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漫画の話です。

ギャグの中にもしっとりが 短編集『虹の娘』の話

 二人暮らしのヒロチカとアキの兄妹。ストリップやヌードモデルでお金を稼いでいるアキには、親に言うことのできない秘密がある。それを知るヒロチカは、いつかは打ち明けなくてはいけないと思っている妹のために、少しずつ根回しをしようとしていて……
 男と女と、男同士・女同士の友情と、家族と。小さな人間関係の中のあれやこれやを描いた、表題作『虹の娘』を含む全8編の短編集……

虹の娘 (Feelコミックス)

虹の娘 (Feelコミックス)

 ということで、いがわうみこ先生の短編集『虹の娘』のレビューです。
 twitter上で存在を知って、ググってみたら1話だけ試し読みができたので読んでみたらこりゃ面白いと購入決意。全編読んでみたらやっぱり面白かったので、こりゃいい買い物でした。
 短いもので10p(『アヒルにホッチキス』)、長いもので34p(『愛され洋輔』『アマネの日記』)と1話当たりの分量はさほど多くなく、内容は基本的に狭い人間関係の中でのお話です。二人暮らしの兄妹であるとか、大学の男女であるとか、友人同士の男子中学生であるとか。幹となっているそれらの人間関係に別の人間関係の枝が伸びてきて、幹がどう揺さぶられるか、というのが基本的な形式ですかね。『るりるり』は9割以上シリアスである一方、『愛され洋輔』はほぼ100%ギャグであるように、各話のギャグ/シリアス比率は大きく違うのですが、トータルで8割くらいギャグのような気がしてしまうのは、きっと私の好きな話がギャグに寄っているせい。
 で、そのギャグの作り方が、にこやかな顔のまましれっとろくでもないことをいう感じで、実に私好みです。最初に掲載されている『阿部くんと吽野さん』、冒頭の男女二人の会話は
「あれ?やせた?」
「やせた」
「へぇ どうやって? 脂肪吸引? クスリ? カルト宗教?」
「殺すぞ」
 をにこやかに喋ってくれています。そういうの大好き。
 『阿部くんと吽野さん』は、お互いに「こいつと付き合うとかないわ」と言い合うような仲のいい大学生男女の友人のお話。上述のようなろくでもない会話を基調にしつつ、吽野さん(♀)の恋愛話を軸として話が進みながらも二人の関係性に話が収束されていきます。わずか18pの中で、ギャグをベースにしながら二人の関係性をうかがわせ、最後のオチでニヤリと、あるいはニコリさせられてしまうような展開はとてもすてき。私はこのお話が一番好きです。
 こういう、しれっとした顔によるろくでもない会話は、ギャグのテンションがいい意味で後に引かないため、とても切れ味がよい印象を持つのですが、それによって、随所にあるしっとりとした人間関係の機微が浮かび上がってきます。冷めたドライな空気を基本とするからこそ、仰々しく描かれることのないしっとりしたもの(というか、仰々しく描いたらしっとりはしないですが)が、くっきりするのです。これは良い温度。
 
 最初にちょっと触れた試し読みはこちら。『くらんくらんくくらんくらん』が読めます。このお話も好き。
FEEL YOUNG編集部BLOG いがわうみこ短編集「虹の娘」1話まるごと試し読み!
 これがまだ2冊目の単行本ということで、今後がとても楽しみなのです。


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