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気軽に楽しくじっくり面白い 「良作」4コマ「ベルとふたりで」の話

ベルとふたりで 1巻(バンブーコミックス)

ベルとふたりで 1巻(バンブーコミックス)

珍しく普通のレビュー。


すず ヒト、メス、7歳。
ベル グレートピレニーズ、メス、7歳。
小さな頃から一つ屋根の下で育ったふたりは、お母さんや学校の友人、近所のひとたちを巻き込みながら、ドタバタながらも仲睦まじい日々を暮らしていて。


4コマ漫画です。半年以上前に何の気なしに買ったまんがくらぶオリジナルで一際目を惹いた作品だったのですが、いつの間にか一巻が出ていたとは。
内容は梗概の通りです。ヒト・すずとグレートピレニーズ・ベルのふたりが織り成すドタバタ喜劇。一回の掲載ごとに流れはあるけれどストーリー4コマというほどでもない、さくっと楽しめるタイプのものです。


なんでしょうね、変な言い方ですが誉めどころの難しい作品です。「傑作」とか「佳作」とか「怪作」とか「駄作」とか、作品の程度を端的に言い表す言葉はいくつかありますが、「良作」と呼ぶのが一番しっくりくるような、バランスのとれた作品です。"smart"でも"interesting"でも"cool"でもなく、"good"。いい意味で普通と言うか、普通すぎていいと言うか。


まあそんな抽象的な言葉を並べても何なので、もうちょっと具体的に話を進めていきましょう。
主人公その1・すずはお調子者。基本的に、ネタは彼女の素っ頓狂な行動で転がっていきます。
主人公その2・ベルはベルでお調子者。小さな頃からすずとべったり暮らしていただけあって、

(p59)
実に似た者同士。すずの素っ頓狂な行動をベルがドライブし、逆にベルの素っ頓狂な行動をすずがドライブすることもあります。
ポジションで言えば、ふたりがボケですわな。
ボケのポジションを担うふたりでも対比的なところがあるのですが、それは表情豊かなすずと、基本表情が変わらないベル。
イヌであるベルはそもそも表情を表すパーツが少ないのですが、ネタの中でも顔のデフォルメに走ることはめったになく、無表情なイヌのまま所狭しと動き回ります。
感情と表情が直結しているすずと、しれっとした顔のベル。同じメインのトラブルメーカー(というかトリックスター)なのに対比的に描かれている二人は、ベタとシュールを同時的に体現できているのです。
で、それをとりまく人たち。ボケに対するところのツッコミの人たち。
こんなふたりと一つ屋根の下に暮らす気苦労の耐えないお母さん、学校の友人の常に冷静なアキちゃんに恋のライバルであるレイコちゃん、怒りっぽい兵藤先生、隣人の小説家の沼井の爺さんに子どもの嫁である和美さん。
表情豊かなすずと無表情のベルのボケ役のように、ツッコミ役もハイテンション系とローテンション系に大別できますが、上の軽い説明でわかるように、こちらも両方が揃っています。
また、ボケ役もメインのふたり以外に、獣医のユキ叔母さん、すずとレイコちゃんの想い人でもあるモテモテの浮世離れ少年・ひかる君、ぶりっ子という媚っ子のののか(「月花」と書く)ちゃんと、脇固めもばっちりです。


このように立ったキャラクターが揃っているだけに、奇抜なネタで話を転がすというよりは、キャラクターを転がすことでほどよいネタが生まれるといった感じで、キャラクターは活発に動いているのに作品全体は変なテンションになっておらず、気軽に読めるくせに腰を据えて楽しめてしまうというこの二律背反。


特に私が好きなのは、親友のアキちゃん。

(p17)
見事な無表情キャラ。これだけ冷静さが顔ににじみ出ているキャラもそういまい。素敵などんぐりまなこです。
そして、そんな彼女がいざ感情を出したときが無性に可愛らしい。

(p77)

(p90)
上は運痴な彼女がすずたちの助けを借りて、初めて逆上がりができたシーン。
下はひかる君に想定外の告白をされたシーン。
やっぱりギャップは素敵だね。




さて、幾度となく読み返して楽しめる、ドタバタしつつもほっこり優しい世界観はこの作品の大きな魅力ですが、その一端はタイトルから既に表れていると思うのですよ。つまり「ふたり」の言葉です。
お気づきかもしれませんが、私はすずとベルを一括りで書くとき、一貫して「ふたり」と表現してきました。それはタイトルと世界観に敬意を払ってです。
すずとベルは小さい時から実の姉妹のように育ってきました。お母さんの反応を見ても、ベルはペットである以上に家族の一員と言っていいでしょう。

(p59)
四六時中ひっついているすずとベルは、もはや一人と一匹ではなく、「ふたり」なのです。
英題も小さく書かれているのですが、それは"Bell with me"。主格はすずその人なんです。つまり、すず自身がベルを人格を有する家族として見ているんですよ。第三者的な(外部からの説明的な)視線で「ふたり」と表現されているだけでなく、作中の当事者であるすず自身が、ベルを人格を有する家族として見ているわけです。

これは中表紙のイラストですが、まさに「ふたり」って感じの寄り添い方です。ベルの頭の傾き具合がいい。
作品通して、すずとベルの気の合い方は見受けられます。遊ぶにしても、いたずらするにしても、ケンカするにしても、ツーカーの呼吸ではしゃぎまわっているのです。このおちゃらけた安定感/安心感は心地いい。
基本はドタバタなのに土台にこの安心感があるから、ただのコメディよりも一ランク上の安定感があります。んで、その土台もことさら目立ちはしないものだから、「ハートフル」なんて言葉に回収されることもなくコメディの地をきっちり保てています。このバランスがとても好き。
上でも書きましたが、気軽に読めるくせに腰を据えて読みたくなるこの良作。お薦め。


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