- 作者: ツジトモ,綱本将也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/01/23
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- 作者: 日本橋ヨヲコ
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大阪ガンナーズ戦が終わった「GIANT KILLING」ですが、それに続くエピソードとして、椿の過去が触れられました。フリーライターの藤澤が椿の地元に向かって色々話を聞くわけですが、小学校時代の担任から語られた話の中にこんなものがあります。
ただ…… プレーというより取り組む姿勢が とても真面目で一生懸命だった印象があります
んー… というより……
とても思いやりがありました
優しさをもってサッカーに取り組んでましたね(GIANT KILLING 9巻 p161)
同様のことは椿の母親も言っていて、藤澤は「優しさ」という言葉遣いに疑問を覚えます。
優しさ……?
なんでサッカーの話聞いて
優しさなんて言葉が出てくるわけ?(同書 p162)
さて、私自身が同様に「優しさ」というワーディングに疑問を覚えたスポーツ漫画があります。それは「少女ファイト」です。初出は1巻最終話でした。
「兄貴のトスって とりたてて速いわけでもないのにブロックがふられてるんですよね
それが不思議で」
「あーそりゃいいとこ気づいたね――
オニーチャンは 人の動きを優しく操れる人だからねえ」(少女ファイト 1巻 p224)
このシーンを読んで以来、いまいちこの言葉の意味がつかめなかったのですが、最新刊ではそれの意味を説明してくれるような台詞がありました。
あたしらセッターは アタッカーに決めてもらえるよう あくまでお膳立てするのが仕事
あんたがいいトスだと思っても アタッカーが打てなきゃ 全く意味がないんだよ
ただ それでも思い通りに動かしたいと思うんなら
アタッカーに気づかれないギリギリのラインを探るんだね(少女ファイト 5巻 p100)
相手が気づかないギリギリの線を自ら探る。おそらくそれが、人の動きを「優しく」操るということ。
同様の意味の言葉は、直後のコマでも使われています。
まあ 味方を気持ちよく騙せないセッターが 相手のブロッカーを振れるとは思えないけどねえ
(同書 同ページ)
味方を気持ちよく騙してやること。おそらくそれも、人の動きを「優しく」操るということ。
さて、この意味合いを「GIANT KILLING」で見てみるとどうでしょうか。
#86で、前線を走る赤崎にパスを出す椿ですが、前方に出しすぎてしまったボールに赤崎は追いつけず、ラインを割って相手ボールになってしまいました。ほとんどの人間はこのプレイを椿の凡ミスと片付けていますが、椿のプレイの見方に「優しさ」という補助線を引いた藤澤は違う考えを持ちます。
今のボールは 赤崎に前のスペースで勝負してほしいという椿の意思……
ボールを蹴ることで人とつながってきた……
彼なりのコミュニケーションだわ……(GIANT KILLING 9巻 p181)
それについては、パスを向けられた赤碕も椿に向けた叱責とは裏腹にこんなことを思います。
でも今のボール……
俺がもう少し早く感じてたら……(同書 p180)
ここのプレイに「少女ファイト」の「優しさ」の概念を当てはめてみるとどうでしょう。
「相手が気づかない」ギリギリの線を自ら探る。味方を「気持ちよく」騙してやる。
このカギカッコで括った箇所に注目してみれば、椿の優しさはまだ徹底しきれていないようです。赤崎はパスを受け取れませんでしたし、椿の思惑についても気づいています。その意味で十全な「優しさ」とは言いがたいものです。
ですが、その「優しさ」は次のプレイでは実を結びます。同様に椿から赤崎へのパス。やはりいつものパスよりは前方に蹴りだされているものですが、先のプレイで椿の意思に気づいていた赤崎は、少し早い走り出しで見事そのパスを受け取り、夏木のゴールへアシストしました。ゴール直後のシーンで赤崎と椿が握手をしていますが、これはパスを通して二人の意思が通じ合ったことの何よりの証左でしょう。
スポーツにはあまりそぐわない感じの言葉である「優しさ」。それが現在連載中の大好きな漫画二作品で使われているというのは、面白い話だなと思います。
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