人類がゆるやかに衰退しだしてはや数世紀。種としての役目を終えた人類に代わって地球の主役になったのが“妖精さん”たち。そんな世界で、“妖精さん”との信頼関係を築くことを職務とする調停官(閑職)の女性と彼らとののんびりした交遊録……
人類は衰退しました「のんびりした報告」 (IKKI COMIX)
- 作者: 見富拓哉,田中ロミオ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/07/30
- メディア: コミック
- 購入: 20人 クリック: 399回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
で、作品。読んでまず連想したのは、芦奈野ひとし先生の『ヨコハマ買い出し紀行』。そこで生きている人間たちは、もう人口も文化程度もゆるゆると衰退の一途をたどっているのに、その流れに抗うでもなくのんのんと生きている。「かつてそこに人がいた」という痕跡がそこかしこにあり、そしてそれが痕跡でしかないというところに索漠とした隙間風は吹くのですが、現に生きている人間たちはそれを受け容れているために、寂しさと優しさが同居した作品となっているのですが、本作もその感覚が近いです。
登場する人類は、主人公である調停官の女性と、その上司である彼女の祖父、そして行商人の青年。三人は三人とも、人類にもう未来が無いことを知っていて、それを受け容れていて、次世代の種である“妖精さん”と共存をしています。開発を放棄された自然の中でゴミの山は堆く積まれ、本や書類はもう作られることなくまとめられることもなく乱雑なまま、媒体としてのCDは残っていてもそれを聴くためのオーディオはない、そもそも電気がない。そんな絶賛衰退中の世界。
“妖精さん”たちは、体長せいぜい十数cm。でも、「その小さな体からは想像もつかない、圧倒的な知性と情熱で、一夜にして」「ゴミの山をSFのメトロポリスに創りかえてしまう」ほどの存在。ぱっと見の愛らしさと稚拙なコミュニケーションのために愛玩動物のようにも思えてしまう彼らですが、人類はもう太刀打ちできないようです、
出色は第二話「虹の円盤」。CDを見つけた調停官の女の子が、なんとかそれを聴こうと再生機器をあっちこっち探すお話なんですが、その中で吐露される衰退する中で生きる人間の想いと、それにそっと手を差し伸べる“妖精さん”の振る舞いが寂しくも温かい。
原作者の田中先生も「この一冊で終わってしまうのが惜しまれます」とコメントされていますが、私ももっとこの夏の夕暮れのような薄ら寂しくも愉しい空気を味わいたいと思いました。まったく残念やで……。
他の形態での作品を知っている人がどういう感想を持つかはわかりませんが、私みたく一切知らない人でも十分楽しめるものになっていると思います。お気に召しましたらお願いいたします。励みになります。
一言コメントがある方も、こちらからお気軽にどうぞ。
ツイート