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今日少女は異形の魔法使いの嫁になる 『魔法使いの嫁』の話

幼い頃から超自然の存在を当たり前に目にしていた羽鳥智世は、それゆえにか周囲から浮き、父は行方知れずとなり、母は彼女の目の前で死んでいた。独りとなり、親戚からも世話を拒否された彼女は、15歳になったある時、とある男の言葉に乗り、自分自身を裏オークションへ出品した。そこで彼女を買ったのは、エリアス・エインズワースを名乗る、山羊の頭蓋骨の頭部を持つ異形の魔法使い。智世を“夜の愛し仔スレイ・ベガ”と呼ぶエリアスは、彼女に告げる。僕は君を弟子に、そしてお嫁さんにするために買ったんだ、と。
これは、人外の魔法使いと出会った“夜の愛し仔スレイ・ベガ”の少女が、今まで知らなかった世界の美しさを識る物語……

ということで、ヤマザキコレ先生の新作『魔法使いの嫁』のレビューです。
舞台は英国。生活に魔女や魔法使いが根付いた古い魔法の国。そこに住む異形の魔法使い、エリアス・エインズワースに、15歳の少女、羽鳥智世が買われたところから物語は始まります。物心ついた時から、他人には見えないもの、たとえば妖精などといったものが見えていた智世。人は自分とは違う存在を疎外するものですが、彼女もそれから漏れることはなく、友人も出来ず、親とも死別し、その後も寄る辺ない生活を余儀なくされました。ですが、そんな彼女に新たな出会いをもたらしたのが、まさに彼女が疎外される原因であったその力でした。
夜の愛し仔スレイ・ベガ”。
それは、作中の言葉を借りれば「あらゆるものを引きつけてしまうし捉えることができてしまう」「女王蜂」。あるいは「周囲の力を吸収しそれを魔力として蓄積することにとても長けている」「大きなスポンジみたいなもの」。稀にしか持つ者のいないその能力は、「妖精や精霊 幽霊や悪魔の力を借りて起こす「奇跡」」である「魔法」の使い手にとってはとても大事な素質であり、だからこそエリアスは、智世を弟子にしたのです。そして、お嫁さんにも。
異形の魔法使いと薄幸の少女の婚姻譚。
といっても1巻時点では、結婚云々はなんとなくぼかされています。弟子に、そしてお嫁さんにするとはいいながら、むしろ養子を我が家に向か入れたように、エリアスは甲斐甲斐しく智世の世話を焼きます。お風呂に入れ、温かいお茶と食事を振る舞い、清潔なシーツの敷かれたベッドを用意し、護身のための魔術符を与える。そしてエリアスは告げるのです。「僕は君が魔法使いになれるように誘導するけれど それ以外のことでも僕は協力するし 甘えてくれたって構わない 君はもう家族のようなものなんだから」。
家族。
幼少のみぎりから孤独と親しんできた智世にとって、それは縁遠いものでした。親とも早くに別れ、だからこそ、人買いのような、というか実際売られているのですから「ような」ではないのですが、男の言葉にも乗って、我が身を売り出しさえしたのでした。そんな彼女に投げかけられた「家族」という言葉。相手は初対面の、異形の、魔法使いなのに、その言葉は智世の心にじわりと染み入りました。
迎え入れられる。温かく遇される。「ここにいていい」と言われる。どれも彼女が求めてやまないものであり、それらを、おそらく生まれて初めて与えてくれたエリアスに、多少捨て鉢ではありますが、信頼を寄せずにはいられなかったのです。
こうして始まる彼と彼女の生活。妖精などは当たり前のものとして見ていたものの、意図して使われる魔法や竜などを初めて目の当たりにした智世は目を丸くしっぱなしなのですが、その反応は大仰なものでなく、驚き深い息をつく、といったもの。このような彼女反応や、エリアスら魔法使いが見せる「奇跡」の静けさ、超自然の存在らがもつ、時間の感じ方が人間とは違うような空気。それらの表現から受ける作品の印象は、まるで湖や土の湿り気が少しだけ混じった微風がそよぐように穏やかなもので、しんとした中で耳朶をくすぐる空気を感じるかのようです。かなり好き。
「血の繋がりも何もないのに 知らない人ばかりが優しいなんておかしいな」
そんなことを心中呟くような寂しい少女智世と、骨頭ゆえに何を考えているか全然わからないエリアス。不思議なことが当たり前のものとして存在しているお伽話のような世界で、この二人の弟子と師匠しての、そして妻と夫としての生活が今後どうなるのか。続刊が楽しみです。


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