです。「すべての偉大な世界史的事実と世界史的人物はいわば二度現れる」と言ったのはたしかヘーゲルですが、そんな仰々しい言葉を持ってこなくとも、よく似てはいるけれどわずかに違うことを描き出すことでそのシーンに重要性を与える、印象付けるというのは、創作物でよく使われる手法です。一度目を悲劇的に、二度目を笑劇的に描き出せば実にマルクス的ですが、まあそれはともかく。
シーズンの直前に一プレイヤーとしての新たな自覚を促したゴールが、シーズン後半の直前にも再び現れる。それが起きたのが、ETUのカラーたる村越の身の上なのだから、チームのキーマンとしての彼の立場は否が応でも印象付けられます。
村越が変わったから、と原因を全て彼に帰すわけには行きませんが、ETUは確実に変わりました。リーグ開幕戦ではジャベリン磐田と対戦し、アンラッキーなゴールから一気にチームのバランスが崩れ大敗、そこから開幕5連敗を喫します。このリーグ後半の第一線も、同様にアンラッキーな形で先制点を奪われてしまいましたが、にもかかわらず、選手たちは浮き足立っていません。
アンラッキーな形で先制され… その後は札幌の勢いに押されて… 防戦一方の展開…
このまま磐田戦の時と同じように失点を重ねていくのか……? いや
俺にはそうは思えねえ… あいつらには… ETUの選手には何か余裕みたいなもんを感じる…
1点ビハインドのこの状況でも あいつらからは焦りを感じられねえ
(17巻 #167)
試合は、前半残り10分を切ったところで、ボールを奪ったETUがカウンター、村越のペナルティエリア外からのロングシュートで同点としました。ETUが、そして村越が負け癖のついていた去年の状態から変わった、非常に象徴的なゴールでした。
コミックス派の私は、ETUが真に変わり、この試合がどうなったのかは知りません。果たして、きちんと後半戦のスタートを白星で切れたのでしょうか。予告でちらりと描いてあった緑川はどうなったのでしょうか。雨の中の村越と椿の会話はどんなものでしょうか。
相変わらず目が離せない『GIANT KILLING』なのです。
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