- 作者: 桜井のりお
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2008/12/08
- メディア: コミック
- 購入: 7人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (146件) を見る
で、今日はなんで「みつどもえ」がそういう漫画だと思えるのかという話を少々。
「みつどもえ」は少年チャンピオン連載のギャグ漫画。小学六年生の「日本一似てない三つ子」丸井みつば・ふたば・ひとはが中心になって巻き起こす、下ネタも挟みつつのドタバタコメディです。
この作品の面白さの肝は、ひとえにキャラの立ちっぷりだと思うのですが、そのキャラ立ちが連載当初からあらかじめ設定してあったものではなく、回を重ねるごとに付与されていったもののように思えるのです。想像するに、ある回のネタを考えて、それに適合するようにキャラを動かしているうちに、キャラの内面性、性格付けが発達していったのではないでしょうか。
元々短期集中連載から連載に昇格した作品で、きっと当初はかなりハチャメチャで破天荒なギャグにしようとしていたのではないかと思うのですが、それが作者の思惑を裏切るほどにキャラ(人格)ができてきて、小学生の不器用だけど優しい人間関係まで描けるように成長した、みたいな。
例えば松岡というキャラがいます。
(みつどもえ 5巻 p72)
彼女は三女ひとはを霊媒師だと勘違いしていて、自分もスピリチュアルな方面に悪い意味で憧れる「クラスで一番おかしい子」。その痛さは初登場の七卵生「11.3のひとは」から全開で、以降もその性格は悪い方にしか伸びません。
また、杉崎というキャラがいます。
(3巻 p40)
彼女の名前がちゃんと出てきたのは15卵生「ないしょのみつば」ですが、当初はみつば嫌いの代表格くらいのキャラだった彼女に、金持ちというキャラがつき、墓穴掘りの変態というキャラがつき、嫌いが一周してみつばが好きというキャラがつき、弟思いというキャラがつき、今じゃ立派にレギュラー格です。
その杉崎といつも一緒にいる吉岡と、宮なんとかこと宮下。
(3巻 p57)
(4巻 p97)
この二人には外見的な特徴以外キャラなんてなかったのですが、前者には恋話好き、常軌を逸した眉毛、後者にはときとしてうざい、前髪のピンを外すと誰かわからなくなる、というキャラがつきました。
最初から強烈なキャラがつけられていた松岡と違い、杉崎たちは当初のプレーンなキャラが幸いして、松岡に比べればなんぼか現実的なキャラとなりました。あまりにも汎用性の低いキャラとなった松岡は、ワンポイントリリーフ的な使い方しかされなくなってしまったのです。
話の軸は、「ちょっとおませなサドガール」みつば、「ちょっとHなマッスルガール」ふたば、「ちょっと不思議な暗ガール」ひとはの三人で回るわけですが、彼女らも回を重ねるごとにキャラが変化していきます。みつばはもぐっ娘(雌豚)となり、ひとはは戦隊物好き、家事全般をこなす器用さを得ました。そして、クラスから浮いていた二人は、キャラがより立つのにともなって、クラスメートと仲良くなっていきます。
1巻の時点ではこんな
(1巻 p93)
だった三人も、5巻になればこのように
(5巻 p55)
みんなで帰るくらいに仲良くなっているんです。
ここで三つ子の性格をあらためて考えてみると、当初からあっけらかんと明るかったふたばは、巻を重ねても質的な変化はあまりなく(父親大好きというキャラはつきましたが、それも明るさの延長線です)、癖の強い性格だったみつば、ひとはは人付き合いがよくなっています。身も蓋もなく言えば友達ができている。そして、6巻の時点で三つ子の中で一番出番が少ないのは、おそらくふたば。
上の松岡の例とあわせて考えてみると、キャラに質的な変化が出ていない、見方を変えるとキャラに幅が出ていない登場人物は、出番が減っているというような状況になっています。
回を重ねれば重ねるほど(ネタに絡まれば絡まるほど)キャラが立ち、キャラが立つからネタに絡ませやすくなる、という正の螺旋があるのですが、それに巻き込まれるかどうかは、当初のキャラ設定にどれだけ他の性格をつけやすい余地があったか、ということだと思うのです。強烈な松岡はともかく、天然色が一番強いふたばも、キャラ付けの余白が少なかったということなのでしょうか。天然は突破力がある代わりに応用性が低いということか。
「みつどもえ」のように、少ないページで繰り広げられるコメディとして「みなみけ」がありますが、こちらはあまりキャラに変化はない気がします。「みなみけ」は当初からキャラ設定がしっかりできていて、登場人物のある側面がまだ作品内で直接表れていない時でも、登場人物の中ではしっかりそれが伏流している、という印象があります。ま、あくまで印象なんでこれが実際そうなのかはわかりませんが。
しかしみっちゃんはいいもぐっ娘ですね。
(5巻 p44)
(6巻 p15)
まったく、とんでもない雌豚だな。ほっぺについたご飯粒はもぐっ娘の勲章だ!
ちなみに私が一番好きなのは眉毛こと吉岡。私の眉毛好きは、西川魯介先生の描く女の子がやたらヒットすることからもよくわかった。
お気に召しましたらお願いいたします。励みになります。
一言コメントがある方も、こちらからお気軽にどうぞ。