全中女子バレーで優勝の立役者となった、兼子武蔵。弱冠14歳にして180cmを越す身長から繰り出される強烈なスパイクは、高校ひいては実業界からも熱い視線が送られていた。だが、全中優勝時のインタビューで武蔵の口から爆弾発言が飛び出した。
「バレー辞めます」「部活なんて必死に続けても意味ないから」
それから7か月半、彼女は兄が在籍している大仙高校に入学していた。そこにはバレー部はなかった。ないはずだった。けれど存在していたバレー同好会。バレーはやらないと公言する武蔵を執拗に誘う同好会主将の律は、彼女に勝負を申し込んだ。「私が勝ったらあなたの一年を私にちょうだい」と。その勝負を受けた武蔵は……
- 作者: 田中相
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/02/06
- メディア: コミック
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中学生離れしたアタッカーとして、所属している中学を全国優勝に導いた武蔵。チームメイトからの信頼は厚く、周囲からの期待も大きく、将来を嘱望されている選手です。しかし彼女は、いつしか見失っていました。勝った時の喜びを。負けた時の悔しさを。そして、バレーをすることの楽しさを。
全中で優勝して、沸き立つ観客や喜ぶチームメイト、泣いている相手チームを見ても、彼女の心の中に湧きあがるのは、それらを遠くに感じる疎外感。足元から膝へ、腰へ、胸へ、口元へと、暗い感情の波は水位を押し上げ、武蔵を息苦しさの中に閉じ込めます。異例である優勝インタビューにてマイクを向けられた武蔵は口を開きましたが、暗い水は身体の中に勢いよく滑り込み、彼女の心を満たしていきました。そして飛び出たのが「バレー辞めます」「部活なんて必死に続けても意味ないから」の爆弾発言。そして実際に、武蔵はバレーを辞めたのでした。
時は流れ、武蔵も高校生に。入学したのは、兄と同じ大仙高校。友人の三好るなと、どんな高校生活を送ろうかとのんびりとしたことを話していると、校庭で行われていた部活勧誘で、バレー同好会に声をかけられたのでした。しかし大仙高校のバレー部は、顧問の体罰問題で前年になくなったはず。武蔵が入学したのもそれが理由の一つにあったのですが、けれど数名の元部員が、同好会としてなんとか存続させようとしていたのでした。
武蔵を何とか入部させようとする主将の律は、彼女を挑発するように言葉を投げかけます。
「ねぇあなた その生活で楽しいと決めたの? ほんとに?」
楽しさ。それは武蔵が高校生活で求めたものでした。楽しさを感じられなくなってしまったバレーを中学で辞め、高校は自由に、自分の思うままに、何か楽しいことを始めよう、そう思っていた矢先に、律からそんなことを言われたのです。
律は武蔵に賭けを持ちかけました。自分が勝ったら一年間バレーをやれと。意地になった武蔵は、勝負を受けた上で自分からも条件を突きつけました。もし自分が勝ったら律は一年間バレーを辞めろと。
サッカーのPKのように、アタックを交互に決め合う勝負の中で、武蔵は本気で勝ちに来ている律にある種の恐怖すら覚え、知らず叫んでいました。
な なんで
なんでこんなことに そんな本気になるの?
私が入ったところで何が変わるっていうのよ
部活なんてやってもなんにもなんない!
やる意味なんてない!!
(1巻 p83)
律の必死さは、武蔵の理解を超えるものでした。なぜ彼女が、部活に、バレーにそんな必死になっているのか。わからない。怖い。いらいらする。
武蔵の叫びに律が返した言葉もまた武蔵の理解の埒外でしたが、それでも彼女はそこに何かを感じ取ります。その様子は、長年の友人であるるなをして、「あんな武蔵 はじめて見ました」と言わしめたのです。
当然というかなんというか、勝負は律の勝ちに終わり、約束通り武蔵はバレー部に所属することとなりました。いなくなってしまった顧問を探しに奔走するなどの中で、武蔵は少しずつ、中学の時のバレーで見失っていたものに気づきだします。自分はどうしてバレーを面白く感じなくなっていったのか。そもそも自分はどうしてバレーを始めていたのか。自分の「楽しい瞬間」は何なのか。
正直なところを言えば、運動しているシーンは、線が見づらかったり勢いのあるアングルではなかったりと、まだまだ魅力的とはいいがたいのですが、武蔵が、そして他の登場人物たちが、どのような目的でもって、何に価値を見出してバレーをするのか、楽しいって何なのか、などが描かれるであろう期待が大きくそれを上回るのです。続きが楽しみ。
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