最近マイブーム(久しぶりに使ったな、この単語)の西川魯介先生。今日は幻冬舎より刊行されている「怪物さん」を買ってきました。
- 作者: 西川魯介
- 出版社/メーカー: 幻冬舎コミックス
- 発売日: 2007/04/24
- メディア: コミック
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- 作者: 西川魯介
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2009/03/19
- メディア: コミック
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「怪物さん」の舞台は現代日本。当初は西川節いっぱいのオカルト下ネタコメディだったのですが、終盤で突如伝奇物の様相を呈し始め、いかにも後の展開がありそうな引きで終わりました。
「ヴンダーカンマー」は第二次大戦期のナチスドイツが舞台。やっぱりオカルト下ネタコメディなのですが、時代や地域の違いもあって、オカルトのニュアンスは幾分違いますね。前者は妖怪などの民俗的なオカルト、後者は魔術や古代種などのムー的なオカルトって感じです。
このように、背景の趣きがずいぶんと異なる二作品のようですが、どっこい共通点がありました。
(怪物さん p13)
彼女が「怪物さん」の主人公・立烏帽子清華(たてえぼしすずか)ですが、終盤で彼女は「蛇の王」なる存在であることが明かされます(ちなみに作中では「蛇の王」がなんなのか、ほとんど言及なし)。
(ヴンダーカンマー 1巻 p118)
立烏帽子によく似た彼女は「ヴンダーカンマー」1巻途中で現れる、SS(Schutzstaffel ナチの親衛隊)に雇われた祖先遺産協会の人間・シュランゲ。「シュランゲ」はドイツ語で「蛇」を意味します。さらに、コマの中で彼女が発している台詞は「只の蛇ではありません」。只の蛇じゃなければどんな蛇なのかと。もしや「蛇の王」なのかと。
(怪物さん p166)
この異形は、立烏帽子の前に現れ彼女が「蛇の王」であると告げた怪物ですが、これとよく似た怪物が「ヴンダーカンマー」内でも登場します。
(ヴンダーカンマー 1巻 p91)
翼が生えた男性器の如き異形の存在。この酷似っぷりは偶然ではないでしょう。
そういえば、フロイト心理学では、蛇は男性器の象徴でしたね。とすると、こいつらが「蛇の王」の眷属だと考えるのは、それほど不自然な発想ではないでしょう。
(怪物さん p206)
彼はかつて「蛇の王」を殺しその血を浴びたために、人狼となり、そして永遠の魂を得、永劫を「蛇の王」とあり続ける宿命を負わされましたが、その状況を作中では「夜のけものにした」と称しています。
(ヴンダーカンマー 1巻 p90)
彼は「ヴンダーカンマー」の主人公・ガッセ少尉ですが、彼は遺跡の調査中に突如開いた穴に引きずり込まれ、そこで怪物たち(上に引用したあいつら)に弄られるのですが、そのとき言われた台詞が「夜のけものはまだねむっているのか」。
「夜のけもの」という共通点ですね。
どうやら怪物たちが直接「夜のけもの」であるわけではないようで、「蛇の王」と密接な関係を有する一つ(一匹?)の存在が「夜のけもの」であるようです。
洋の東西を問わず蛇は復活・再生の象徴であり、特に尻尾を咥えた蛇(ウロボロス)は「終わりなき循環」を意味し、錬金術のシンボルとしても用いられました。蛇の血を浴びて永遠の命を得るというのは、ある意味で正しい「物語」です。
余談ですが、
(怪物さん p200)
「ネヴァモア」(見づらいですが、ルビでそう書かれています)と繰り返すこのカラス。これの元ネタはE.A.ポーの物語詩「大鴉(The Raven)」で、恋人を亡くして悲嘆に暮れている主人公の前に現れ、"Nevermore"と繰り返し主人公の狂気を募らせる存在です。
さらに余談ですが、TYPE MOONの世界にいる死徒二十七祖の十六位、グランスルグ・ブラックモア(吸血鬼。正体は全長数キロに及ぶカラス)の使う固有結界の名前が「ネバーモア」だったりします。
調子に乗ってもっと余談ですが、現代日本では不吉なものと考えられているカラスですが、古代日本では吉兆の動物、瑞獣でした。八咫烏がそれで、三本脚のカラスは太陽の化身であり(ちなみに対となる月の化身はウサギ)、神武天皇の東征の際にはが松明を掲げ導いたという伝説も残っています。日本サッカー協会のシンボルマークも八咫烏ですね。
また、カラスは熊野三山の御使いで、それにまつわる話は昔のこの記事なんかをどうぞ。
三千世界の鴉を殺し ぬしと朝寝がしてみたい 〜備忘録的薀蓄 - ポンコツ山田.com
最後のほうは脱線しまくりましたが、西川先生の作品にこめられている神話的な物語はかなり興味深いよな、ということで。「怪物さん」には前日譚となる作品もあるそうなので、そちらも読んでみたいものですわ。
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