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ヤマシタトモコに見るコマ送り技法による心理描写の話

コマ送り技法は以前の記事で、キャラクターの視点に同調させたり、読み手の時間を操作したり、あるいはシュールな笑いを生み出したりということを書きましたが、
「よつばと!」に見るコマ送り技法のニュアンスの話 - ポンコツ山田.com
「よつばと!」コマ送り技法による読み手の時間操作の話 - ポンコツ山田.com
「苺ましまろ」に見るコマ送り技法によるシュールな笑いの話 - ポンコツ山田.com
キャラクターの心理を緻密に表現するためにも使われていることがあります。今日はそれをヤマシタトモコ先生の作品で見てみましょう。
まずはわかりやすいところでこれ。


(「夢は夜ひらく」p154)

YES IT'S ME (マーブルコミックス)

YES IT'S ME (マーブルコミックス)

このシーンは、1コマ目の右に僅かに映っているキャラクターの向かいに座っている女性(画像に描かれている主人公たちが入った飲食店でたまたま隣に座っていた、無関係の客たち)が前のページで「あたし 本当は元々男なの」という告白を友人(1コマ目で左肩だけ描かれている女性)にした直後です。
その話に思うところあるらしいこちらを向いている女性は、隣りの会話に耳をそばだて、何事か思案し、湯呑みを口に運ぶ。描こうと思えば1コマで、あるいはもっと小さいコマ群で描けるであろうこのシーンを、セリフや背景を省き、カメラ視点の移動もさせず、贅沢に1ページ丸々使う、つまり余計な情報を増やさず女性の所作・表情にのみ読み手の意識を集中させることで、何かを考えているであろう彼女の心理推移について思いをはせさせるよう仕向けているのです。


(「嗚呼ボーイフレンド」p115

薔薇の瞳は爆弾 (ビーボーイコミックス)

薔薇の瞳は爆弾 (ビーボーイコミックス)

同様の例です。同性の友人に告白しようと覚悟を決める男性の表情の変化が、コマ送りによって細かく描かれています。



(「恋の心に黒い羽」p112,113)

恋の心に黒い羽 (MARBLE COMICS)

恋の心に黒い羽 (MARBLE COMICS)

こちらの例は2ページに亘ってのコマ群ですが、コマ送り的に描かれているキャラクターの動作と、背景に直接書かれる独白がリンクしていて、この動作の時にこの言葉、という関係性がわかりやすくなり、特に最後、膝から崩れるシーンでのキャラクターの心理がより鮮明になっています。


動作を視覚上でシームレスに表現することのできない漫画というメディアは、それを逆手にとって、コマごとに動作・セリフを切り取り、その連続性を読み手に委ねることで、読み手による想像の余地を広げるというメリットを得ましたが、コマ送りは、そのメリットをある意味では放棄するような手法だと言えます。にもかかわらず、それをすることで得られるまた別のメリットがある。コマ送りをすることで生み出せるニュアンスがある。今回の場合は、コマ送り手法を使うことで、視覚的情報の変化が少なくなり、だからこそそのわずかな情報の変化(主に表情)に注意が向く。そういう理屈かと思います。
前回の記事ではヤマシタ先生のフキダシに触れましたが、他にも掘り起こせば、面白い表現が見つかるんじゃないかなあと思ってます。



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