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夏の日に少年は男になり、少女は恋をする『子供はわかってあげない』の話

夏の大会に向けて練習に励む水泳部のサクこと朔田美波。休憩時間にふと見た校舎の屋上にあった人影が気になって、練習後にそこへ走れば、いたのは去年同じクラスだった書道部のもじこと門司昭平だった。二人ともアニメが好きということが知れ、仲良くなる二人。ある日サクがもじの家まで行くと、とある新興宗教のお札をたまたま見つけた。そのお札は5歳の頃に別れたサクの実の父親に繋がるものかもしれなくて・・・・・・。そこから始まる、小さくも大きな一夏の冒険。

ということで、田島列島先生『子供はわかってあげない』のレビューです。
一学期の終業式間際から夏休みが終わるまでの、夏の数十日間。学生たちが心弾ませずにはいられない夢のようなひととき。もう過去のものになってしまったあのわくわくを思い出させてくれる、というかこんな高校生活送れたらクッソ楽しいだろうなと思わずにはいられない、すばらしい作品でした。
なにより特筆すべきは、作品全編を通じて漂うふわふわわくわくする空気。第一話はサクがプールに浮かんでいるシーンから始まるのですが、本作を読みながら感じる空気はそれによく似ていて、何も遮るものなく見通せる青い空の解放感だとか、身体と水との境界が融けてなくなっていく浮遊感だとか、疲れた身体が何物にも束縛されずに放り出される快い倦怠感だとか、夏のプールの心地よさを全て詰め込んだようなこの空気。書き込みの薄いポップな絵柄によるものなのか、細かく挿入される地口やパロディなどの小ネタによるものなのか、軽妙な台詞回しによるものなのか、深刻なことでも深刻にならずに描き出す語り口によるものなのか。おそらくそれらが絶妙に絡み合って、この他では得難い空気が生まれているのだと思うのです。伊坂幸太郎先生の『重力ピエロ』で、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という一節がありますが、それを地で行くかのような陽気さです。
第一話はweb上で試し読みできるのですが、それは本当に軽い導入部。サクともじの紹介をして、ちょっとドタバタしたお話だけといえばだけなのです。でも、二話になると話は動きだします。五歳のときに別れたサクの父親と、門司家のとある事情が交錯して、にわかにストーリーに深刻さが加わるのです。けれどこの作品で素晴らしいのは、上で書いたように、話に深刻さが加わろうとも空気はちっとも重くならないところ。実の父との久しぶりの対面や、それを家族に知られたら今の幸福な過程が壊れてしまうんじゃないかという心配、いなくなった父が抱えていた悩み、もじの兄の悩みなどなど、いじろうと思えばいくらでも重くできそうな物語の要所を重くせず、さりとて軽薄にはならず、風通しのいい展開になっているのです。
高校生の時のあの夏と同じように、もう手の届かないものとして描かれているのが、主人公サクの素直さです。もじ曰くの「ひんまがっていない」女の子であるサクのストレートな感情表現は、怒るも悲しむも喜ぶも困るも彼女の感じたまま。こういう風に生きられたら人生楽しいだろうし、周りの人も楽しいだろうなと思えます。もちろんそれは、彼女の感じ方が周囲の人間を蔑ろにするようなものではないからで、周囲の人間も実際に彼女に惹かれているからそう思えるのですが、ひんまがった自分がとうの昔に無くしてしまったそれ、少なくとも高校生の時分には確実になかったそれが活き活きと描かれているのは、ノスタルジーというかなんというか。


ネタバレがさほど問題になる作品ではありませんが、それでもなるべくクリティカルな部分は言わないようにするとどうしても奥歯に物が挟まってるような書き方になってしまい、この作品の魅力を十全に伝えられた気がしないのが残念無念。とりあえず、試し読みの第一話はぜひ読んでもらいたいし、それがお気に入れば即本屋に走るかポチってほしい。第一話の空気が好きなら、以降の意外な方へ進むストーリー展開の中でも失われないそれに感動できると思います。
子供はわかってあげない/田島列島 モアイ
3巻以内でお薦めの作品と問われたら、『レベルE』、『ぼくらのよあけ』、『G戦場ヘヴンズドア』に並んで挙げます。すごい好き。


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