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『バガボンド』『戦国妖狐』「笑う」者の強さの話

以前『バガボンド』と『戦国妖狐』を関連させて「自由」と「運命」について記事を書きましたが(『バガボンド』『戦国妖狐』決定された運命と自由の話の笑顔)、今日は同じく両作品から考える「笑顔」についてのお話。

バガボンド(34) (モーニング KC)

バガボンド(34) (モーニング KC)

戦国妖狐 9 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 9 (BLADE COMICS)

戦国妖狐』内で別格のキャラ付けをされている、室町幕府第13代将軍にして剣聖・足利義輝公。最強レベルの戦闘力を持ちながら、以前の記事でふれた「運命」への自己の意思の決断に基づき、未来視で見えた自らの死を選び取り、早々に物語の舞台から姿を消しました。その綺麗すぎる撤退劇のために、彼の存在感はより強固になり遺ったと言えますが、第二部の主人公である千夜に対する影響力は特に強いものでした。
千夜の記憶喪失で始まった第二部でしたが、自分がどのような存在か、そんな自分が何をしてしまったかに悩んでいた千夜に対して、義輝公は何でもないことのように言いました。

「白童子 お主 人になりたいのか? 人にしか見えぬが かたわら?」
「おれはバケモノです」
「御前は人だ ただの力持ち」
「せ 千体の闇を埋め込まれ 自在にバケモノに変われるこの身 もはや人では」
「千体の闇を埋め込まれ 自在にバケモノに変われる体質の 人であろう 何を言っておるのだ?」
戦国妖狐 8巻 p101〜103)

その場にいた真介が「あれは本当はおれが言ってやらなきゃいけなかったこと」と落ち込んだように、文字通りの「人でなし」である自分に悩んでいた千夜が一番欲していた言葉がそれなのでしょう(もしくは月湖がいった「ありがとう」)、後に記憶を思い出し、過去を受け容れた上で、自分がどうあればいいのか、どうありたいのか彼は実感しました。しかし、それを実感したからこそ戦いの日々あそこに戻りたくないと言う千夜に、義輝は言います。

笑え!! はっはっは!!
笑うことは心がなければできぬ 笑っておる限りお主は兵器には戻らん
生くるを楽しめ 何かを極めるには楽しむことを忘れてはいかん しかめっ面して努力だ根性だ言ってるうちは 真髄はこちらを向いてくれぬものだ
ほれ はっはっは!!
(9巻 p47)

と、ここで義輝公は笑うことの大事さを説き、以降の千夜は折に触れそれを思いだし、実践しています。ムドとの戦いの最中にも、「楽しもう おれの知ってる武の極みは 笑顔だ」と義輝公(と道錬)を意識しながら言い、十数年あるいは数十年の治の未来の千夜も、雪山で豪雪に吹かれながら「皆が私に遺していった温かい何か」を思いだしては笑顔を浮かべるのです。
で、その笑顔はじゃあ『バガボンド』でどう現れているのか。
武蔵が考える数名の天下無双たち。そのうちの一人である柳生石舟斎の幻影は、同じく天下無双の一人である宝蔵院胤栄と共に出てきてはあれやこれやと武蔵に小言をくれたりするのですが、その最期の一言が

武蔵 笑え
もっと笑え
バガボンド 32巻 #281)

でした。
伊藤一刀斎との戦いの最中、「自分こそが天下無双」という我執に囚われながらそれに違和感を覚えた武蔵に、「おぬしの中にもう答えはあるんじゃろう」と言いながら伝えた言葉です。武蔵が目指す「天下無双」はなんなのか。それはいまだ明確に示されず、というより明確に示されることも無いのでしょうが、それの理解の一助になることには違いないでしょう。
思えば石舟斎も胤栄も、その強さとは裏腹に穏やかに、あるいは呵呵と笑う人間でした。彼らの師であるところの上泉伊勢守秀綱(彼は『戦国妖狐』でも、名前だけではありますが、義輝公の考える強者として登場していました)も、柔和な笑顔を崩さない人間でした。また、石舟斎が「あれこそ天下無双」と評する伊藤一刀斎も、機嫌の良し悪しを包み隠さず、楽しい時は実に嬉しそうな(それでいて凶悪な)笑顔を浮かべていました。そして聾唖の剣士・佐々木小次郎も、天衣無縫の笑顔を絶やさない男です。強い男達は、笑っています。
実は武蔵自身も、その強さが現れるときには笑顔が浮かんでいました。わかりやすいのは対胤舜再戦で、以前は圧倒したにも関わらずまるで生まれ変わったかのような威圧感を発する武蔵に気圧される胤舜と、それとは対照的に「俺は自由自在だ」と言いながらうっすらと笑みを浮かべる武蔵。勝負は、胤舜の十字槍の突きを皮膚一枚で見切った武蔵が、懐に一気にもぐりこみ一撃で昏倒させたのですが、その後の武蔵はまるで憑き物が落ちたように取り乱し、倒れた胤舜を狂乱状態のまま打ち据えつづけました。余裕さえある笑顔の武蔵と、狂乱の武蔵。笑顔でいるものの強さ、それは単純に武力という意味でなく、武蔵が追い求める「天下無双」が備える強さと言えるのでしょうが、それを如実に示す戦いでありました。
「運命」と「自由」で、類似であるようで対極であるような、そんな繋がりを見せた両作品でしたが、こと「笑顔」については、強さという点できわめて似通った意味を与えていました。探せばまだきっと色々あるんだろうな。
ということで、これが本年最後の更新となるでしょう。今年もご愛顧ありがとうございました。来年もまたぼちぼちやっていきますので、どうぞよろしくお願いします。



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