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漫画の話です。

トラウマスイッチとなる漫画たち

「つまらない」という理由でなく読めない漫画というのが、誰しも一冊はあるのではないでしょうか。あまりに悲しい話だったり、あまりに怖い話だったり、あまりに明るい話で眩しすぎたり、あまりに辛い話で目を背けてしまったり。
例えば私は沙村広明先生の「ブラッドハーレーの馬車」が読めません。詳しく言うとネタバレになってしまうのでざっくり言いますが、内容が単純にきつ過ぎるからです。あそこまで救いのない作品は一度読めばしばらくは「ごめんなさい」です。
同様の理由で押切蓮介先生の「ミスミソウ」も読めません。こちらは購入することもできず、立ち読みでギブアップです。「でろでろ」の押切先生があんな作品を描くのはとても意外でした。
ちょっと意外なところでは片山ユキヲ先生の「空色動画」が読めません。なんというか、この作品は私には眩しすぎます。主人公三人の底抜けな明るさと根暗さ、そして一生懸命さがストレートすぎて、楽しむには負荷が強すぎるんです。それぞれの性質がそれぞれに開けっぴろげすぎて、心のアップダウンが大きいというか。特にヤスキチの感情の振れ幅がきつくてきつくて、彼女のダウナー状態に引きずられると、その後のカタルシスにのめりこめないんですよね。
また、これもなかなか同意を得られないところですが、浅野いにお先生の「おやすみプンプン」が私は無理です。だって怖いじゃないですか、あの作品。
浅野いにおの描く「怖さ」 - ポンコツ山田.com
以前にも書きましたけど、浅野いにお先生には怖さがあると思います。冷ややかな薄ら寒さというか、「こいつ後ろ手にナイフ持ってるんじゃないか」的な恐怖というか。アメリカンな大味な怖さではなく、暗いところから誰かがこっちを見ているような気がしてならない、日本的な思わせぶりな怖さです。
誤解を恐れず言えば、私は浅野先生の作品の登場人物を信用できないんです。変な言い方ですが、いい意味で感情移入ができない。私の理解を絶したところに、浅野先生のキャラたちは造形されてるんです。
内容とは直接関係ないところで怖くはあるんですけど、でも実はあの内容だからその絵とマッチして怖い気もするし。誰か分かってくれる人はいないものか。今のところ従兄弟しかわかってくれません。
で、その従兄弟が読めないと言っていたのが、竹易てあし沙村広明)先生の「おひっこし」。私もそうですし一般的にもこの作品はコメディであると認識されていると思うんですが、彼はこの作品は「読んでて辛い」とのことです。なんでしょう、青春の甘酸っぱさ的なところが彼の変な琴線に触れるんでしょうかね。


ストレートにネガティブな理由で読めない作品なら、比較的に似たような意見を得られるとは思います。上の例で言えば「ブラッドハーレー」とか「ミスミソウ」とか。
ですが、ポジティブすぎるという理由で読めない作品となると意見が分かれるところでしょう。「空色動画」なんかその例ですよね。たぶんこれが読めないって人はそういないと思います。掲載誌を考えれば比較的年少の男子がターゲットでしょうからなおさらでしょう。
「なんか説明しきれないけどとにかくキツイ」って理由なら言わずもがなです。「プンプン」の理解の得られなさはもう覚悟してます。だって自分でも説明しきれないんですから。「おひっこし」が辛くて読めないってのとドッコイドッコイじゃないでしょうか。
自分の変なツボに入って普通の人とは違う印象を受けるってのは、その人固有の体験やら事情やらが大きく関係することでしょう。卑俗な上にどこまで大袈裟なのか分からない例で恐縮ですが、伊集院光のラジオでこんな話がありました。伊集院光と彼の友人たちが集まって「プロジェクトX」のDVDを見ていたら、その中にウォシュレットを取り扱っている回がありました。それまで視ていたのが雪山の山岳捜索隊をテーマにした重い回だっただけに、「便器」や「便座」、「トイレ」などの単語が飛び交うその話は、開発者たちはもちろん真面目に取り組んでいましたし、編集の仕方もコテコテのギャグというわけではなかったのですが、山岳捜索隊とのギャップのために伊集院とその友人たちはゲラゲラ笑いながら視ていたそうです。ですが、一人ラジオ番組の構成スタッフだけは号泣していたそうです。不思議に思った伊集院が彼に聞いてみると、曰く「僕、切れ痔なんで、ウオシュレット作っている人たちがこんなに努力してくれていたことに感動しました」とのこと。普通の人間には笑えてしまった内容でも、切れ痔もちの人間にはとてつもなくありがたく思えたということです。
そうなると、「空色動画」に眩しさを激しく思える私の過去を想像するとなんだか嫌な気分になりますし、「プンプン」に恐怖を覚える自分の事情が私自身よくわかりません。
他人とは違うトラウマスイッチ、あなたにはありますか?








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