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『HUNTER×HUNTER』目のハイライトに見る、ゴンのゆるがぬ意志と他のキャラの迷いの話

待ってたぜ!
ということで『HUNTER×HUNTER』の最新巻である28巻。単行本派の自分にとっては、あまりにも長い時だった。「感謝するぜ お前と出会えたこれまでの全てに!!」とかゴンさんとか、聞きたくなくても漏れ聞こえてしまうネタバレに耳を塞いできたが、ようやく前者は理解できた。後者は来月理解できるのだろう。長かった……
で、今日はそのゴンさん、じゃなくてゴンについて。
あ、28巻のネタバレありですので、未読の方はお気をつけなすって。

HUNTER X HUNTER28 (ジャンプコミックス)

HUNTER X HUNTER28 (ジャンプコミックス)

ベイジンにいるカイトを直させるために、コムギを治療するピトーの前に座るゴン。極限まで引き絞るような敵意と集中力で見張るその姿は、プフをして「おそらく敵の中で一番…… こいつがゆるがぬ意志を持っている!!」と言わしめました。
さて、その「ゆるがぬ意志」は言葉だけでなく描写上でどこに表れているかというと、ゴンの目だと思うのですね。ゴンの目に表れるハイライト。これがあったりなかったりするのは、彼を見る他のキャラクターに迷いがあり、その迷いの方向性がゴンのゆるがぬ意志のそれと重なったりずれたりするからだと思うのです。つまり、重なっている時にはゴンの考えがわかり、目にはハイライトが浮かび、ずれた時にはゴンの考えがわからず、ハイライトが消えるのだと。他のキャラクターが迷っているから、ゴンのゆるがぬ意志が際立っているのだと。
以下では、そこらへんの説明をしていきます。
以前、目のハイライトについてこんな記事を書きました。
漫画表現の中の、光を反射しない眼について - ポンコツ山田.com
要点だけを簡単に書き出せば、普段ハイライトが描かれている目からそれが除かれると、該当キャラクターの内心がそれを見る他のキャラクター(読み手)から読めなくなっていることを表す、ということです。
ゴンがピトーの前で座り込んで以来、彼の目は何度もハイライトが消えたり復活したりしてきました。やはり以前書いたように(「HUNTER×HUNTER」から考える倫理と社会の話 ゴン編)ゴンはその天真爛漫な正確と裏腹に(表裏一体に)社会性が薄く、それまでにも何度となく他者からの理解を絶する証しであるハイライトの消えた目、つや消しの目で描かれてきましたが、このシーンからはそれが頻発します。
ゴンは、ピトーがコムギを治し終わったらすぐにカイトのもとへ連れて行けるよう、ピトーの前に座っているだけです。カイトを直すという彼の主張は一貫しているので、その意味で他者からその真意が図れないという事はないはずです。では、なぜこうもゴンの目からハイライト、つまりは他者が推し量れる内心が表れては消えるのでしょう。
まずは、ゴンが座り込んだ最初のシーンです。

HUNTER×HUNTER 26巻 p102)
この時の彼の目には、ハイライトが当てられています。一時間ここで待つというゴンの意志が、誰の(ピトーの/キルアの/読み手の)目にも明らかだからです。
しばらく別のキャラクターにスポットが当たって、次にまたゴンたちに話が戻ってくると、もう彼の目からはハイライトが消えていました。

(27巻 p123)
これは、モラウの監獄ロックスモーキージェイルから抜け出したプフが、現状を把握しようと宮殿に戻ってきたシーンです。ピトーに事情を聴くために、そしてあわよくばゴンを殺そうとするために。
この時のゴンのつや消しの目は、いったい誰からの視線なのでしょうか。誰にとって、ゴンの内心がわからなくなっているのでしょうか。
トーは、ゴンがプフの接近に気づいていたことに気づいていました。そして、それ以上プフが近づけば、ゴンはこちらに突っ込んでくることにも。そうすれば、コムギの命が危うくなることにも。逆から見れば、ゴンはピトーがそう判断するであろうことに気づいていました。いざとなれば自分がそういう行動に出るだろうと気づいているピトーは、これ以上プフの接近を許さないだろうと。そう考えれば、ピトーはゴンの内心をよく読めているのです。コムギの生命を守るということに関しては、共犯的な関係にあるのですから(ピトーは絶対的に、ゴンは守れるものなら守りたい、でもカイトのためには死んでもいいと思っているということで、その熱意には大きな差があるのですが)。
とすると、この時のつや消しの目は、この場の残った一人、プフからの視点によるものと言えます。
実は、プフが同席している時、ゴンの目はほとんどつや消しで描かれています。それはなぜか。
プフはおそらくゴンに次いで、あるいはゴンと並ぶかそれ以上にゆらがぬ意志の持ち主です。彼の意志は、王の為、王の為、王の為。

プフの忠誠心は
その強さ故の脆さを併せ持つ
絶対的な理想が先にあり 修正がきかない
(25巻 p187,188)

「狂信にさえ近いその感情」は、王のためならば他のなにものさえも考慮することはないという確固としたものです。
もちろん他の護衛軍も、王に対する忠誠心はあります。ですが、ピトーは王が王となるためにコムギが必要であると実感し、そのために彼女を、人間を守ろうとしている。ユピーはモラウらとの戦いを経て、自分らより遥かにちっぽけな存在である人間に対して賞賛を覚えた。それらは、プフにとって忠誠心の不純さを示すものです。
そのようなプフにとって、ゴンの内心などどうでもいいものです。一応彼は、ゴンがコムギを助けに来たのではないかと推測していますが、それはさして意味のあることではありません。そうであろうとなかろうと、王に関係がなければ「ただそれだけの事」。ゴンの内心がどうであろうと、ピトーの内心さえどうであろうと、究極的にはどうもでいいのです。
それゆえ、プフにはゴンの内心がわからない。わからないというよりは、理解する気がない。コムギを助けに来たゴンが、実はただそれだけのつもりではないとしても、別にどうでもいい。自分の推測から違ったところで、それ以上理解する気はない。だから、彼から見たゴンの目は、ハイライトがなくなっているのではないでしょうか。

(27巻 p129)
プフに向かってゴンが「黙れ」と言った直後のシーンです。自分の推測を滔滔と披露しているところに、ゴンから鋭く投げつけられた静止の言葉。すぐにプフは麟粉乃愛泉スピリチュアルメッセージでゴンの内心を読み取ろうとしましたが、風下であるためそれも叶いません。麟粉乃愛泉スピリチュアルメッセージを使おうとしたことから、プフにはゴンの内心がわかっていないことが読み取れ、この時のゴンのつや消しの目はプフ視点によるものだと言えるのです。
プフが同席しているシーンでも、ゴンの目にハイライトが復活することがありますが、それはおそらく、プフ以外(ピトーなりナックルなり)の目からゴンを見て内心が理解できたという意味。逆に、つや消しのゴンの目が、ピトーやナックルから見てゴンの内心がわからないという場合もあるでしょうが。
さて、プフが離れ、ピトーがコムギの治療を終えてから。ここらが圧巻のハイライトの使い分けです。

(28巻 p201)
コムギを、同じ人間を、今ようやく命が助かったばかりの彼女を躊躇なく殺すと言い切るゴン。彼の目にはハイライトがあります。そのハイライトはピトーからの視点。彼女には、ゴンが嘘やハッタリでなく本気でコムギを殺すと理解できていました。読み手にとって、このゴンの姿がそれまでの天真爛漫なイメージと隔たっていようとも、ゴンを見ているピトーにとっては、その内心がわかりすぎるほどにわかっている。だからゴンの目には、ハイライトがある。

(28巻 p203)
逆に、ピトーを信じるという情けあるかのような言葉を発したゴン。むしろ普段の彼であれば似つかわしい台詞のはずなのに、その目にはハイライトがありません。なぜかといえば、そのすぐ下のコマのピトー表情にも明らかなように、その言葉が明らかに状況にそぐっていないからです。なぜ、このような極限状況で自分を信じるなどという発言ができるのか。それがピトーやナックルらには俄に理解できなかったからです。
ですが、その疑問も次のゴンの言葉で氷解します。

オレはピトーを信じるよ
だからナックルは オレとピトーがカイトに会うまであのコを頼む
(こいつ… コムギを)
保険人質に使う気か…!)
トーがカイトを元に戻してくれたら すぐに彼女を解放するよ
お前もオレを 信じてくれるだろ?

(28巻 p203〜205)

ゴンの恐ろしい考えを理解した時、ピトーから、そしてナックルらから見た彼の目には、ハイライトが浮かんでいました。ゴンの「信じる」は、情けなどではなく、極めて冷徹な考えの上の言葉だったのです。


ゴンは徹底的にゆるぎません。ピトーにカイトを直させることのみをひたすら照準しています。それに対して、ゴンの前に現れる他のキャラクターはゆらぎます。ピトーは、どうやってコムギを守りつつ王も守るかと、ナックルは、蟻は人間の真剣を汲んでくれる存在なのではないかと、駆除対象ではないのではないかと、大嵐の中に叩き込まれたかのように内心はぶん回されていますが、その上で状況に応じようとしているのです。それゆえ、目的から微動だにしないゴンを見て、自分の考え方との方向性がずれた時に、彼の考えがわからなくなるのです。
ゆるがないから、変わらないからわからなくなるというのも妙な話ですが、「こういう状況なら、こういう風に考えるはずだ」という前提が誰しも意識の中にビルトインされています。目的のために、状況が変われば考え方も変える。そういう前提です。そのような前提があるから、他の人間の考えを推し量ることができるのです。しかし、その前提をゴンは拒否します。自分の目的のために、状況が変わろうともこゆるぎさえしません。ナックルらは自分が持つ前提が当てはまらないために、ゴンは何も考え方を変えていないのに、何を考えているかわからなくなってしまうのです。
それが通用しないのは、同様にゆるがない意思を持ったプフでした。狂信的な彼の忠誠心の前には、ゴンの内心など関係はなく、それゆえ一貫してゴンの目からハイライトがなくなっていても逆に問題はなく、慌てることをしませんでした。むしろ彼の場合、王が自分の理想像から外れるきっかけとなったコムギが死ぬ方が都合がいいのですから、ゴンが暴れようとそのままじっとしていようと、どちらに転んでもかまわないのです。
ゆるがぬ意志は、ゆるがぬゆえに、迷う他の人間からは不可解に写る。内心の推測ができないからこそ、ゴンのゆるがぬ強固な意志が炙りだされる。
目は心を写す鏡だとはいいますが、それは目の持ち主の心だけではなく、それを見た者の心も写す鏡である、とか言っておくといい感じですかね。
さあ、早く来月にな〜れ。



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