- 作者: ペトス
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (7件) を見る
それはともかく、2巻で私が心に残ったのは第11話です。双子のバンパイアの姉を持つ小鳥遊あかりが、その姉(を含むデミたち)に興味を持っている主人公の生物教師・高橋鉄男とたまたま下校のタイミングが重なったので、かねてより気になっていた、姉と親しく接している彼は、姉そものではなく姉のデミとしての部分に興味があるだけなのではないか、という疑念を晴らすべく、かまをかけるようにして「姉の『人間性』についてはそれほど興味はありませんか」話を振ってみたのですが、それに対して鉄男はこう答えました。
確かにあいつは『バンパイアの性質』に即した行動はあまりしない
だがそれでバンパイアらしくない と言われると
…それは違う
ひかりは人から血を吸いたい気持ちはあるがパックで我慢している
またバンパイアの嗅覚を上回ってなお匂いの強い食べ物が好き
そういった『人間性』があいつのバンパイアらしさ であり人間としての個性 だ
らしさ は生まれ持った『性質』ではない 『性質』をふまえてどう生きるかだ
(中略)
『亜人 の性質』だけ見ていると個性を見失う
『人間性』だけを見ていると悩みの原因にたどり着けない
どっちも大切だ
バランスが大事なんだ
オレはそう考えている
(亜人ちゃんは語りたい 2巻 p28〜31)
この彼のセリフを念頭に置いて、改めて1巻から読み返してみると、随所にそのような描写があります。すなわち、亜人の性質とはあくまで体質的なもの、たとえば海苔を消化できるのは日本人だけとか、ヨーロッパ系の人種はお酒に強いとかそういう類のものであり、各々の性格や趣味嗜好、その人らしさとは、性質そのものを指すのではなく、性質を踏まえた上で、そしてその他の体質や環境等も踏まえて発露しているもの、という描き方がされています。
たとえば、第4話でデュラハンである町から、頭部を抱きしめてくれないかとお願いされた鉄男は、彼女のことをこう分析しています。
デュラハンは頭だけでは身動き一つとれない
移動するには自身の身体にしろ人肌に触れる必要がある
つまり孤独を嫌うこと自体がデュラハンの性質であり
言い換えればさみしがりであり
デュラハンちゃんはまだまだ甘えたいのだ
(1巻 p62)
デュラハンは、頭部とそれ以外の身体が分離しているデミです。それゆえ、上で鉄男が思ったような身体的な性質があり、そこから、さみしがりで甘えたがりという「町らしさ」が導かれています。
町自身もその点を自覚していて
私デュラハンだから…… こうやって抱えられてるときが一番安心できるっていうか……好きなの
だから その… 好きな 人に… 抱えられてぶらぶらできたらいいなって…
(1巻 p70)
と、希望のデートプランを語っています。甘酸っぺえなあ。
また、気を抜くと他者を催淫してしまうサキュバスの早紀絵先生は、その性質ゆえに、恋愛に対して懐疑的になっています。
世間で言う恋愛関係を構築するのは難しくない… それこそ派手な格好をして外を歩けば―― 異性は好意を持ってやってくる…
ただそれは本当の恋愛ではないと思う
その好意はニセモノだと…
……
でも私が異性を好きになったとき その気持ちは異性が私を想う気持ちと何か異なるのだろうか……
何も違わないとすれば……
私の気持ちもまた――……
(1巻 p89,90)
「性欲の亢進」という性質から、人付き合いに対して臆病になっている早紀絵先生。それもまた彼女らしさです。
このように、町や早紀絵先生は、自身の性質と、そしてそれを踏まえた上での自分の性格に自覚的なのですが、雪女のデミである雪はそうではなく、2巻ではそんな彼女にスポットが当たりました。すでに1巻の時点で、彼女がデミである自分自身に苦しんでいる話は出ていましたが、いわばその解決編です。
高校に入学するときに田舎から上京してきた雪は、急変した新しい環境に不安を覚え、鬱々とした気分で入浴していました。すると気がつけば、湯船の中に氷の小片が。それはすぐに融けたものの、彼女は恐怖に駆られました。ひょっとして自分が発する冷気は、お湯を凍らせるほどのものなのでは、と。
……怖いんです 結局自分が
どれくらい 危険なのかわからない……
それがわかって他人に伝えられれば 胸を張って“私は雪女だ”と言えるのに……
(2巻 p43)
自分が知らぬ間に誰かを傷つけてしまうかもしれない。自分がどういう人間かがわからない。その恐怖、不安が、彼女をひどく傷つきやすいものにしていました。
自分の陰口を偶々聞いてしまった雪は、その誰にも起こりうる事件に大きく心をえぐられます。もちろん、誰にも起こりうるかとら言ってそれが人を傷つけない理由にはなりませんが、傷ついた彼女の様子は、それなりの期間教師生活を続けてきた鉄男から見ても、度を越しているようでした。落ち込む彼女のフォローをしようとする彼の言葉を食うようにして、「私が亜人だからですかね…?」と、苦悶の言葉を絞り出しました。
ひかり 町 そして佐藤先生もそうだろう
今まで出会った亜人たちは その性質を受け入れて生活していた
だが当然 亜人であることに折り合いがつかず苦しむ子もいる 当然だ
(1巻 p109)
この、デミであることと折り合いがつかない雪に、うまく折り合いをつけさせたのが、2巻最大の山場だったのですが、その時の鉄男の説明も、雪が悩む雪女としての性質を具体的に明らかにするものでした。雪はその説明を聞き、自分の性質を踏まえられて初めて、雪女として胸を張って生きられるようになったのです。13話ラストの、自信に満ちた笑顔で「私 雪女ですからっ!」と言った彼女の姿が、その何よりの証左でしょう。
ところで、サキュバスの早紀絵先生や、雪女の雪は、名前と亜人の関連性を見て取れるのですが、ひかりと町はなんなのでしょう。ふと思ったのが、町の場合は、「町」という漢字が、頭部(田)を持っている人(丁)を横から見た象形文字なのではという仮説。2巻の表紙とか、それっぽくないですか?
ところでその2、地味かわいい女子高生に辛い話を音読させながら足湯をさせるって、ちょっとした女子高生リフレですよね。どこでいくら払えば体験できますか?
一言コメントがある方も、こちらからお気軽にどうぞ。
ツイート