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漫画の話です。

「バクマン。」に見る、非ファンタジー作品の「努力・友情・勝利」。っていうか「努力」。

バクマン。」が非ファンタジー漫画であることは読めばわかるし、小畑先生自身も明言していますが、最近のジャンプ王道漫画としてはけっこう珍しい作品なんじゃないかと思います。最近、というか、私が本誌を読んでいた90年代初頭くらいからそうだと思いますが、割合として少年ジャンプはファンタジー色がある漫画の方が多いですよね、たぶん。
子どもの頃なら「SLAM DUNK」、「やまだたいちの奇蹟」、森田まさのり作品(ジャンプ的王道かというと微妙ですが)、最近なら「アイシールド21」(わりとギリな気もしますが)と、スポーツ作品が多くなりやすいのは頷ける話です。
現在長期連載中のファンタジー、「ワンピース」や「ブリーチ」、「ナルト」と、非ファンタジーの「バクマン。」(や「アイシールド」)。この両者で「友情・努力・勝利」のジャンプ的王道の描き方にどう違いが出るかと言ったら、特に「努力」の部分だと思うんですよ。
まあ「ワンピース」に努力の部分はたいして(ほとんど?)描かれていませんが、「ブリーチ」や「ナルト」には修行シーンによる努力が描かれます。
んでそういう修行って、当たり前のことではあるんですが、私たちの実感とはかけ離れたところにあるじゃないですか。「霊力」にしろ「チャクラ」にしろ、ある人にはあったり感じられる人には感じられたりするのかもしれませんが普通はありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃないんですから。
だから、物語の中で霊力やチャクラを修行で高めたりすることについて、想像するしかないし、想像したところでまず現実が追いつくことはありません。想像してほったらかしにされざるを得ないんです。また、「ワンピース」の修行シーンといって私がまず思いつくのは、ゾロが両腕を水平に伸ばし両端に大岩を乗っけている場面なんですが(どこら辺の話だかは失念してしまいましたが)、あれだって常人の常識をぶち抜きすぎて、もう想像のしようがありません。「ああ、大変なことやってるな」くらいで、想像力のリミッターを振り切っちゃいます。逆に、あんなものを想像して追体験できようものなら、考えるだけで骨折できそうです。バキのシャドーファイトみたいに。
これらの「想像するしかない」努力って、極端な話描いたもん勝ちではあります。「こういう能力持ってるやつなら、こんだけキツイ修行をしても耐えられる」みたいに説明してしまえば、それを体感しようのない、実感しようのない読み手にとっては「なるほどそうなんですか」とうなずく以外にないんです。


翻って「バクマン。」やスポーツ漫画のような非ファンタジーでは、その努力が読み手の想像と実感の範疇にあります。わかりやすい例を挙げれば「SLAM DUNK」の花道のジャンプシュート2万本は、一日に何本一時間に何本と計算してみるとその練習のハードさに寒気を覚えますし、読み手としてもスポーツを一切したことがないという人もそういませんから、大変さを追体験しやすいわけです。
バクマン。」も主人公たちは努力の(できる)人、才能に自覚的な人、秀才ということで、新妻エイジとおそらく対照できるわけですが(本誌を読んでいないので、又聞きくらいの話になってしまっているのはご寛恕ください。あ、そういえば「デスノ」もライトとLが一応そういうスタンスの違いにもなるのかもしれません。描き方の上での秀才/天才という感じで)、その「努力」は、一巻の範囲では、中学生が夏休みをほとんど潰して睡眠時間を4時間しかとらずに漫画を描き続ける、という描写で表されています。やっぱりこれも我が身を振り返れば「すげぇことするな」という風に想像しやすいんです。
これは逆に言えば、非ファンタジーなのにいきすぎの描写、想像してみて「それはちょっと……」と思ってしまうような描写があると、途端に作品から嘘臭さが漂い始めるというか、「今までの現実感はどこへ?」という感じのちぐはぐさが出てしまいます。「アイシールド21」のアメリカ横断はかなりアレなレベルですが、一応それまでの流れの中でコメディに片足突っ込んでる描写が多いこともあって、ギリ許容されている印象があります。栗田の過剰なデブ描写とか、進の異常な馬鹿力描写とか、大田原の凶悪な屁の描写とか、ヒルマの現実離れした行動力とか、あそこらへんのおかげで作品のスタンスが相当絶妙です。
バクマン。」はおそらくかなり地に足着いた世界観、現実と強く通ずるところのある作品世界でしょうから、努力の描写の上限には相応の人間らしさが必要です。なんというか、一般人が想像する限界のちょっと斜め上を行く程度でしょうか、ほどよいくらいに「すっげぇ!」と思わせる描写レベルです。その「努力」があるからこそ、漫画と原作の二人の「友情」は深まり、最終的な「勝利」のカタルシスが大きいものとなるのです。そんなバランスも、今後に注目していこうかなと思います。








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