2巻も最高だった『ポンポさん』。
とはいえやっぱり1巻も最の高。綺麗に完結した一冊の中に起承転結をぎゅっととじこめており、作中のポンポさんの嗜好通り、「シーンとセリフをしっかり取捨選択して 出来る限り簡潔に 作品を通して伝えたいメッセージを表現」している作品と言えます。
シーンやセリフを取捨選択する中で大事なのは、どこでどう盛り上げるかを明確に意識すること。取捨選択され数を減らされたシーンやセリフだからこそ、ばちっとキメる箇所を作ることで、凝縮された感動を生み出せます。
で、1巻の最高のキメシーンと言えば当然、見開きのカラーページ。ポンポさん自身に「このシーンを撮るためにここまでやってきた」と言わしめたこのシーンは、ストーリーの文脈やキャラクターの描写などによって、作中の映画にとっても漫画の読み手にとっても、盛り上がるべくして盛り上がる印象的なシーンになっています。
さてこのシーン、前述のように、印象的に仕上がっているの複合的な要因によるわけですが、その中でも絵としての構成面に着目してみましょう。
(p132,133)
この見開きで特徴的なのは、主役となるキャラクターが右ページのみにいて、左ページには誰もないこと。ページをめくった読み手はまず、突然色のついたキャラクターが目に飛び込んでくることに度肝を抜かれるのです。
そしてこのシーンは、一見しただけではわかりづらいですが、風が上手から下手、右ページから左ページに向かって吹いています。それは、わずかにそよいでいるキャラクターのシャツの裾、前のページでは明確に描かれている髪の動きなどから察せられます。花びらが風に舞っていく向きもそれだけではわかりづらいですが、この微細な情報があることで右ページから左ページへ吹かれていくように認識できます。
つまり、読み手の視線はまずキャラクターに吸い込まれ、はっと息を呑んだ後に、風に飛ぶ花びらと一緒に、空間しかない左ページへと流れていくのです。
そこで終わりではありません。見開き下部には「ザアアアアアアァ……」という擬音が書かれています。これの向きは、日本語の横書きの記法に倣って左から右へ。つまり、上で挙げた視線の移動方向とは反対であり、絵を見ていく方向と文字を読んでいく方向でぶつかってしまいそうなものですが、このシーンの場合はさにあらず。なぜかといえば、文字が下部に書かれているから。
原則的に、一枚のページの中では右上から読み始める(第一のコマが右上にある)日本の漫画の都合上、このシーンで読み手の目にまず飛び込んでくるのはキャラクターの顔。絵の中でも特に情報量の大きい箇所です。それゆえ、人は下部の文字より先にキャラクターの絵、なかんずく顔→全身と視線がいき、そこから風の流れに乗って左ページへと進みます。仮にページを移る前に下の文字を目にしても、右ページに書かれているのは「アアアァ……」というそれだけでは実質的な意味のない文字列。左ページの「ザアアア」があってはじめて、この文字列は風が吹く擬音だとわかるものです。
というわけで、ほとんどの人の場合、まずキャラクターに目がいき、右から左へと視線が移るものと思います。絵を追って右から左へと進んだ視線は、今度は文字を追って左から右へとページを回帰します。文字を読み終えれば今度は、文字の最後に部分からのびるキャラクターの脚に沿って、またキャラクターの顔へ。こうして読み手の視線はこの見開きの中で大きく一回りするのです。
右上から左下へと一方向的に読み進められる日本の漫画の中で、二重の意味で作中でもっとも印象的となるこのシーンにおいて、大きく円を描く特異な視線誘導をほどこすというこの構成力。そりゃあ何度でも読み返したくなる魅力でいっぱいってなもんです。
このマックスで盛り上がるシーンから、ほんの10ページ程度で終わるのがまたいいですよね。そして最後ににやりとできるジーン君の一言。余韻醒めやらぬうちにすっきりとエンディングというのが、本当にエンターテインメント。
3は出るのかな。出たら蛇足かな。でも読みたいな……
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