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漫画の話です。

漫画の面白さの「純粋さ」ってのはどういうことか、「宇宙兄弟」を例にとって考えてみる話

宇宙兄弟(4) (モーニング KC)

宇宙兄弟(4) (モーニング KC)

宇宙兄弟」がホントに尻上がりに面白くなっていきますね。一巻の時点では続刊の購入を迷っていましたが、買った甲斐があったありました。


この作品は、ストーリーライン自体は格別目新しい感じがするものではありませんよね。
かつては、弟の先に行くことが兄の責務だと思っていた人間が、いつの間にか弟に抜かれてしまい、日本人で初めて月面着陸を達成するであろう弟に引け目を感じていたのが、なんやかやがあって兄自身も飛行士を目指す。
そりゃあきっと兄・南波六太は飛行士になるでしょう。このストーリーラインならきっとなる。同じ宇宙飛行士物ということなら、「ふたつのスピカ」のアスミだって予想通り選抜にただ一人残りました。それは最早当然とさえ言っていいことだと思います。
でも、その結果が予想できるからって、「宇宙兄弟」や「ふたつのスピカ」の価値が下がるかといったらそんなことはありません。ストーリーが行き着く先がわかっていようとも、そこまでのプロセスが面白い作品であれば、なんら問題はないのです。

今もっとも結末がどうなるかわからない有名どころの漫画といえば、「ワンピース」ですかね。ルフィたちが「ワンピース」を見つけることはまあそうでしょうが、その「ワンピース」がなんなのかがほとんど明かされていないために、それを見つけたことで何が起こるかというのが予想しきれないのです。その意味で、「ワンピース」はストーリーの結末が気になる作品です。目的があることははっきりしているけど、目的がなんなのかははっきりしていないとでも言いましょうかね。

「ワンピース」の例から言を引けば、「宇宙兄弟」は「目的がはっきりしている」作品です。「六太が宇宙飛行士になる」。なんとわかりやすい。
そして、それがわかっていることとは関係なく「宇宙兄弟」のプロセスは面白いんです。
こういう作品をして「キャラが立っている」と言えるのでしょうか。いや、もちろん「ワンピース」だってキャラが立っていますよ。ですが、「ワンピース」はバトル要素を含むアクションファンタジーで、作中の描写はどうしても派手なものになります。それはそれで面白いです。
けれど、「宇宙兄弟」はじっくりとした人間ドラマ。派手さはないけれど、登場人物の心の動きや思惑のぶつかりがしっかり描かれることで、なんというか、濃厚で純粋な「面白さ」がある気がするんです。密度の高い"interesting"とでも言いましょうかね。物語の中に作者が意図している主題以外の面白さ、言葉を選ばずに言えば「雑味」が少ないんです。ひたむきに「宇宙飛行士を目指す人間(プラスするところの弟に対する誇りと憧憬と劣等感をもつ兄)」のを描いているからこその純粋さです。
六太からせりかへの片思いが、恋愛要素も描かれてはいますが、いまのところそれはコメディ以上の効果はもたらしていません。そして、それがいいと私は思います。テーマからぶれない、美味しいところを欲張り過ぎないから作品の濃度が上がるのです。

他に私が好きな作品から考えれば、「少女ファイト」は主人公・練の止まっていた心の成長を描く漫画だと思うのですが、主題の達成が画一的に定められないもののため結末がどのようなものになるか予想し切れません。また、主人公が高校一年であること、そして死んだ姉や幼馴染たちとの関係上、設定の必然として心の成長と共に恋愛要素は物語に大きく関わってきます。そこらへんを全部ひっくるめて「少女ファイト」が好きですし、今年の一押しにも選びましたが、濃度の高い純粋な面白さという点では「宇宙兄弟」、あるいは「GIANT KILLING」に軍配を上げざるを得ません。
過去記事のこれあたりに通じるところのある話かもしれませんね。
「GIANT KILLING」と「SLAM DUNK」の共通点 - ポンコツ山田.com

ちょっとまとめましょうか。
「目的がはっきりしていて、ストーリーもはっきりしていて、そこからぶれることなく主題を追い求める作品は面白い」というように、今日の記事はまとめられそうです。そして、そのような作品はどうしても青年誌、月刊誌などに偏りやすくなってしまいます。というか、週刊少年誌では難しいと言った方が正確でしょう。
四大少年誌それぞれ事情は違いますが、他の雑誌より人気が優先されやすいというのは事実でしょう。単純に、週刊少年誌が各出版社で漫画雑誌のウエイトをもっとも大きく占めているわけですから、そこではなるべく人気重視で数を稼いで、読者の好みが分かれやすくなる青年誌では、あれもこれもではなく固定客をしっかり掴むためにじっくり作品を育てるという事情もあるのでしょう。いや、推測ですけど。

ちょっと中途半端になってしまいましたので、最後の話についてはまた今度詳しくということで。








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