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漫画の話です。

楽しく踊れば一つに溶け合う!高校生ダンス漫画「BUTTER!!!」の話

BUTTER!!!(1) (アフタヌーンKC)

BUTTER!!!(1) (アフタヌーンKC)

高校に入学した荻野目夏は、中学校の頃から夢だったダンス部に入部した。でも、そこは彼女がやりたかったヒップホップダンスではなく、社交ダンス部。不満げに顔を曇らせる彼女だが、副部長である二宮和実のリードによるタンゴは、いっぺんに彼女を虜に。一緒に入部した一年生は、宝塚大好きの掛井(♂)、猫背を直したい柘(♀)、そして夏のパートナーになったネクラのオタク少年・端場。夏たちは、踊って一つに溶け合うことができるのか?


ということで、アフタヌーンで連載中、ヤマシタトモコ先生の『BUTTER!!!』のレビューです。社交ダンスに出会った人間が開眼した踊ることの楽しさを軸に、若き高校生の悩みや鬱積が対比的に生々しく描かれていく好作です。
主人公格の二人、夏と端場は、ともに社交ダンスにはまるっと興味のなかった人たち。夏は「ダンス部」というだけで自分のやりたかったヒップホップダンスと早合点し、端場は中学時代からのいじめっ子(あるいは彼をディスっていたファック野郎)に勝手に入部届を出されてしまった。でも、学校の規則で一学期以上の在籍がなければ退部は認められないため、二人ともいかにも不満げ。目的意識のあった掛井や柘とは大きく違うわけです。
ですが夏は、初めて踊った二宮とのタンゴに今まで味わったことのない感覚を覚えました。音楽をよく聴いて、誰かと一緒に、踊る。経験者である二宮のリードで、夏は戸惑いながらも身体を動かします。
「バターになっちゃいますっ!!」
ちびくろサンボ』の虎さながらに、心も身体もぐるぐる回りながら夏は言うのですが、それを聞いて二宮は苦笑します。
「もっと速く正しく回らないと バターにはなれない」
早く正しく。バターになって溶け合うように。誰かと踊ることは、たしかに彼女へ楽しさをもたらしました。
そして端場。そもそもダンスに興味のない根っからの文化系である彼は、ステップを習うも他の三人より覚えが悪く、それだけで劣等感が募っていきます。そこへ現れたのが、勝手に彼の入部届をだしたいじめっ子(もしくは彼をディスっていたファック野郎)。端場のプレッシャーは最高潮に達します。一度は逃げ出しそうになった彼ですが、いじめっ子(もしくは端場をディスっていたファック野郎)の態度にカチンときた夏は、むりやり端場の手をとり踊りだすのです。しかも、掛井が誤って音楽を流していたi-podに触れてしまい、曲がとんでもなく速いものに。それでも、テンションが昂ぶったまま無理矢理リードする夏につられて端場も無心に脚を動かしていくと、次第にステップも飲み込めてきて、調子に乗った夏が一歩を大きくすると、もうそれはまったく別の踊り。
「こんなのっ ――――お 教わったのと違うっ!!」
と慌てる端場に、夏は笑顔で一言。
「楽しくなくちゃダンスじゃないじゃん!!」
嫌々入部したはずの端場が必死に踊っている姿を見て興醒めしたいじめっ子(もしくry)は部室を去り、踊り終わった端場は息切れする自分に身震いしながら、部長・高岡の「ダンスって楽しいと思わない?」という問いを肯定するのです。


本気でやる。本気を見せる。夏も端場も、今までの人生でそのことにずいぶん遠慮がありました。
ヒップホップが好きな夏も自分から他の同好の士と繋がる勇気はなく、覚えたダンスもビデオなどで見た我流のもの。音楽の趣味も、好きなものなのに他人に胸を張ることができない。他人の目が気になる。特別なことをやってみたい自分と、特別になるのが怖い自分。そして、実はたいして特別じゃない自分。「フツー」な自分。この理想と他人の目と現実のギャップは、祥伝社から刊行されている『HER』のCASE.3、女子高生・西鶴こずえを主人公とする話と通じるところありますかね。
アニメが好きな端場も、仲間内では多弁になれるものの、そうではないところだとどうしても口ごもってしまう。テンプレじゃない台詞を口にすることに慣れていない。夏が好きなものを好きと言えないように、端場は嫌なことを嫌といえない。傍から見ればどう考えてもいじめであることをされても、心を押し殺して嵐が過ぎ去るのをじっと待つ。
ネガとポジの違いはあれど、本心をさらけ出すことができないと言う点で夏と端場は表裏なのです。
夏や端場の葛藤は生々しく、痛々しいものなのですが、だからこそそれを乗り越えて好きなものを好きと言い、楽しいことを楽しいと言えるようになるのにカタルシスがある。それも、誰かと一緒に。一人じゃできないことも、誰かと一緒なら。
2巻♯6で、夏と端場がお互いの思っていることを訥々と話し合った後に、改めて踊った時、前夜の練習で「呼吸を感じろ」と二宮に言われてもいまいちピンと来ていなかった夏が、ターンをしてもらいたいと意識しながら手をとった端場の呼吸を初めて感じ、ハッとした表情でくるりと綺麗に回りました。
『Love,Hate,Love』の「立とうと思って立ってます」でも思ったのですが、この、何かに気づいた瞬間、ピンときた瞬間をヤマシタ先生はとても印象的に描くと思います。何かにピンときて、自分の中で歯車が噛み合った瞬間て、とても気持ちよくて、楽しくて、嬉しいんですよね。その表情がとても活き活きと描かれているのです。
色恋沙汰じゃなくても、誰かの呼吸を感じて、一つに溶けあうように何かをする。それはとても楽しいことです。私はそれを、音楽で知りました。他の人間の呼吸を感じながら、一つの音楽を作り上げる。それは自分と他の人間の意識の境界が曖昧になるようで、一種恍惚となるような楽しさなのです。
その楽しさをダンスで感じる彼/彼女たちを見ていると、年甲斐もなく「ダンスをやってみたいな」と思わされますよ。感染する「楽しさ」を描けるって、すごくいいですよね。


夏と端場の他に、掛井や柘にも悩みがあります。最新刊の2巻では、「猫背を直したい」と言っていた柘の内面が少しずつ露わになってきました。最新号のアフタヌーンでは、一見リア充とも思える掛井の家庭の悩みが垣間見えました。高岡と二宮のバックボーンはまだ明らかにされていません。彼/彼女らが今後どのように動いていき、「楽しさ」を表していくのか。期待が止まりません。
BUTTER!!!(2) (アフタヌーンKC)

BUTTER!!!(2) (アフタヌーンKC)



余談ですが、夏みたいに、ちっちゃくてくるくる動く子ってかわいいよね。では。




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