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漫画の話です。

『BLUE GIANT SUPREME』大の揺るがなさとその意味の話

新刊が出る度にドキドキさせられる『BLUE GIANT SUPREME』。
BLUE GIANT SUPREME (8) (ビッグコミックススペシャル)
相変わらず演奏シーンはカッコよく、演奏にしびれるお客さんの表情も秀逸。それがあるから、演奏を終えた後に健闘を称えあうメンバーの抱擁も、カタルシス溢れるものになります。個人的には、キメ台詞が一番かっこいいのはブルーノだと思うんですよね。第63話でラファに言ったセリフとか最高です。
さて、主人公の大が自身の目標、すなわち世界一のサックスプレイヤーに向かって真っ直ぐ進んでいることは、特にSUPREMEに入ってからはずっと変わらず続いていることですが、彼のその姿を一言で表現するとしたらそれは、「揺るがなさ」なのかな、とふと思いました。
他のことに脇目もふらないという意味では、珈琲先生の描く『ワンダンス』のヒカリや『のぼる小寺さん』の小寺などとも似ていますが、私はそちらについては「ひたむき」と表現しました。
「揺るがなさ」と「ひたむき」。
私がこの二つの言葉をどう感じ分けているかと言えば、前者は、現在のはるか先にある未来や目標を明確に志向し、そこに向かって進んでいる様子。後者は、すぐ目の前にある楽しさに対して集中している様子。
端的に言えば、見ているものまでの距離です。前者は遠く、後者はすぐ近く。
もちろんそれは良し悪しの話ではないのですが、大の「揺るがなさ」を意識してSUPREMEの1巻から読み返してみたら、大の行動のあまりの早さに驚きました。自身の現況を安定させることを求めず、目標へ続く次のステップがわかったら、躊躇なくそこへと足を踏み出していくのです。
単身ドイツはミュンヘンへ乗り込んだら、拙い英語でライブハウスにアポなしで飛び込み出演交渉。ツテもデモCDもない、どこの馬の骨とも知らぬ東洋人とまったく相手にされない中、運よく知り合ったドイツ人学生がほうぼう手を尽くしてくれて、なんとか見つかった小さなライブハウス。そこで2回ライブをしたら、一人でできることはもうすべてやったと、バンド仲間を求めてミュンヘンを去ることを決意。組みたいと思えたベーシストには一度断られたものの、何度でも交渉するため、彼女が次に行くと言っていたハンブルクへ一路旅立つ。また一人に戻って、ミュージックショップやライブハウスに飛び込んでは彼女を探す……と、2巻の途中まででここまでのことをこなしているのです。
倦まず弛まず足を止めず、世界一のサックスプレイヤーになるために、大は邁進するのです。その歩みの速さは、頑張る人はかっこいいなどといったよく聞くフレーズとは次元の違う、もはや狂気の世界にすら足を突っ込んでいるようにすら思えます。
とはいえ、彼の揺るがなさは、迷わなさとイコールではありません。現在の自分の位置と未来を隔てる長い距離ゆえに、迷うこともあります。でも、彼は足を止めないのです。

分からない。
オレの演奏に足りないモノ… 自問しても答えられないモノが山ほどあって、
分からないことが多すぎて、吹く以外なく…
だからオレは練習してるのか?
吹いてさえいればそれでいいと、練習してる自分に満足してねえか!?
(1巻 第7話)

と、ドイツに来て初めてのライブの出来に不満を覚えながらも、

次こそ―― 次のライブこそスゲエぞ!!
オレは間違っていない! 仙台、東京、ドイツ……
オレは一日だって、間違ってないぞ…!!
(1巻 第7話)

と、不安になる自分を必死に鼓舞し、練習を続けます。

いつもなら身体の一部みたいに感じる楽器が、何故か、遠い。
楽器とボクが少しずつ離れていく感じ…
(中略)
2日間吹き続けて、ボクは初めて、「これがスランプなのか」と思いました。
(1巻 第8話)

と、初めてのスランプにショックを受け、楽器を吹けなくなりましたが、

ドイツに来てから一人の時間が増えて、ボクは色々考えていました。
今までのこと。ドイツでのこれから。
サックスの技術・・・ ドイツでの活躍の場所…
日本にいる家族のことや、友人達のこと
それからボクは、走り出しました。
走って、時々歩いて、走って…
そして日が暮れた頃に、
何もない場所に着きました。
何もない景色を見て思ったんです。
オレ、考えすぎだって…
(1巻 第8話)

疲れ果てるまで歩いた先で、考えすぎていた自分に気づき、雑念を消し去りそもそもの目標をはっきりと思いだせました。
迷って、少しふらついて、今の位置を見失いそうになっても、目標自体ははっきりしているから、すぐにそれを見つけることができる。その意味で、揺るがないのは大自身であるというよりも、彼が掲げた目標だと言えるのでしょう。


巻末のボーナストラックでは、ついにNumber 5の大を除く全員が登場しましたが、物語はまだまだ終わりそうもありません。今後どこまで展開させていくつもりなのでしょうか。7巻で大御所ベーシストのサムが大にかけた言葉は、8巻でのアーネストとラファの件で回収しきったのでしょうか。それともさらに大きな壁が出てくるのか?
楽しみで仕方ありません。



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