- 作者: 植芝理一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/02/23
- メディア: コミック
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この作品は、基本的に椿明の視点で描かれています。よだれが絆というファンタスティックな主張、スカートの下のパンツに武器として鋏を常備、自分以外の人間関係の構築に無頓着と、謎めいて謎めいてしょうがない卜部にハラハラドキドキしながら、彼女をどんどん好きになっていくのです。幾つになっても異性は謎めいて見えるものですが、それが思春期真っ只中ならなおのこと。相手のことを知れば知るほどわからなくなっていくその不可思議さを、よだれが絆という埒外の発想と重ね合わせ、惑う思春期の恋心を癖のあるエロティックさで描いているのです。
この、異性(恋人)に抱く思春期の謎さ加減を真っ向から描いた作品という事で思い出したのは、とよ田みのる先生の『ラブロマ』でした。
- 作者: とよ田みのる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/09/19
- メディア: コミック
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『ラブロマ』は、基本的には根岸視点ですが、話によってはsideA/sideBと、根岸と星野、両者の視点で一つのテーマについて語られていきます。あることに対する二人の意見の食い違いは、謎というほど大仰なものではありませんが、なぜ相手がそう考えるのかわからない(だから、それを理解したい)という点で、『謎の彼女X』の卜部に対する椿の気持ちと同質のものです。
さて、『謎の彼女X』では、そのタイトルからして椿の彼女であるところの卜部美琴に「謎」のイメージがついて回っていますが、椿にとって卜部がどれだけ謎であり、行動に意外性を感じようと、彼女には彼女なりのロジックが常にあります。ロジックがないのではなく、ロジックがわからないだけなのです。この両者のロジックの差異。椿が卜部のロジックを理解できないのと同程度には、卜部にも椿のロジックは理解できません。椿にとって卜部が「謎の彼女X」であるのと同様、卜部にとって椿は「謎の彼氏X」なのです。
そこらへんは、男女両方の視点が頻繁に登場する『ラブロマ』だとわかりやすいのですが、初対面の人間に人前で堂々と告白できる星野の規範は根岸にとって何が飛び出すかわからないブラックボックスで、感情をストレートに出す根岸の行動原理は星野にとって憧憬すら覚える不可侵の領域です。謎なのは男→女/女→男の一方通行ではなく、お互いがお互いとも謎なのです。
それを意識して『謎の彼女X』を読み直すと、卜部がいっそう可愛く見えてきます。卜部は卜部で、椿に対して謎を感じて、それを知りたいと熱望しているのだと。また、クラスメートの丘や、アイドルの今井百夏など、彼氏である椿以外と接している時の卜部は、存外普通の女の子っぽい仕草や感情を見せています。彼氏(異性)である椿の視点を通さなければ、卜部の謎さはだいぶ薄れるのです。
深淵を覗く時には深淵もまたこちらを見返しているのだと言っておくとなんかそれっぽいですが、あながち見当はずれでもないでしょう。謎である相手のことを知りたいと切望している時には、相手もまたこちらの謎を熱望しているのだとか何とか。
巻末の、居眠りしながらよだれを垂らしているデフォルメされた卜部が実は一番かわいいんじゃないかと思ったりなんだリ。
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